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【祓魔師のカリキュラム】一人前のエクソシストを目指す授業 2

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【祓魔師のカリキュラム】一人前のエクソシストを目指す授業 2

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第4章 訓練場で魔道具の使用体験Story1

 授業で宝石のことを学んだセレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)は、恋人と検証しようと地下訓練場内にいる。
「対象がいないと検証しようがないわよね。地球人以外なら、魔道書とかでもいいのかしら?」
 自分たちと同じように、魔道具を試している者を探す。
「アークソウルは地球人以外の、魔性に憑かれていない者かどうか発見出来るのよね」
「魔性に憑かれていないか見破るエアロソウルの効果と分けているんじゃないの?」
「どっちも生物限定かしら?」
「可能だったら授業内の実技でやってたでしょ。エアロソウルを持っている人がいたからね」
「どうして効果を別々にするのかしら。一緒でいいじゃない」
 効力を分断するより、まとめちゃえば?と言う。
「セレンったら、無理言わないでよ」
「じょーだんよ、冗談。言ってみるだけならタダよ」
「(エレメンタルケイジを装備出来ても、これじゃ不安だわ…)」
 ちゃらんぽらんな態度をとる恋人に、セレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)は頭を抱えたくなりそうだ。
「見つからないわね…」
「見てセレン、私の宝石に反応が…!」
 エレメンタルケイジに入れている宝石が飴色の輝きを放つ。
「光の色合いは変わらないわね。どこにいるのかしら」
 セレアナはペンダントに触れたまま、反応があるほうへ進む。
「何だヨッ、ねーちゃン。何か探しものカ?」
「そこに誰かいるの?」
「ねーちゃンの足の近くだヨ」
「えぇっ!?どこなの!」
「姿を消してるから、黄緑色の宝石がねぇと見えねぇヨッ」
「エアロソウルのことね…。セレン、あなたの宝石に反応はある?」
「いいえ、ないわ。気配も感じないわね」
 手の平に乗せた宝石をじっと見つめるが、光を放つような変化はなく、かぶりを振る。
「魔道具を試しているのですか?」
「宝石の輝きが強くなったわね。魔性と呼ばれるものが複数いるっていう反応かしら」
「ぇ…?」
「あなた、魔道書よね」
「テスタメントは魔道書ですよ?」
 何の確認なのかとテスタメントは首を傾げる。
「やっぱりね。アークソウルがあなたにも反応しているのよ」
「ペンダントを試しているのですか」
「やっぱり私の宝石は無反応ね」
「そちらは宝石だけで試しているのですね?」
「エレメンタルケイジに入れないまま、効力扱えないか検証しているの」
「そうなのですか…。(テスタメントのパートナーは、ちゃんとエレメンタルケイジに入れてますよ?宝石のみだと難しいのでは…?)」
 なんだか不思議な人ですね、と思いつつその場を立ち去る。
「ねぇ、魔性。訓練場の中にそれなりの力を持ったやつはいないの?」
「んー…。ここは初級エリアだから、そんなヤツはいないヨッ」
「その検証は出来ないということね…」
「宝石の効力を試したいから、闇術でも使ってみてくれない?」
 まずはペンダントに入れたまま試そうと、セレアナが魔性に頼む。
「おっけィ」
 アメーバ状に迫る闇が迫るとペンダントの中のアークソウルが、探知の輝きよりも強く光を放つ。
 大地の魔力で闇術による頭痛などの痛みが、ほとんど感じられない。
「オイラはあまり強い力はなイ。だかラ、平気だと思ってつっこんで無茶したりするなヨッ」
「抵抗力を高めるためには、経験を積む必要がありそうね。次はペンダントの中から宝石を出して試してみようかしら。―…きゃあっ!?」
「ン?やれって言ったじゃないかヨッ!」
「全然…効力がないわね」
「ねーちゃンが、ペンダントに入れてねーからじゃないカ?」
 エレメンタルケイジを入れないままだと、まったく効力を発揮しない様子で、闇術の直撃をくらってしまう。
「セレアナ、大丈夫?」
「えぇ平気よ」
「ひとまず、検証はここまでね」
「……セレン、すぐに飽きるかと思ったけど、意外に長続きするじゃないの。ちょっとは見直したわ」
「これでも真面目に授業を受けているつもりよ」
 恋人を助け起こしたセレンフィリティは、普段と同じように言わないで…というふうに言う。



「ぅー…。実技は出来るけど…なんかさ、使えるもんがアレだな」
 ヴァイス・アイトラー(う゛ぁいす・あいとらー)は裁きの章のページを眺めながら、溶かすなんてえげつない!と顔を顰める。
「どろどろに溶かす意味じゃないだろ」
