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【ニルヴァーナへの道】泣き叫ぶ子犬たち

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【ニルヴァーナへの道】泣き叫ぶ子犬たち

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第十三章 勝利へ! 絆の力が悪を討つ! 2

<月への港・B2F>

「ぐっ!」
 デヘペロ弟の一撃を防ぎきれず、リディル・シンクレア(りでぃる・しんくれあ)ががくりと膝をつく。
 パートナーのミルゼア・フィシス(みるぜあ・ふぃしす)ともども、力で勝る相手に対してひたすら攻める戦い方をしていては、そもそも命がいくつあっても足りないだろう。
 それでも二人が戦い続けられている理由はというと、まず、ミルゼアに関してはリディルが庇っているからである。
 今回の攻撃も、もともとはリディルではなくミルゼアを狙ったものだった。
 それをわざわざリディルが受け止めようとして、こうなっているのだ。

「リディル! 無事か!?」
 弓を撃つ手を止めて、ルクレシア・フラムスティード(るくれしあ・ふらむすてぃーど)がヒールを唱える。
 これで傷は回復できる……とはいえ、その際に生じる若干のタイムラグを見逃してくれるデヘペロ弟ではない。
「ペロロロロロウウゥー!!」
 この好機を逃すまいと、リディルに向かって拳を振り下ろすデヘペロ弟。
 しかしその時、二人の間に鈴鹿が割って入り、薙刀でどうにかデヘペロ弟の一撃を逸らした。
「くぅ……っ!」
 真っ向から受け止めるほどではないにせよ、受け流すだけでもものすごい衝撃である。
「鈴鹿!」
 とっさにイルがデヘペロ弟の顔面にアシッドミストを見舞い、相手のさらなる追撃を阻止する。
「ありがとうございます、鈴鹿様、イル様」
 表情一つ変えずにそう言って、再びミルゼアとともに攻めに転じるリディル。
 これにつきあわされる周囲はわりとたまったものではないのだが、その甲斐あって、二人の攻撃は着実に成果を上げつつあった。

 一方、こちらにいたもう一体の方はというと。
「これを制圧・捕縛しろって、本気で言ってるのかよ!?」
 羅儀の言葉に、白竜は表情一つ変えずに答えた。
「ええ。ブラッディ・ディバインの関与が疑われる以上、引き出せる情報は引き出しておきたいですから」
「一応、今回は撃退でいいってことになったんじゃなかったか?」
「港と子犬の防衛という観点からは然り。ですがより大局的な視点に立てば、可能であれば捕縛すべきでしょう」
「その判断は誰が?」
「私ですが?」
「だと思ったぜ!」
 そんな軽口を叩きつつも、二人は息の合った動きでデヘペロ弟をかく乱し、また白竜が「天の刃」を使ってすれ違いざまに斬りつけていく。
 デヘペロ弟の異様に分厚い皮膚の前では、小さな刃の効果はほとんど期待できなかったが、それでも「攻撃している」という事実が今は大事なのだ。

 そして。
「リディ! 合わせて!!」
「わかりました、ミルゼア様」
 デヘペロ弟の一撃をかわしつつミルゼアが跳び、その背後からリディルがさらに高く跳ぶ。
 リディルはその純白の大剣を渾身の力を持って振り下ろし、ミルゼアは漆黒の大剣で水平になぎ払う。
 デヘペロ弟に決して浅からぬ十字の傷をつけると、二人は直ちに左右に跳んで道を空けた。

 ――誰のために?
 もちろん、鈴鹿のためである。

「この一撃で……決めさせていただきます!」
 ここまで守りに徹してきた鈴鹿の渾身の力を込めての突きが、その十字の交点部分に深々と突き刺さり――倒れないまでも、かなりのダメージを受けていることは明白だった。

 これに驚いたのが、もう一体のデヘペロ弟である。
「て、テメェらアァ! こんなことして、兄者が放っておくと思うなよオォ!!」
 そんな捨て台詞を残して、傷ついた仲間をかばうようにしつつ撤退していく。
「おい、捕縛しなくていいのか?」
 羅儀の言葉に、白竜はやはり表情一つ変えずに答えた。
「深追いは厳禁です。それにまだ侵入した敵が全て駆逐されたわけではありません」
「……だと思ったぜ」
 そう言って、羅儀はやれやれとばかりに肩をすくめたのだった。





