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ゾンビ トゥ ダスト

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ゾンビ トゥ ダスト

リアクション

 じりじりと後退させられていくディフェンダー部隊。いよいよ、ゾンビたちの視界にも二つの像が見えてきてしまうところまで追い詰められていた。
「す、すっごい量がきちゃったよー! どうしよー!」
 そう叫ぶのは像周辺で今まで武器を改造していた及川 翠(おいかわ・みどり)だ。それまでゾンビの姿が見えなかったところで改造をしていたのであまりの量に驚いていたのだ。
「うああ、すっごい臭いーお鼻が曲がるよ〜」
 そう言って鼻をつまんでいやいやをするのはアリス・ウィリス(ありす・うぃりす)だ。翠と一緒に簡単な武器改造をしていたのだ。
「二人は絶対前には出ないで、スノゥも無理はしないこと。いい?」
「はぁい、了解ですぅ〜」
 凛とした声とそれに返事をするのんびりとした声はそれぞれミリア・アンドレッティ(みりあ・あんどれってぃ)スノゥ・ホワイトノート(すのぅ・ほわいとのーと)の二人だ。
「で、でもでもっ! 私もいざとなったら、戦うよ」
「そう、それじゃいざとなればお願いね」
「うんっ」
 意気込む翠を優しい微笑で見た後、ゾンビに向き直るミリア。その顔は凛としていた。
「この数は正直、予想していなかったわ」
「でもぉ、やることは一緒ですぅ。私たちがぁ、ここを守るんですよぉ〜」
「……そうね。その通りね。負けるわけには行かない、像を守り抜きたいと思う気持ちに変わりはないもの」
「私も、私もだよ!」
 四人のところにもゾンビが、この近さだと像しか目に入っていないようだがミリアはそれを好都合ととり前へ出る。
「ここから先へ行かせない! 二つの像の願いを邪魔させはしない!」
 そう叫ぶと同時に【歴戦の魔術】をしようしてゾンビに攻撃をするミリア。
「やっぱりぃ、平和がぁ一番ですよぉ〜」
 それに続いてスノゥも【アシッドミスト】を使用する。二人の攻撃の前にさすがに像への進行をやめ、四人へと向き直るゾンビの群れ。
「そうよ、こっちよ! お前らの相手は私たち二人よ!」
「ゾンビさんこっちら〜ですぅ」
 ゆっくりと向かい来るゾンビの群れに、負けじとスキルを使用する二人。だがその数に押されつつあった。
「……もう見てられないよ! いっくよー!」
 見かねた翠が【我は射す光の閃刃】で二人を援護する。さすがに連続で迫り来る魔法にはゾンビたちも数を減らされるのだった。
「ふぅ、助かったよ翠。けど参戦するときは一声掛けて、お願い」
「ご、ごめんなさい……」
「叱っているわけじゃないわ、むしろ翠がいなければ危なかった。ありがとう」
「……うんっ!」
 嬉しそうにする翠とそれをほほえましく見守るミリア。だったのだが。
「お忙しいところ悪いですけどぉ、次がもう来てるので手伝ってくれますかぁ?」
「ご、ごめん! 今手伝うわ!」
 スノゥの一言にはっと我に返ったミリア、翠も交えてアリスを庇いながら三人でゾンビと戦うのだった。

「っかーこれはきついぜ! 聖水仕様の弓矢でも中々倒れちゃくれないとは、いよいよもってまっずいかもな!」
「わたくしの目からビームでも倒れないとは、相当訓練されたゾンビなのでしょうね」
「それは関係ないだろうな、間違いなく」
 ディフェンダーとして防衛に回っていたのは神崎 荒神(かんざき・こうじん)アルベール・ハールマン(あるべーる・はーるまん)テレサ・カーマイン(てれさ・かーまいん)の三人だった。
 先ほどから他のディフェンダーと協力して、改造した武器を駆使しゾンビ撃退にあたっていた三人だったが、倒しても倒しても増えていく一方のゾンビの群れを前に疲弊を隠し切れないでいた。
「このままじゃ像を破壊されちまうぞ! おい、何とかならないかアルベール!」
「いっそ私が改造してもらえれば或いは……」
「お前に相談した俺が間違ってた、テレサは何かいい案とかないか?」
「あったらこんなに苦労してないであろうな。Mではないのだから」
「くっそう、八方塞かよ」
 獅子奮迅でゾンビを倒していた荒神の活躍空しく、数の前に圧倒されつつあったのだ。
「だがもうすぐ、夜明けだ。可能性はある」
「それまでは耐えるしかありませんね」
「きっついな……でも、二つの像の願いが叶わないことのほうがもっときっついよな。なら、もう一度踏ん張んないとな!」
「ええ、わたくしもわたくし自身を改造してくれる人を探しに」
「いいから戦え! この際どんな攻撃でもいいから!」
「では、炎術で」
「そこは普通なのだな」
「もう何だっていい! 俺たちが勝つには夜明けを信じて耐えるしかないんだ! いいか二人とも! 他のディフェンダーだって、オフェンダーだって、特殊部隊だって頑張ってるんだ! 俺たちだけが挫けるわけにはいかない! 気合いれていくぞ!」
「命のままに」
「毒を喰らわば皿まで、いけるとこまでいくとしよう」
 最後の力を振り絞り、諦めずに三人は攻撃を再開する。依然、ゾンビの群れは進行をやめない。だが、どれだけ現れようとも三人は諦めようとは思わなかった。

