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春爛漫、花見盛りに桜酒

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春爛漫、花見盛りに桜酒
春爛漫、花見盛りに桜酒 春爛漫、花見盛りに桜酒

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*ようやく、つながるおもい*



 神崎 優(かんざき・ゆう)から渡された桜酒を持って、百合園女学院の桜並木へと訪れた神代 聖夜(かみしろ・せいや)陰陽の書 刹那(いんようのしょ・せつな)だった。イベントのため各所にシートやテーブルセットが置かれており、希望者には茶菓子や料理まで振舞ってくれるという。

 恐る恐る、あいているテーブルをつかわせてもらうことにした。
 神代 聖夜が持って来たティーセットの用意をしている間に、陰陽の書 刹那がお茶請けのお菓子をもらってきたようだった。
 手早く桜酒をカップに注ぐと、いきなり飲むのもなんだとカップを持ち上げるが、言葉が出てこない。

「それじゃ、ええと」
「乾杯、でいいみたい」

 陰陽の書 刹那の言葉に、神代 聖夜はそれじゃあ、とカップを軽くぶつけた。

 あまやかな香りに、甘みを押さえた茶請けで、二人は他愛のない話をした。主に、パートナーである神崎優のことに関してだった。

 だが共通の話題も核心に触れてしまいそうなところを避けていると、互いに我慢の限界だったのか、「「あの!」」とほぼ同時に声を上げた。どうぞどうぞ、と手で合図されて、ようやく陰陽の書 刹那が口を開いた。


「ありがとう聖夜。そなたの気持ちはとても嬉しかった。けど私の中には優への想いがあるです。優に告白して断られましたが、私の心を救ってくれた彼はとても大切な存在。優の事を切り離して考える事は出来ないんです。こんな私ではそなたを傷付けてしまう。それでも……良いんですか?」

 一気に話しきって、陰陽の書 刹那は目を伏せた。
 最後の言葉は、期待を込めている。
 とても目をあわせられないからだ。完全に振ることは出来ず、いわば気持ちの上では二股の状態。
 でも自分の中で、嘘をつくことは出来なかった。

 想い続けている気持ちはある。でもそれは、もう捨てなければいけない感情。
 想ってくれる人がいる。その人のことは好き。でも、思い人への想いと比べることは出来ない。

「どうすればいいのか、自分でも分からない。選択をそなたにゆだねてしまって、卑怯だとはおもう。でも……」

 そこまで口にして、今度は神代聖夜が手で制した。

「ありがとう、正直に言ってくれて。刹那にとって優が掛け替えのない存在なのは、分かってる。俺にとっても優は大切な存在だ。だからその想いも受け入れられるように共に歩みたい。それに俺の気持ちは今でも変わらない。俺は刹那が好きだ」

 まっすぐ見つめるその瞳に、陰陽の書 刹那は小さく頷いた。

「ごめんなさい。ありがとう。聖夜」
「いいんだ。いつか、優よりも俺のほうが大事だっておもってくれる日が来るかもしれない。一緒に歩き続けて、同じものを見続けたら、きっと変化していくこともある。かたくなだった想いが、俺を受け入れてくれたように、いつか変わる日が来るっておもってる」

 はっと気づかされて、陰陽の書 刹那は目を丸くした。
 そして、少し頬を赤らめながら頷くと、もう一度二人で桜酒を飲んだ。今度は桜の花びらが二枚、それぞれのカップに浮かんでいた。

 まるで、二人のこれからを祝福するかのようだった。






*すれ違いまくるおもい*



「マスター! 噂の桜酒入手できましたよ! 桜も綺麗ですし、この辺りでお花見しながらご一緒に飲みましょう」

 フレンディス・ティラ(ふれんでぃす・てぃら)は超感覚を使っていないのに尻尾の幻が見えるほど、見事な忠犬ッぷりでベルク・ウェルナート(べるく・うぇるなーと)を案内していた。

「さぁ、お料理や食事も頂いてきましたよ! マスター、頂きましょう! あれ? マスター? 顔色が悪いですよ?」

 ベルク・ウェルナートは頭を抱えながら綺麗に並べられた茶菓子や花見弁当を前に突っ伏していた。

「(何で何度も何度も二人きりでデート(?)してるのにも拘らず相変わらず呼び方がマスターなんだよ!)…いや、なんでもない」
 
 色々な感情を押し殺して、用意された桜酒で乾杯をする。

「(だいたいどれだけ鈍感なんだよ! 散々想いを伝えてるのに気づかねぇし、これ以上どーしろってんだ……俺のモノになる事に了承して契約したのに全くモノになってる気がしねぇぞ)」
「マスター、誰かに伝えたいことでもあるんですか?」
「あ?」
「桜酒を飲みながら、ぶつぶつ仰ってるので……」

 フレンディス・ティラはすこし、残念そうに睫を伏せた。

「ち、ちがう! これは……あー、うーん……」

 言葉につまったベルク・ウェルナートは、一気に桜酒を飲み干した。はぁ、とため息をつく。せっかくの銘茶がこれでは台無しだ。
 すぐさま、フレンディス・ティラがお代わりを注ぐ。

「たくさん伝えたいことがあるんですね。無理しないで下さい」
「違う、俺は伝えることは伝えたんだ」

 は、っとして思わず口から出た言葉に驚いたのは、口にした本人だけでなく目の前にいたフレンディス・ティラもだった。気がついているのかいないのか、ぱっと視線をはずした。