「わたくしは……あまり、見せ場がございませんでしたね」
 ルクレシアの前に立って護衛を務めていた巫剣 舞狐(みつるぎ・まいこ)が、ぽつりとそう呟いた。
 今回は想定よりも敵が少なく、また前の面々が一気に押し込んだため、自分からは仕掛けず護衛に徹したのが裏目に出てしまったのだが……まあ、たまにはこういうこともあるものである。





<月への港・B1F>

「ペロウウゥゥ!!」
 デヘペロ弟の何度目かの攻撃を受けて、ついに最後の三体目のゴーレムが動かなくなる。
 それを見届けて、誠一は皆にこう言った。
「まあ、だいたい見ての通り……ってとこだねぇ。とにかく動きまくってくらわないことと、あとはまぁうまく隙を作ってたたみかける、ってことかねぇ」
「あまり参考にならないまとめをありがとう」
 苦笑するアンヴェリュグをたしなめつつ、永夜がこう続ける。
「とはいえ、それしかなさそうか。隙を作るだけなら俺に考えがあるんで、後はうまくそこにたたみかけてくれ」

 ともあれ、かくして戦闘は再開された。
「これでもくらいなぁ!!」
 そう叫んで、誠一がいきなりカセットボンベを投げつける。
 当然のごとくそれを払いのけようとしたデヘペロ弟だったが、それより一瞬早くオフィーリアが火術を重ね、ボンベを爆破させる。
 目の前で起きた爆発に注意が削がれている隙に、誠一とアンヴェリュグがデヘペロ弟の足元へ飛び込んだ。
 双方の機動力や小回りの差、そして攻撃の間合いなどを考えれば、この状況でデヘペロ弟が取りうる選択肢はそう多くない。
 そして、その中でも最も可能性が高いのが、まとめてなぎ払おうとするかのようなローキック。
 その誠一の読み通り、デヘペロ弟は邪魔者たちをまとめてなぎ払おうとする。
 けれども、二人が待っていたのは、まさにそのタイミングだった。

 デヘペロ弟がローキックの放とうとした、まさにその瞬間。
 永夜が光術を用いて放った閃光が、デヘペロ弟の視界を一瞬だが完全に奪った。
 それにタイミングを合わせ、誠一とアンヴェリュグが同時にデヘペロ弟の軸足を狙う。
「これで倒れろっ!!」
 特に誠一の一撃は脚の腱を狙っての一撃だったが、当初想定していた踏みつけではなくローキックでの攻撃だったため、うまく腱まで断ち切れたかはさておき、いずれにしても倒れるには至らない。
 そこへ、永夜のライフルによるサイドワインダーと、オフィーリアの氷術が追い討ちをかけ。
 ふらつくデヘペロの目の前に、どこからともなく来栖が姿を現した。
「さっきはやってくれましたね……ですが、同じミスは二度ありません」
 先ほどと同じ、スカーレットネイルと真空波による攻撃。
 ただ、先ほどと違うのは……その攻撃を散らさず、全力を一点に集中した、ということ。
「がああああァァッ!!」
 胸元を深く切り裂かれ、痛みに絶叫するデヘペロ弟。
 ……と、その口の中に、誠一が何かを放り込んだ。

 鏖殺寺院特製のおもち状チョコレート爆弾、「テロルチョコおもち」。
 とはいえ、扱いこそ便利ではあるものの、それ単体での破壊力は決して高くない。
 そこで誠一が行ったのが、事前にその表面にびっしりとベアリングの玉を貼り付けておくことだった。
 こうすることにより、爆発そのものの破壊力に加え、その爆発で吹き飛ばされたベアリングの玉が銃弾のように相手を貫くという、さながら簡易版クレイモア地雷のようなシロモノに進化を遂げたのである。

 そんなものが口の中で爆発しては、さすがのデヘペロ弟もたまらない。
 何やらわけのわからない悲鳴をあげながら、ものすごい速さで逃げていってしまったのだった。

「パラミタ一億の可愛い物好きを敵に回すようなマネをするから、こういうことになるのだよ〜」
 満足げなオフィーリアの笑い声が、静かになった通路にこだました。