「よもやここまで後退させられるとは、想像の範疇ではなかった。が引くわけにも行かぬか」
「だが、この数だ。まだまだ暴れられるのはうれしい限りじゃねぇか」
「もー! 一体いつまで出てくるのよー! このゾンビどもはー!」
「はっはっは、こんなに負けてるってのに余裕だねご両人!」
 それぞれがそれぞれらしい意見を言って戦うのは順にルファン・グルーガ(るふぁん・ぐるーが)ギャドル・アベロン(ぎゃどる・あべろん)イリア・ヘラー(いりあ・へらー)ウォーレン・シュトロン(うぉーれん・しゅとろん)の四人だ。
「辛い局面ではあるが、ここを超えれば見ゆる夜明け。それは勝利と同義、今一度力を振り絞れば乗り切れない局面ではあらず」
「ごちゃごちゃ細かいことは言いっこなしだ! 暴れられればそれでいいんだからな!」
「ダーリンが頑張れって言ってくれるならイリア頑張っちゃうもん! 相手がゾンビだろうとめげないんだからー!」
「これだけの劣勢を勝ちきったのならさぞ自慢できるだろうな! 記念撮影する暇がないのが残念だな!」
 四人とも好き勝手言いながらも戦闘はこなしていく。
 ルファンは【則天去私】や【神速】を使ってから武術で相手を範囲的に攻撃および翻弄して戦う。
 ギャドルは【煉獄斬】や【スタンクラッシュ】など範囲剣術の大盤振る舞いで敵を圧倒する。
 イリアは【ファイアストーム】や【アシッドミスト】での後方支援。
 ウォーレンは三人をや自分を狙ってくる単体相手に槍での攻撃を繰り出して被害を減らす戦い方だ。
 しかし、膨大に膨れ上がったゾンビたちの数にこれだけやっても対処はしきれず、ルファンはギャドルとイリアに叫ぶ。
「ギャドル! イリア! 例のやつを頼む!」
「……っけ、気にくわねぇ、気にくわねぇがこの数相手じゃしかたねぇ!」
「気に食わないのはこっちも同じだよ! でもダーリンがそう言うんじゃ、仕方ない!」
 そう言ってイリアはギャドルに【パワーブレス】をかける。そのまま、ギャドルは【煉獄斬】を使用。
「合わせろ、イリア!」
「言われなくてもっ」
 イリアはギャドルの【煉獄斬】の上からさらに【火術】で火力をプラスさせたのだ。その攻撃力は絶大で広範囲のゾンビを跡形もなく消し炭にしてしまった。
「おおーやるねご両人、何だかんだ言って息ピッタリだぜ! 俺も負けてられないねー!」
 二人の攻撃を見て、楽しそうにゾンビへと向かっていくウォーレン。
「ほう、よもや激励の効果つきとは、二人ともやるのう。わしも負けてはいられないのう」
 ルファンもまた【則天去私】を中心に攻撃を再開するのだった。
「ちょっとギャザオ! 少しは合わせるほうの身にもなりなさいよね!」
「はっ! そんなの知ったことか! 俺は暴れたいだけなんでね!」
 お互いに憎まれ口を言いながらも、ちゃんと連携して攻撃をする二人。ゾンビの数は減らないものの像にまでたどり着くことはなかった。

「皆、死力を尽くして戦っていますね。私も負けて入られません!」
 そう言ってゾンビを相手取るのは火村 加夜(ひむら・かや)だ。今回はディフェンダー兼ここにはこられない山葉に状況を報告するために作戦に参加していた。
「あなたちはここにいてはいけないんです! 土へ、還ってください!」
 叫んで【我は射す光の閃刃】でゾンビを圧倒する加夜。しかし、どれだけ倒しても次から次へとゾンビは沸いて出てきてしまう。
「! そちらのかた、今回復します!」
 【命のうねり】を詠唱し、仲間を回復する加夜。常に周りを見渡して戦っている証拠だ。
「助かった!」
 回復してもらった虎牙 こうき(こが・こうき)が加夜に礼を言う。
「いえ、あと少しです! 共に頑張りましょう!」
 仲間を激励し、加夜は前へと向き直りゾンビと再び向かい合う。ゾンビの攻撃が緩むことはない。
「それだけ、ここを奪われるのが嫌なのですね……。ですがそれでも! 二つの像の願いを! そして、涼司くんの願いを無駄にはできません!」
 【歴戦の魔術】や【稲妻の札】も併用して、ゾンビの群れを足止め、倒していく。
 心優しい彼女にとってはそれすらも心苦しいことだ。それでも攻撃の手を緩めることはない。
「……この戦いが終わって、この土地が緑で息づいたのならあなたちのためのお墓を、立派なお墓を作りますから」
 加夜はずっとそう考えていたのだ。どれだけ口でものを言っても、彼らの居場所を奪うことには変わりはない。
 ならばせめて、お墓を作ってあげることでこの土地で安らかに眠ってもらおうと考えていたのだ。
「だからこそ、私たちはここで引くわけにはいかないんです!」
 例えゾンビを倒すことが辛いことであっても、加夜は攻撃をやめない。
 それは彼女が優しいからだった。