 苛立ちをあらわにしたせりふだったためか、気を悪くしてしまったのだと勘違いし、ベルク・ウェルナートはばつが悪そうに肩に触れようとした。だが、す、っとかわされてしまう。

「フレイ?」

 と、名前を呼ぶと彼女もぐびーっと桜酒を飲み干し、フゥ、と息を吐いた。少し顔が赤い。桜酒の香りに酔ってしまったのだろうか。そんな心配もつかの間、その口から驚くべき言葉を紡いだ。

「私は、変わるのが怖いだけなんです。変化してしまうことが」

 そういって、がばがば、とお茶請けのお菓子を食べるなり走り去ろうとしてしまう。それを何とか手を握ることでつなぎとめた。

「ど、どういう意味だ」
「今のまま、マスターは私のことを従者として大事に思ってくださっている、それを思い上がって考えてはいけないんです!」
「違う違う! ちゃんと言ってるだろう! 女としてのお前を求めているんだ!」

 大きな声でそう言い放つと、静寂が辺りを包んだ。桜の樹が、さわさわと二人の上でざわめいていた。
 沈黙に耐え切れず、フレンディス・ティラは口を開いた。

「マスター……?」
「さ、さいしょから……そういっている」
「言っていません」
「言っている!」
「言っていません!!」
「言っているといっとるだろうが!!」

 互いに息を切らしながらそう言い合った後、「す、す、少し考えさせてください」といって、今度は手を振り払って駆け出した。
 いきなりすぎただろうか。
 勢いのせいとはいえ、もう少しロマンチックに……出来たんじゃないだろうか。

 ベルク・ウェルナートはわずかな(いや、かなり激しい)後悔を胸に、フレンディス・ティラの背中を見つめていた。



















*折り重なるおもい*



 賑やかな宴会場の傍で、神崎 荒神(かんざき・こうじん)は桜酒を蒼魔 綾(そうま・あや)と一緒に苦労して手に入れた桜酒を飲んでいた。
 メインの飲み物が紅茶であること以外は、この宴会は非常に楽しいものだ。
 簡単だが、弁当も用意したし何より……

 ……何より、愛しい女性が隣にいる。

「なに?さっきからニヤニヤしちゃって」
「いや、これまでのたびを思い出しててさ」
「もーさっきから話尽くしちゃったじゃないの」

 くすくす、と可愛らしく笑う蒼魔 綾を、おもむろにじっと見てサイドテールから流れる黒髪を、おもむろに指にからめとる。

「荒神?」
「綾。俺、恋人になれて嬉しいよ」

 一実を見つめられながらそういわれると、普段の力強さを微塵も感じさせない可憐さで、こくんとうなずいた。

「私も、荒神と恋人になれて、とっても嬉しい」
「目、閉じてもらえるか?」
「え?」
「いま、凄くキスがしたい」
「そ、そんな。誰か見てるかも」
「いいさ。気にしない」

 そう甘く囁かれては、断る理由が見るからなかった。
 蒼魔 綾はゆっくりと目を伏せると、わずかに顎を突き出して唇を尖らせる。

 桜の花びらがまう中、重なろうとしていた唇。
 
 ガサ!

 はっとして二人は何事もなかったように距離を置いた。

「ご、ごめんなさい。いい雰囲気のところを邪魔してしまって……忘れ物があったから、届けようとおもって」

 ロザルバ・フランカルディ(ろざるば・ふらんかるでぃ)は、お菓子が入っているであろうバスケットを手に、訪れていた。

「ああ、そうだった。お菓子も作ったんだ。よければ、ローザも一緒に飲むか? な、綾」
「う、うん! ローザも一緒に飲もうよ、桜酒。おいしいよー。お菓子も一緒に食べよ!」

 照れ隠しのつもりで言葉を重ねていく恋人に、ロザルバ・フランカルディの心中はざわざわとしていた。

 私だって、彼の隣にいたい。
 私だって、彼の唇に吸い付きたい。

 私だって……

 そんなどろどろとした思いを一旦置いて、ロザルバ・フランカルディはにっこり笑って、二人の間に腰掛けた。

 改めて始まったお茶会は、和やかに進んでいったがお互いの心に小さなわだかまりを残してしまったようだった。









担当マスターより

▼担当マスター

芹生綾

▼マスターコメント

 お疲れ様です。芹生 綾です。
 近況を、マスターページに書かせていただきました。
 言い訳になってしまいますが、もし遅れた理由を聞いてもいいという方は、見てくださいませ。

 桜もほとんど散ってしまいましたね……
 遅れてしまい本当に申し訳ありません。その分、精一杯やらせていただきました。

 とはいえ久しぶりなので、より一層粗が目立つかもしれません……


 年単位でお待たせしてしまったのにもかかわらず、皆様ご参加くださりありがとうございました。
 おかげさまで、続きを執筆することが出来そうです。

 個別コメントは控えさせていただきましたが、参加してくださった皆様に感謝の気持ちで一杯です。
 称号は、可能な限りつけさせていただきました。


 体調が完治し次第、改めてシナリオガイドを提示させていただきますので、今しばらくお待ちくださいませ。


 皆様、ありがとうございました!