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七不思議 戦慄、ゆる族の墓場

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七不思議 戦慄、ゆる族の墓場

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 それぞれの手伝いのかいもあってか、やがてゆる族の墓場の中央に使い古された着ぐるみたちがうずたかく積みあげられた。これからいよいよ供養が始まるのである。
「さあ、俺たちの出番だぜ」
「ええ」
 巫女装束姿のパンダの着ぐるみの大岡永谷と熊猫福が、祓い串を振って祭詞を唱え始めた。
「この湯庭に坐すここだの御魂はや。あるは蒼人草の心を和ましめ、あるは夜の守、日の守に守り給ひて年頃経ぬるが、今度汝御魂を遷し奉る事とは成りぬ。今ゆ往先、香煙の御条の清き処に遷り出で坐せと鎮め奉るを、穏に聞き給へと申す」
「――みんな、あたいが逝くまで、ここで待っていてね。あたいは全力で生きる」
 熊猫福が、心の中でそうつけ加えた。
 曖浜瑠樹たちの持ってきた線香が細い煙をたちのぼらせ、水無月徹持ってきた御神酒がそばに供えられた。その周りで、コア・ハーティオンや多くの者たちが手を合わせる。
 そして、レキ・フォートアウフがうずたかく積みあげられた着ぐるみに火をつけた。こうして、燃やされた着ぐるみたちは還っていくのである。
「あれは……。そうか、あの巫女もこれで帰れるんだな」
 自分が探していた巫女の着ぐるみを炎の中に見た気がして、源鉄心がつぶやいた。
「わあ、すごーい」
「しーっ、今は静かにしていような」
 燃える炎とたちのぼる煙に歓声をあげる彩音・サテライトに、緋山政敏が言った。
 なにしろ、積みあげられた着ぐるみの数は半端ではなかったので、お焚き上げが始まったのに気づかない物も少なからずいた。
「え、何、焦げ臭いんですけど……。火! 燃えちゃうじゃないですか。結局、気に入った着ぐるみは見つからないし、他の着ぐるみに憑依して移ることもできなかったし。もういいです。ナラカ帰る!」
 着ぐるみを物色するうちに、いつの間にか火に取り囲まれていた笹野桜が、あわててナラカへと帰還した。幸いにも、ここへ来るまでのときのような着ぐるみの拘束は解けていた。
「桜さん……、ああ、燃えてしまっている。成仏してくださいね。なむなむなむ……」
『――しないわよ!』
 手を合わせる笹野朔夜の頭に、お約束通りに笹野桜の声が聞こえた気がした。
「さあ、お焚き上げよ!」
 ウサギの着ぐるみが、嬉々として火術で着ぐるみの山に火を放っていった。燃えあがる火を、しっかりと着ぐるみの中からカメラで撮影する。
「あちちちち」
「あれ? 今の声、サリエル? ずるい、どこにいたのよ」
 サリエル・セイクル・レネィオテ(さりえる・せいくるれねぃおて)の声を聞いた気がして、ウサギの着ぐるみの中の人が周囲を見回した。
 肝心のサリエル・セイクル・レネィオテは、気がついたら山羊の従者の着ぐるみの中にいてこの場所に来たのだが、よく分からないでぼーっとしているうちに、いつの間にかお焚き上げの着ぐるみの中に一緒くたにされていたらしい。そこへ、いきなり火がつけられたのだからたまらない。その犯人が誰であるか確認する間もなく、ナラカへと逃げ帰っていった。
「まさか、サリエルくん、この火の中にいたんじゃ……」
 心配した月詠司が、お焚き上げの炎に近づいていった。
「あら、こんな所にも燃やさなきゃいけない着ぐるみが落っこちてる。よいしょっと」
 朽ちかけた羊のゾンビの着ぐるみを見て、ウサギの着ぐるみが月詠司を突き飛ばした。
「ちょ、ちょっと、私ですよ。思い出しなさい!」
 あわやという所で神楽舞で回避した月詠司が、ウサギの着ぐるみにむかって叫んだ。
「あれは……」
 盛大な炎を見つめながら、雪国ベアが、その中に百物語会のときに厠にぽっちゃんして行方不明になっていたぬいぐるみ妖精の姿を見た気がした。もしかすると、着ぐるみたちと一緒に亡霊に憑依されて、ここにやってきていたのかもしれない。だが、燃えてしまっては、もうどうしょうもないだろう。
「御主人、今火の中に……」
 ソア・ウェンボリスに知らせようとした雪国ベアが、振り返ったとたん思わず後ずさりした。
「代わりはいくらでもあるけど、無意味に燃やされるのは困るんだよね。勿体ないじゃないか」
 ソア・ウェンボリスの足許で、真新しいぬいぐるみ妖精がそんな言葉をつぶやいていた。
 
