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リアクション
第四章 秘密兵器
スーパーの惣菜売り場では、まだエメ・シェンノート(えめ・しぇんのーと)と店員が言い争っていた。
神経質そうな店員のガチガチな官僚的な考えと、『面白そう』こそ、至上の動機であるエメとの考えの相違が激突し、エキサイティングな展開を見せていたのだ。
「貴方はどうしてそんなにガチガチに物事を考えるのですか!? オー、私には理解できません!」
お互いの主張が平行線である限り、理解しあう事は不可能であろう。
エメにとって、彼はオリーブ油だとすれば、彼にとって、エメは水のような物だった。
しかし、その対決は意外な結末を見せてしまう。
「先制攻撃でヒプノシス! ヒプノシス! ヒプノシスやー!! 次は調理場行くでぇー!」
(もぐもぐ)
由乃 カノコ(ゆの・かのこ)は怪しそうな人物を発見次第、スキル【ヒプノシス】を振りまき、先に進んでいた。
そして、その後ろを『仮想現実』 エフ(かそうげんじつ・えふ)が付いていく。
同時刻、ルファン・グルーガ(るふぁん・ぐるーが)らも調理場に入り込んでいた。
「あぁぁ〜、店員さんがぁ……チラッ」
エメは倒れた店員さんの心配を一瞬したが、調理場の方が面白そうなのでカメラを片手にスタスタと歩きだす。
「店員さんに悪いですが、【プロジェクトN】のディレクターとしては原因を探らなければなりません!」
そして、調理場の扉を開き、その先に潜む悪鬼と相対したのだ。
☆ ☆ ☆
調理場に入り込んだギャドル・アベロン(ぎゃどる・あべろん)は小さく飛び回る小鬼を振り払った。
小鬼は素早く、ギャドルの攻撃は小さな彼らに命中しない。
「俺様の攻撃をかわすとは……猪口才な!」
ギャドルは障害物をなぎ倒しながら敵を追っていく。
その後を追うように、この事件の元凶である【則巻 マモリ】の目の前に立ち塞がったのはルファン・グルーガ(るふぁん・ぐるーが)だった。
「そなたがこの事件の……やっかいな憑き物がついておるのぅ」
憑き物……。
ルファンはそう称せざる得なかった。
マモリの顔の上半分は黒いモヤで覆われ、長く伸ばした舌の中央には禍々しい【契約の印】が浮かび上がっていたのだ。
『恵方巻き、食べてない奴はいねがー? 恵方巻き、嫌いな奴はいねがー?』
彼女はそんな事を呟きながら、恵方巻きを投げつけてくる。
その恵方巻きは、まるでリモートコントロールされたラジコンのようにルファンの口を襲ってきた。
【雷術!!】
ウォーレン・シュトロン(うぉーれん・しゅとろん)はその恵方巻きを、スキルによって焼き恵方に変化させる。
すると、恵方巻きは動かなくなったが、マモリの身体から更なるモヤが噴き出していく。
『食べ物を粗末にずるなぁー 恵方巻き、恵方巻き、食べてない奴はいねがー?』
「いやー、なんつうか、こいつはやばいぜ! どうする?」
スキル【雷術】はマモリの黒いモヤによって、かき消された。
ギャドルは身体にまとわりついた小さな鬼に心を奪われ、暴れ狂っている。
「ふむ……策も尽きたのぅ」
「尽きたんかい!」
ルファンに突っ込むウォーレン。
そこに迫ってくる黒い呪詛。
だが、本当にこれで終わってしまうのであろうか……。
☆ ☆ ☆
「待った! 待ったぁ!!」
絶望の淵に立たされた状況の中、ヴェルデ・グラント(う゛ぇるで・ぐらんと)とエリザロッテ・フィアーネ(えりざろって・ふぃあーね)が現れた。
彼らの手には、四角いマスに入った【秘密兵器】が握られていた。