 いったいどんな想像をしているのやらと、セリカ・エストレア(せりか・えすとれあ)が嘆息した。
「オレらの訓練に付き合ってくれるっていっても、痛かったり苦しかったりしそうだしさ」
「こらヴァイス、魔性を祓う力を得るための授業だろうが」
 何のために参加しているんだというふうに言いセリカが叱る。
「う〜ん…確か使う章と意味が合わない詠唱だと威力が下がるんだっけ?それで何とか勘弁してもらえねえかな…」
「不相応だと不発もありえると、ラルクが言ってた気がするが?」
「ぇっ、マジか!?」
 どうやら勘弁してもらえないかもしれない…というセリカの言葉に驚いたヴァイスが声を上げる。
「だって酸の雨だろ。詠唱で恵みの雨とか…言ってみるか。それでなんとか威力を下げられたら、後で治してやりたいんだよな。例えば、ヒールとかでさ」
「そんなことしなくても、感情コントロールで調節出来るぞ」
 ちゃんと話を聞いていなかったのか?とヴァイスに言う。
「へっ、そうなのか?」
「―…ぁ、いや。今のは聞かなかったことにしてくれ」
「ふふーん、そーか。そうなのか!」
 無抵抗の相手を傷つけず試せると知ったヴァイスが、にんまりと笑みを浮かべる。
「(くっ、不要なことを思い出させてしまった…!いや、章を扱うためには、知っておく必要もあるのだが…。いやいやでも、ヴァイスの場合は…っ。伏せておいても、授業で習ったものなのだから、いずれバレてしまうことだが…)」
 ヴァイスは戦いの場で容赦のない時もあるのだが、無事で済ませる方法を教えてしまい、脳内で自分を責める。
「そうと分かれば試しやすいな!おーい、誰か訓練に付き合ってくれっ」
「呼ばなくても、ずっとここにいるYO」
 彼が声をかけてくれるのをずっと待っていたようだ。
「あーでも心配だな。あのカカシで試すか。―…えーっと、章のイメージに合わせるんだったな」
 章に合わせて詠唱ワードを唱え、傷つけないように…という感じで、祈るように威力を弱める。
「おーい、無事か?術に巻き込まれたりしていないよな?」
「ぜーんぜん平気だYO」
 どこかへ非難していたようで、どうやら無傷のようだ。
「そういえば、紫色の雨だったな。一瞬、焦ったけど…っ」
 マジ大丈夫かコレ?と顔中から冷や汗を流したが成功し、ほっと安堵の息をついた。
「調節出来るっていっても、さっきみたいに焦ったりするのもよくないんだったよな…。アレか?オレがもっとクールな男になれば、威力を限りなくゼロに近くすることも可能かもな」
「―…ヴァイスがクールな男になるだと?無理だろう」
「セリカ、マジひでぇえ!オレだってその気になれば、オレだって冷静さを保てる…はずっ」
 きっぱりと否定されたヴァイスはセリカを軽く睨んだが、自信なさそうにだんだんと声のボリュームを小さくした。
 宝石だけの力では、どれくらい役に立てるか分からず、今度は本について学ぼうとベルク・ウェルナート(べるく・うぇるなーと)はエリザベートに聞く。
「どの章について聞きたいですかぁ?スペルブックに、章についての説明のような言葉が表記されていますからぁ、それが目次代わりとなっていますぅ。読みづらければ、日本語ページもありますよぉ」
「今の俺が扱えそうなのは裁きの章だけか」
 ベルクは校長に言われた通りに読み、本に記されている章を見つける。
「祓う対象が機械に憑いている奴のみっつーのがネックだな」
「憑いているというより、そういう物に憑く者ですねぇ」
「じゃあ器となる物に、憑いていなくても効くっていうことか?」
「そうですよぉ♪」
「それでも対象が限られるな…」
 もう1つの章は彼の得意分野ではないが、扱えたとしても“俺のガラじゃねぇ”などと言うだろう。
「えぇと、マスター。今回はこちらの書物のお力について学ばれるのですよね?」
 スペルブックについて真剣に学ぶ彼に、フレンディス・ティラ(ふれんでぃす・てぃら)が話しかける。
「私、これでしたらもしかしたら多少扱えるかもしれませぬ。ご一緒に実践できれば良いのですが」
 持ってきた本のページを捲り、哀切の章をベルクに見せた。
「そういえば、クラスにチェンジしたんだったな?」
「はい、えっと今は…巫女です」
 元のクラスの雰囲気に合わせたのか、和系のクラスを選んだ。
「プリーストの修練を積んでいるから使えるってことか」
「えぇ、必要なスキルは会得していますので…」
「しかし…マスターの持つ裁きの章と、私の持つ哀切の章。それぞれタイプが異なりますが、組み合わせての発動ってどうなるのでしょう?」
 効果が異なる章で、ベルクのサポートでも出来ればよいのだが…。
 学び始めたばかりなため、今は厳しいのだろうか?と考え込む。
「裁きの章で魔性の魔法防御力を下げることで、哀切の章の効き目が通りやすくなりますぅ。憑く力を失わせて祓いますぅ〜」
「じゃあ物理的効力はない、ということか?」
「魔性が憑いた物をなるべく壊さないように、祓魔術を使うわけですからねぇ」
「試しにやってみるか」
「ではでは〜魔性さん、カモ〜ンですぅ〜!