    ★    ★    ★
 
「しっかり撮れてるな。いや、映像がはっきりしていちゃいけねえのか」
 国頭武尊が撮影しながら、わざとピンとをぼかしたりカメラを振ってぶれさせたりして、モキュメンタリーふうな映像を作りあげていった。
「やったね。大スクープ映像だよ」
 お焚き上げの様子をカメラに収めながら、嬉々としてカレン・クレスティアが言った。
 他にも、この様子を密かに着ぐるみの中から撮影していた者は多い。
 墓守が、物言わずそれらの者たちを軽く一瞥した。
 パチ!
「あちちち、ショートした!?」
 急にビデオカメラから火花が散って、カレン・クレスティアがあわてた。
「どうした、カレン。敵か?」
 その様子に、隣にいたジュレール・リーヴェンディがあわてて周囲を見回したが、怪しい物の姿は見つけだせなかった。むしろ、この着ぐるみ集団では、全員が怪しいと言っても別の意味で正しいわけではあったが。
 
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「おおう、せっかく再生怪人をスカウトしようと思ったのに、肝心の着ぐるみが燃えてしまうではないか!」
 お焚き上げを見て、悪の秘密結社の大幹部の着ぐるみが悲鳴をあげた。
「いや、だが、この炎に意味がないはずがない。そうか、それこそが再生の儀式なのだな。炎の中から、再生した怪人が今ここに……いた!」
 大幹部が、炎を囲んでいる怪しい着ぐるみたちに次々と声をかけていった。
「諸君! 我が秘密結社に入って、怪人、もしくは戦闘員として活躍してみる気はないかね?!」
「はあ、何言ってんだ、てめえ。それより、魂出せよ、ごらあ」
 声をかけたとたん、逆にカツアゲされそうになって、大幹部はあわてて五芒星侯爵デカラビアから離れていった。
「なんという。悪からカツアゲしようなどとは……。む、まいたと思ったのに、またあんな所に……」
 悪魔として声をかけられることを待ち構えていた星辰総統ブエルの姿を見て、さっきの五芒星侯爵デカラビアと勘違いした大幹部はスッと離れていった。
「君たち、四大怪獣大集合として、我が悪の組織に就職しないか?」
 大幹部が、たまさか集まっていた怪獣の着ぐるみを着たジュレール・リーヴェンディと御神楽舞花とアキラ・セイルーンとコア・ハーティオンに声をかけた。
「いや、暑いから、この格好でバイトは……」
「貴様がさっきカメラを壊した敵か!?」
「変な人にナンパされました。――送信っと」
 当然ながら、みんな乗り気ではない。
「やば、何かばれたのかしら。ハーティオン、やっちゃってよ!」
 ラブ・リトルが、コア・ハーティオンに声をかけた。ゆる族でないとばれる前に、証拠隠滅である。
「悪の組織とあれば、鉄槌を下さねばならん。勇心剣! 流星一文字……」
「御迷惑おかけしましたー!」
 あわやコア・ハーティオンの必殺技を食らいそうになった大幹部を、風のように現れたアルテミス・カリストが引っ担いで逃げていった。