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【●】光降る町で(前編)

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【●】光降る町で(前編)

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【疑惑の街角】

 


 アキュート達や、地上に残った調査団が、送られてきた洞窟内のデータを解析していた頃。
 その作業を眺めていたスカーレッドに「先日はどうも」と天音が声をかけた。
「何のことかしら?」
 唐突、とも言えるタイミングで話を振られたスカーレッドは首を傾げた。
「フレイム・オブ・ゴモラの件で、ソフィアの瞳調査団に依頼したのは大尉なのかな」
 ああ、とその言葉で思い至って、スカーレッドは苦笑した。
「あの子が面倒をかけたわね」
 年はさして変わらなさそうに思えるクローディスを「あの子」呼ばわりするスカーレッドの様子に、知人という枠を越えて親密そうな空気を感じて、天音はあえて突っ込んで尋ねた。
「何故、あの遺跡を調べようと?」
「強いて言えば、勘ね」
 あまり威張れそうもないことをきっぱっりと言ったスカーレッドに、天音は思わず苦笑した。そういえばクローディスも、依頼主の「個人的な勘」だと言っていたことを思い出したのだ。
「その勘に、ちょっとあやかりたいことがあるんだけど、良いかな」
 その意図が判らず「何かしら?」と不思議そうに首を傾げる様子に、とりあえず拒絶がないことを確認して、天音は目を細めた。
「大尉は先日、どこかの村が襲われた、という事件については何処まで知ってるのかな」
 ぴくり、とスカーレッドの目がその色を僅かに変えたのに構わず、天音は続ける。
「あの兵器が、餌をおびき寄せようとしてたのが気になってるんだよ」
「……これもそうだ、と言いたいのかしら?」
 尋ねておきながら独り言のように続けられた言葉に、スカーレッドの問いかけも誘導するように続く。腕を組んだその傍で、調査団との通信を続ける鈴も、その言葉が示す危険性を考えながら話を聞いているようだ。
「可能性はあるように思えるんだよね。こないだの大襲撃で、関心は高まってる。そこへ来てこの祭りだ」
「あくまで推測にすぎないわね」
 おびき寄せられているようじゃないか、と問いたげな言葉をばっさりと断ったスカーレッドに、天音は寧ろ笑みを浮かべて首を傾げて見せた。
「そう、だからこそ、大尉の勘に期待しようかと」
 と、そうしれっと言うのに、物は言いようだわね、とスカーレッドは肩を竦めたが、口元は面白がっている。「成る程ね」と、天音がその推論から何を疑っているのか察したようだ。
「あなたはこの事件が、例の――真の王、とやらに関わっている、と思っているわけね」
 返答の変わりに、深まった天音の笑みに、息を一つついて、スカーレッドは肩を竦めると、先程まで推論でしかないと否定していたはずの口で「可能性はゼロではないわね」とあっさり言った。
「引っかかっていることがあるのよ。封印が破られたタイミングとは別に、この町は”おかしい”」
「……と言うと?」
「持ってきて」
「へ?」
 唐突に話を振られた鳳明が素っ頓狂な声を上げると、にっこりと笑ったスカーレッドが「あら、聞いていなかったのかしら?」と凄む。
「持って来い、と言ったわよ?」
「は、はぃい……っ!」
 殆ど反射的に敬礼し、さりげなくセラフィーナがフォローを入れて手渡してきた資料をめくり、スカーレッドは天音にそれを手渡した。それは、落下してきたアスカを氏無が保護した際、彼女が上空で描いたスケッチの画像データだ。
「ちなみに、元々”そんな”状態ではあったらしいわ。ただし、ここ最近で更に急速に”悪化した”と思われるわ」
「……これは」
 スカーレッドの説明に引っかかりを感じるより先に、そこに描かれていたものに、天音は微かに眉根を寄せ、ブルーズ・アッシュワース(ぶるーず・あっしゅわーす)も横から覗き込んだ途端に声を失う。


 それは、地上からこの地を訪ねたのでは、気付かなかったであろう景色だ。
 正円を描く町並みを取り囲むように、広い畑や果樹園などが、やはり円を描いて広がっている。
 それだけ見れば、二つの異なった色彩が輪を描く美しい町だ。
 いや、だからこそ奇妙なのだ。
 そのスケッチに描かれていたのは、まるで灰色のキャンバスを、その町の部分だけくり抜いたのか、と錯覚するほど明確にその町だけ隔たれた、画面一杯に荒廃の広がる、異様な土地の光景だった。