「今日は節分だから豆。鬼は外! 福は内だろ!」
ヴェルデは右手で豆を握ると、調理場の中にばら撒いた。
一瞬の閃光が煌き、小鬼は豆から逃れようとする。
だが、その一粒が小鬼に命中し、魔物は断末魔の叫びを上げた。
「ギャアアアァァァッーー!!」
「貴女にもよ!!」
同じくエリザロッテも、豆を掴んでマモリに投げつける。
黒いモヤで包み込まれた彼女の背中にめり込んだ【豆】は、黒き呪詛を解き放つように空間を切り裂いた。
本当に効くとは思ってなかった。
しかし、古き言い伝えにあるように、節分の豆は【魔滅】に通じ、邪気を払う効果があるようだ。
「そっか、豆が弱点なんやー! 皆で豆を撒かんかい!!」
(もぐもぐ……)
由乃 カノコ(ゆの・かのこ)も、ヴェルデから豆を貰うと小鬼にぶつけた。
そして、『仮想現実』 エフ(かそうげんじつ・えふ)は豆を食う。
「う〜ん、この現象がアイテムで起こらない以上、目的は果たせませんね。では、豆です!!」
小鬼から逃げ回っていた戦部 小次郎(いくさべ・こじろう)も身を翻し、ここぞとばかりに逆襲に出た。
エメ・シェンノート(えめ・しぇんのーと)も、腕を振り子のように振り下ろすと、恵方巻きが動きを失っていく。
「よし、今だ!!」
小鬼の集団から解放されたギャドル・アベロン(ぎゃどる・あべろん)は暴走機関車の如く、則巻 マモリにタックルを食らわす。
あれだけ彼女の身体を覆っていた、禍々しい黒いモヤは、小鬼とともに姿を見せなくなっていた。
「どうだ! 俺様に勝つなんざ100年……いや1000年はえぇんだよ!」
決め台詞を放つギャドルはどこか誇らしげであったが、この先をどうしていいのかわからないので、ルファン・グルーガ(るふぁん・ぐるーが)に知恵を求める。
「ふむ……この女は魔に魅入られておる。その魔を絶つには、やはり豆じゃろうて……」
ルファンはヴェルデに声をかけ、豆を受け取るとマモリの口へと与えていく。
すると、天から光が差したように彼女の身体を包み込み、マモリの舌に巣食っていた【契約の印】が消滅していった。
『グエエエエェーッ!!』
同時に黒いモヤが、彼女の身体から噴き出し、まるで恨めしいような表情を作り出した後、劈くような声を残しながら消えていった。
☆ ☆ ☆
すると、公園内で生徒たちに襲い掛かっていた鬼たちが苦しみだす。
陽が傾き始めた石畳の遊歩道。
無数に蠢いていた巨大な鬼たちの色めいていた皮膚は、カサカサと剥がれ落ち、大きくなった身体が小さく縮んでいく。
「あ、あれ……ここは、どこ? 私は……?」
鬼と化していた者たちは、憑き物が落ちたようにその姿を取り戻していった。
泉 美緒(いずみ・みお)も元の姿に戻ったようである。
Rカップの爆乳が、Qカップに戻りプルルンと上下に揺れ動いていた。
「美緒さん!!」
その変化を見て、金元 ななな(かねもと・ななな)は抱きついた。
「ちょ、ちょっと……なななさん、待って……」
何が何なのかわからない美緒は、なななの態度に慌てふためく。
だが、公園の至る場所で、同じ様に抱き合う人がおり、ハリケーンでも通り過ぎたような荒れた公園内を見て、とんでもない事が起きていたのはわかった。
「……何が……起こったのですか?」
美緒が尋ねると、なななはいつものように右人差し指を上にあげて言ったのだ。
「宇宙人が侵略してきたんだよ」
「……へっ?」
正直、意味はわからなかった。
……が、屈託のない笑顔を浮かべるなななを見て、事件は無事解決したのだと美緒は確信した。