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春を寿ぐ宴と祭 ~葦原城の夜は更け行く~

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春を寿ぐ宴と祭 ~葦原城の夜は更け行く~

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「すみません、遅くなりました!」

 円華が息を切らして控え室に駆け込むと、そこには既に円華を除く全員が揃っていた。

「どうしたんですか、円華さん。何か問題でも?」

 御上が気遣わしげな目を向ける。

「違います、ちょっとパタパタしてる間に忘れちゃって……」
「すっかり『ドジっ子まどかちゃん』ですね」
「あうう――!それは止めて下さい、刀真さん……」

 樹月 刀真(きづき・とうま)の言葉に、円華は『穴があったら入りたい』というように身体を小さくした。
 円華が接待惣役に任じられた経緯(いきさつ)を聞いて、思わず『ドジっ子まどかちゃんだな……』と呟いて以来、刀真はすっかりこの呼び方が気に入っていた。

「プププ……。まどかちゃんだって……。お嬢様が、まどかちゃん――」

 余程ツボにはまったのか、なずなも必死に笑いを堪えている。

「もう、なずなまで――」

「なずな」

「ゴメンナサイ……」

 神狩 討魔(かがり・とうま)に睨まれ、しゅんとするなずな。

「刀真。そろそろ――」
「あぁ、済まない。それじゃ、始めよう」

 漆髪 月夜(うるしがみ・つくよ)に窘められ、表情を引き締める刀真。
 隣室へと通じるドアを開けると、警備担当者の居並ぶ広間へと足を踏み出す。
 これから、警備本部の打ち合わせがあるのである。

 今回刀真は御上に頼まれて、初春祭の警備の総責任者となった。
 城内と城下の警備の全てに責任を負う役目だ。
 本来であればこの役目は、藩の城代家老が任じられるべきものである。しかし、御上は敢えて刀真を選んだ。
 御上は刀真の実戦経験の豊富さと、月夜の作戦立案能力を買ったのである。

「最初に言っておかないとならないことがあります。テロリストから、犯行予告がありました」

 刀真の言葉に、静かなさざなみが起こる。

「テロリストの名は、三道 六黒(みどう・むくろ)。数々のテロを起こしてきた、凶悪犯です」

 六黒の名に、皆がざわめく。

「そこで、警備体制の変更を行います。皆さんの中から何人か、城下の警備に回って頂きます」

 刀真は変更点も含め、警備スケジュールや要点を説明していく。全て月夜の立てた計画である。
 時折月夜に補足してもらいながら、打ち合わせは短時間で終わった。

「では、定時連絡を怠らずに。少しでも不審な事があったら、放置せずに確認してください。ただし、その前に必ず本部に連絡を――。以上です」

 皆、三々五々本部を出ていき、最後に刀真たちが残った。

「どうした、討魔?」

 物思いに沈んでいる討魔に、刀真が声をかける。

「いや……。やはり今回も現れたな。あの男――」
「三道六黒か」
「ああ」

 三道六黒。常に円華たちの敵として現れ、これまで三度刃を交えた男。
 円華たちにとっては、最早宿敵と言って良い相手である。

「城に来るか、城下に来るかだが……」
「城の守りは万全です。もし城に来るのなら、それが彼等の最後になるでしょう」

 自信たっぷりに、月夜が言う。

「今回は人手も充分ですし、準備をする時間もたっぷりありました。それに何より――」
「何より?」

 円華が、オウム返しに訊ねる。

「今回、敵地に乗り込んでくるのは彼等です。今までとは違います」
「確かに。最初に二子島で戦った時も、その次も、それにマレンツ山でも、僕達は常に待ち伏せされていたね」
「はい。これは、戦術的に大きな差になります」

 御上の言葉に、深く頷く月夜。

(今度こそ、テロを未然に防がなくては。私の時のようには絶対にさせない――)

 皆の話を聞きながら、円華は、強く決心した。