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リアクション
キーンコーンカーンコーン……♪
正午のチャイムを聞きながら、皆川 陽(みなかわ・よう)はたこ焼きをくわえて走っていた。
「はふ、はふはふはふ」
元来たこ焼きは凶暴な食物だ。油断をすると容易に牙を剥く。
「はふーっ」
口の中で暴れるアツアツのたこ焼きに翻弄されるように、陽は足を速めた。
「おっと」
どん、と何かにぶつかって軽くよろめいた陽の耳に、甘いテノールの声が飛び込んで来た。
「失礼、余所見をしていたもので」
声の主を見上げ、陽は思わず熱さも忘れてたこ焼きを飲み込んだ。
イケメン!
落ち着いた大人の雰囲気に、どこか少し疲れたような影があるのがまたいい!
……ついに運命の出会いきたーーー!!
「こ、こっちこそすみません、僕も余所見してたんです」
精一杯の笑顔を浮かべてそう言うと、イケメンも微かに笑顔を零して、言った。
「実は、娘とはぐれてしまいまして……6歳の女の子なんですが、どこかで見かけませんでしたか」
陽の表情が失望に染まった。
(子持ちはちょっとーっていうか、多分奥さん付きですよね? 僕、不倫趣味とかないんですぅー)
失望のあまり、チャイムの音まで歪んで聞こえる。
適当に返事をして、その場を離れようとした陽は、目の前の光景が一瞬前とはまったく異質なものに変化していることに気づいた。
明るく陽の光が降り注いでいた空が、どんよりと曇っている。行き交う人々の顔からは笑顔が消え、恐怖の表情を貼り付けて右往左往している。
そして、この足元に這い寄る白濁した粘菌のような名状しがたき妙な物体は、何?
この歪んだチャイムの音は、いつから鳴り続けている……?
「真理に気付いてしまったか……」
ふいに傍らでユウ・アルタヴィスタ(ゆう・あるたう゛ぃすた)が囁いた。
「そう。すべては、ヒトのための消費対象物でしか在れないのだ。ただ一時の欲望のために、生まれ、そして捨てられゆくモノ達……」
意味がわからない。そしてその目は、異様な光を放っている。
「……って、ユウは通常運転だな」
陽は呟いて、我に返ったように周囲を見回した。
「とにかく、逃げないと!」
とにかく離脱しようと箒を取り出しかけて、右往左往する人々の波に逆らうように立っている、先刻のイケメンパパの姿が目に留まった。
まだ娘を捜しているのだろう。
「あーもー、仕方がないなぁ」
陽は軽く嘆息して駆け出した。
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