「エリザベート、呼んだカ?」
 ミニ冷蔵庫に憑いた魔性が、ガッタンッガシャガシャと音を立てながらやってきた。
 冷蔵庫の蓋が口のように、歪な形状に変形させられている。
「なんかシュールだな」
「ワタシは昔、チョーやんちゃんなヤツだッタ。言っとくガ、ワタシはかなりやばいゾッ」
 やばさの度合いが強さなのか、それも妙な口調のほうの意味なのかは不明だが、自信満々に言い放つ。
「さァ、こイ。おガキ様たチ」
「―…たち……だと?俺も含めてということか!?」
「うン」
 不愉快そうに問うベルクに即答する。
「魔性はわざとしゃくに触る言葉も言いますからねぇ。惑わされないように気をつけてください〜」
「そ、そうなのか…」
「おイ、ワタシは動かずに受けてやル。だガ、趣味ではなイ。分かっているナッ?趣味ではないからナッ」
 とても大切なことらしく、2度も同じようなセリフを言い放った。
「じゃあ…、遠慮なく試させてもらうか」
「感情コントロールで、威力を弱めることも出来ますよぉ〜」
「へぇー、じゃあこいつに負担をかけないようにしてやるか」
 何やら悪事を働いたことがあるようだが、それも過去のことだ。
 今は気の良い魔性として、生徒たちのために訓練場で協力してくれている。
「ベルクさん。章のイメージに合わせて、唱えてみてください〜。イメージと異なる詠唱ワードは、効力を発揮しないこともありますよぉ。それと、焦りや不の感情をもって使うと、効力が弱くなったりしますからねぇ」
「術のイメージと、不一致な場合は…っていうのは理解しやすいが。問題は感情コントロールだな」
「か…、感情ですか?」
「(使えるっていう自信をもてなかったりしても、多少影響がありそうだな)」
 上手く扱えるだろうかと慌てるフレンディスをちらりと見る。
「あの、マスター…。私、が…頑張ってサポートします!」
 フレンディスにとっても初めて使う術だが、上手く扱えるだろうかと、がちがちに緊張してしまっている。
「とりあえず落ち着こうな。深呼吸でもして、リラックスしてみたらどうだ?」
「そ、そうですね。―…っ、ふぅ〜〜…」
 ベルクの助言の通りに大きく深呼吸し、気分を落ち着かせる。
 彼女よりも先にパートナーが裁きの章の詠唱ワードを唱え、魔性の頭上に紫色の雨を降らせてみるが、相手はもう悪さをする者ではないから威力を弱めてやる。
「(詠唱は哀切の章のイメージに合わせるんでしたよね…)」
 フレンディスの方は小さな声音で呟くように唱える。
 哀切の章による光の嵐が、魔性の器にされている冷蔵庫の中へ飛び込む。
「―…キャァアアッ!!」
「そ、そんな…。私も加減したはずなのですが…っ。ど、どうしましょう、マスター!」
 魔性の悲鳴に驚いたフレンディスはパニック状態になってしまう。
「だから落ち着けって。よく見ろ」
「ぇ…、あっ」
 ベルクが指差す方向を見ると、悲鳴を上げたはずの魔性は平然としている。
「ワタシは人を驚かすのがスキダ。驚いたカ?」
「ぁ〜…よかったです」
 安心したとたんフレンディスは、へなへなと力なく地面に膝をついた。
「本当はまだ悪いやつじゃないのか?」
「さァ、どうかナッ」
「(ここの連中は、曲者だらけか!)」
 おかげで術を試せたのだが、フレンディスがビックリジョークをくらってしまい、曖昧な態度をとる魔性を睨んだ。