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【ニルヴァーナへの道】泣き叫ぶ子犬たち

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【ニルヴァーナへの道】泣き叫ぶ子犬たち

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第十四章 怒り爆発! 荒れ狂う黒い旋風 1

<月への港・最下層>

 最終防衛ラインに襲来したデヘペロ弟は、事前に把握していた通り三体。
 しかし、そのうちの一体だけは、他のデヘペロ弟たちとは少し違っていた。
 一回り身体が大きく、しかも額に角が一本余計にある。
「デヘペロ兄弟の次兄……ってとこかしらねえ」
「そうかもしれませんわね。まあ、だとしてもやることは同じですわ」
 瑪瑙の言葉に、セシルはくすりと笑い……かくして、戦いの幕は切って落とされた、のだが。
 デヘペロ次兄の攻撃方法は、一同の想像を遥かに超えていた。

「行ってこおぉいッ!!」
 ギリギリの間合いまで近づいた……かと思ったところで、いきなり残りの2体の片方を抱え上げ、全力でぶん投げたのである。
 狙いはもちろん、防衛ラインの「上」の強硬突破。
「ええっ!?」
 阻止しようにも、空中でこんなものに触れればこちらが弾き飛ばされるだけなのは目に見えている。
「な、なんてムチャクチャな……!」
 そのまま、デヘペロ弟は防衛ラインの後方に胴体着陸し、すぐに起き上がって奥へと向かう。
「このままじゃ、子犬たちが!」
 とはいえ、後ろに行った一体の追撃に気を取られると、残った二体に背中を向けることになる。
「アイン! ツヴァイ! 追撃を!!」
 ひとまず、佑也の指示で遊撃担当の二人が追撃に当たろうとした、まさにその時。

 デヘペロ弟は、分かれ道にあった案内板を見て、子犬たちのいる部屋とは逆の方へと向かっていった。
 ……そう、「ドッグラン」の方ではなく、「秘密結社オリュンポス 秘密兵器開発室」の方へと向かったのである。

「えーと……追撃ですか?」
「いや、前の二体を牽制しつつ分かれ道まで後退だ! そこから先なら通路も狭くなるし、もうあんな手は使えないはずだ!」
 なるほど、仮にあのデヘペロ弟が戻ってきても、防衛ラインを分かれ道の先まで下げてあれば、再び「防衛ラインの前方」に戻すことができる。
 その分、もはや本当に退く先はない、まさに背水の陣となってしまうが……現状では、それ以上の戦略などなかった。





「おりゃああああっ!!」
 真っ向から、玲が巨大な黒い大剣「ゲシュタル」を振り下ろす。
 その一撃を、デヘペロ次兄は手にした武器で真っ向から受け止めた。
 しかしこの大振りの一撃は囮であり、その隙にセシルがデヘペロ次兄の懐に飛び込む。
「下がりなさい!!」
 足元を狙って、左、右の連打から、左のミドルキックを叩き込む。
 巨大な鋼鉄の柱か何かを殴りつけているようで、効果のほどはわからなかったが……効いていると信じる他ない。
 そのセシルと入れ替わりに、霜月が居合いの技で目にも留まらぬ一撃を加え、すぐに下がる。

「く……っ! この程度っ!!」
 もう一人のデヘペロ弟の攻撃を、直斗が得意の防御技術で受け流す。
 真っ向からの力勝負では敵わなくても、正面切って受け止めるだけが「受け」ではないのだ。
 その隙をついて、影から美羽が飛び出す。
「ここならっ!」
 ジェットブーツで加速をつけ、デヘペロ弟の腕を駆け上がる。
 狙うはただ一点、急所の一つである顎だ。

 しかし、敵もそう容易くは仕掛けさせてはくれない。
 狙いに感づいたデヘペロ次兄が妨害に入り、美羽はやむなく腕から飛び降りる。
「さすが兄弟……なのかな? 意外と連携とれてるじゃない」

「そういうことなら、ボクたちだって!」
 フライトユニットを用いて、空中から攻撃をしかけるアインとツヴァイのラグナ姉妹。
 それを鬱陶しく思ったデヘペロ弟がはたき落とそうと腕を振るったが、それはツヴァイが投影した立体映像だった。
「そっちじゃなくて、こっちですよ!」
 振り向いたデヘペロ弟の顔面に、フィンガーマシンガンの弾が雨霰と降り注ぐ。
 さらに、その隙をついて、アインが機晶ロケットランチャーを発射した。
「直撃させます!!」
 狙い過たず、デヘペロ弟の土手っ腹に命中し、吹っ飛ばす。
 追撃を阻止すべく、デヘペロ次兄が動くと……。

「オラオラオラオラァ! 道空けろおぉーっ!!」
 その叫び声とともに、通路の奥からデコトラが突っ走ってきた。
 運転しているのは……もちろん、大鋸である。

 素早くデコトラの進路上から退避した一同に対し、体勢を崩したままのデヘペロ弟を背にしているデヘペロ次兄は回避行動がとれない。
 そこに向かって、デコトラは全速力で突き進み……衝突の寸前、大鋸が運転席から飛び降りる。
「ダーくん!!」
「大鋸!!」
 そのまま、トラックはデヘペロ次兄にぶち当たり、そのまま後ろのデヘペロ弟も巻き込むようにしてなおも突き進み……横合いの壁にぶち当たって、ようやく止まった。

「全く、ムチャクチャをしますねぇ」
 呆れたように言う瑪瑙に、大鋸はニヤリと笑って答えた。
「あいつらのためなら、この程度どうってこたねぇぜ……!」