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リアクション
プロローグ「・の位置」
ここは蒼空学園の校長室。イキモ・ノスキーダの要請を受けて集まった契約者たちへの説明を終え、ほとんどの者たちが遺跡へと向かった、その後である。
「危険も伴うとはいえ、ペット探しか……俺らもいよいよ場末の探偵社みたいになってきやがったな。
まあ、でも依頼は依頼。全力を尽くすさ。なあ、マンボ……ん? おい、どうしたってんだ? 依頼人見つめやがって……知り合いか?」
遺跡へと向かおうとしたアキュート・クリッパー(あきゅーと・くりっぱー)は、動かないパートナーを怪訝そうに振り返った。動かない彼のパートナーは、ふよふよと宙に浮いたまま、じっとイキモを見ていた。
「依頼人殿、名はなんと申されたかな?」
なんともダンディな声を発したアキュートの相棒、ウーマ・ンボー(うーま・んぼー)はイキモを見つめたままだ。イキモもまた、ウーマを見つめている。
大抵の人はウーマの見た目に何かしらのリアクションをするのだが、イキモはまったくと言っていいほど態度が変わらない。それにやや感動したウーマの見た目は、名前から察してほしい。
「イキモ・ノスキーダと申します」
イキモが礼儀正しく名乗りを上げると、ウーマはさらに感激の目をした。アキュートは、そんなウーマをただあきれた目で見ている。
「ふむ。何故であろうか。他人とは思えぬ名前の響き……ありふれた名の中に隠された、奥深き真の意味。名は体を表すと申す。そなたの名、この胸にしかと刻んだ。
この依頼、必ず果してみせよう」
「ありがとうございます!」
2人はそれだけで意気投合し、がっちりと熱い握手を交わした。握手とはいっても、イキモがヒレをつかんだだけだが。
なぜこうもあっさりと意気投合したのか。
ウーマ・ンボー。 イキモ・ノスキーダ。
『・』の位置を変えてみるとよくわかるだろう。
「ごほん! あの、ちょっといい?」
そんなTHE・2人の世界に咳払いをして入りこんだのはルカルカ・ルー(るかるか・るー)だ。ルカルカは依頼の内容を聞いてからずっと思っていた。
動物たちが逃げ出したことには何か理由があるに違いない、と。
だからイキモにも遺跡へと来てもらい、動物たちと話してもらおうと考えた……のだが。
「はい? どうされましたか?」
イキモは工事現場の黄色いアレをかぶり、背中には大きなリュック、そして手にはなぜかツルハシを持っていた。いつの間に?
激しく準備方法を間違えているものの、行く気満々らしい彼に、ルカルカはもとよりアキュート、山葉 涼司(やまは・りょうじ)に火村 加夜(ひむら・かや)も苦笑を浮かべた。ウーマだけは「素晴らしい。その意気だ、イキモ殿」と応援している。
「ま、まあそういうことみたいなんでな。イキモさんのこと、頼んだぜ、ルカ」
「任せて……って涼司は行かないの?」
「私たちは何かあった時のために遺跡の外で待機してます。遺跡の今後の管理についても考える必要がありますし」
加夜が丁寧な口調で答える。たしかに全員が中へ入るのは危険だろう。ルカルカは笑顔で頷く。
「分かった。そっちはよろしくね。あ、ちゃんと涼司にお土産を持ってきてあげるから楽しみにしててね」
「は? 土産って……おい。行っちまいやがった」
「涼司くん私たちも行きましょうか。盗賊たちが中へ入らない様に監視も必要です」
「ん、ああそうだな」
涼司と加夜は並んで歩きだす。
「でも人語が話せる水、なんて珍しいですね。動物たちはその水のこと、どこで知ったのでしょう。イキモさんが語った内容を理解してたんでしょうか。だとしたらイキモさんに伝えたい事があるのかも知れませんね。
涼司くんはどう思います?」
「そうだなぁ。少なくとも俺には、イキモさんが悪い人には見えない。あの目は、本気で心配してた。動物たちにもその想いは伝わってるはずだ。
……加夜の言う通り、何か、言葉じゃないと伝わらないことを、伝えたいのかもな」
「そうですよね。伝わると、いいですね……あ! 涼司くんはペット飼ってたりするんですか?」
2人はその後も仲良く話しながら遺跡へと向かっていった。……このリア充め、とか思ってませんからね!
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