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日帰りダンジョンへようこそ! 初級編

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日帰りダンジョンへようこそ! 初級編

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06:立ち塞がる壁、というか山






「ヒャッハー、遺跡だー!3ドットくらい落ちたらピチュるかな!?」
「青夜、それ違う。遺跡違う。洞窟だし、某先生だし」
 現実じゃピチュったりしないぞ、と、謎の掛け合い漫才のような会話と共に、迷路を潜り抜けてきた御宮 裕樹(おみや・ゆうき)久遠 青夜(くおん・せいや)は、「うわあ……」という一声と共に後ずさった月見里 九十九(やまなし・つくも)が、横道に戻ってくるのとぶつかって「おっと」と足を止めた。
「どうかしたのか?」
 そのまま道に隠れようとした九十九は、裕樹がそう問うのに、静かに、と合図しながら囁いた。
「あれ。あの姉さん」
 その指が指し示した方向を見て、裕樹もまた九十九と同じように「うわあ……」と呟いた。


 遺跡の底に、地下牢の名に似つかわしくない豪奢なサロンがあるように。
 そこに何故か、ケーキと紅茶を運ぶメイドが居るように。
 迷路を抜けたその先の、この岩肌がむき出しの通路にも、似つかわしくない姿があったのである。
 
「お初にお目にかかりますわね。私、アルファーナ・ディスリーと申しますわ」

 隠れている九十九たちより先に到着していた挑戦者たちに向って、そう言ってにっこり笑い、淑女のように膝を折って見せたその女性は、どこかの貴族の舞踏会にでもそのまま出られそうな、丁寧に櫛の入った金の巻き毛と、気品のある化粧をした美しい女性だった。
 ただし、その豊満な胸を遺憾なくアピールするセクシーなドレスを、もっと露出の無いものへ着替え、その手に持った長い鞭を、手袋と扇子に持ち替えれば、の話だが。
「ここまでの道中、難儀されたようですわね」
 お疲れ様でしたわね、と労わるような声とは裏腹に、その顔はくすくすと笑っている。
「クローディスお姉さま、とっても素直な方だけど、あれで案外、いけずですものねえ」
 ふふ、と目を細めて笑う、アルファーナと名乗った女性は、どうやら彼女の出したメモのことを言っているらしい。
「……まあ、そうだな、素直ではあったよなあのメモ」
 メモの通り、”入り口に入って直ぐ”横道を探した九十九が姿を隠したままに言えば、レン・オズワルド(れん・おずわるど)が軽く笑って同じようなことを口にする。
「確かに、ヒント自体には、変な引っ掛けはなかったな」
 そこまでは予想通りで、しかし何人かがその二人の言葉に、苦笑したりげっそりしたりと反応は様々だった。
 迷路の中の横道を探して、遠回りすることになった者や、横道に入れば安全、と油断した途端落とし穴に落ちかかった者など、メモ以外の場所で躓きかけた者もそれなりにいたようだ。
「確かにまあ、答えとは書いてあったけど、安全、とは書いてなかったよなあ」
 九十九がため息のように吐き出す。結果、クローディスが言ったように、時間差はさして問題なく、皆だいたい同じ程度のタイミングでこの場所に集結するに至ったわけである。

 そんな一方で、アルファーナと自分のパートナーたちとを交互に見比べて「うん」と何を納得したのか頷いたのは樹月 刀真(きづき・とうま)だ。そんな刀真に、じとり、と漆髪 月夜(うるしがみ・つくよ)が視線を送る。
「……何、見てるのよ」
 声を低めたのは、刀真の目線の意図を悟ってだが、果たして、刀真は真面目な顔で「大丈夫」と月夜の肩を叩いた。
「俺は満たされてるし」
 何が、とは言わなかったが、その視線で一目瞭然だった。
「もうっ、刀真のスケベ!」
 顔を真っ赤にして憤慨した月夜に、くすくすと笑いを零したのは玉藻 前(たまもの・まえ)だ。こちらは月夜とは逆に、その豊かな胸を褒めてもらえたことは嬉しそうである。だが、放っておくと月夜がいつまでも怒っていそうだったので、笑いを堪えながら玉藻は月夜の頭をなでなでと宥めるように撫でた。
「刀真は我らで十分だと言っているんだから」
 褒めてもらっているのだから、そう怒るものではないよ、と続けたのだが、月夜はまだ口を尖らせたままだ。十分だ、とは言われたものの、アルファーナといい勝負な玉藻と比べれば、彼女に対して控えめな自分のコンプレックスを直につつかれたのだから仕方ない。
「アルファーナさんって、それ、寄せてあげてるの?」
 そんな月夜に、拍車をかけるように、出会いがしらにとんでもないことを口走ったのはルーナ・リェーナ(るーな・りぇーな)だ。ぴしいっと場が硬直したのに、ディアーナ・フォルモーント(でぃあーな・ふぉるもーんと)は「ちょっと、ルーナ!」と慌てたように声を上げたが、ルーナは気にする風もなく、幸いにもアルファーナの方も面白がってくすくすと笑っただけだ。
「いいえ、作っていただいた時から、このサイズですのよ」
「そうなんだ、でも重そうだね」
 子供だからこその発言だが、見ている方は妙な緊張感に掌で汗を拭った。判っていないのは当の本人だけである。純粋に大変そうだなあ、という目で少し考えたあと「そうだ、あのね」とぽん、と手を叩いて更なる爆弾を取り出してきた。
「ディアが制服のデザインが崩れないように小さく見せるブラっていうのを使ってるの」
「ふえっ!?」
 予想だにしていなかったルーナの言葉に、ディアーナの声がひっくり返ったが、やはりルーナは気にしていないようで、「良かったらアルファーナさんも……」などと言いながら、本当にブラジャーを取り出し始めようとするので、声にならない声を上げてディアーナは慌てて押さえつけた。
「ちょっと、何で持ってきてるのルーナぁあ……っ」
「……胸、小さく見せるって、小さく見せるって……そんな必要……っ」
 二人のかなりニュアンスの違う声が悲痛に漏らされる中、その隣を滑りぬけてアルファーナに近づいたのは、朱鷺の操る、クローディスのコピー人形だ。見た目は本物そっくりの式神は、アルファーナの前へ至るとにっこりと笑って見せた。
「悪いな、アルファーナ、通してもらえるか?」
 声も口調も本人に良く似ていた。事情を知らない者は、新人の回収に当人が来た、と思っただろう。
 だが。
「あらお姉さま、ただでお通しすることはできませんわ」
 と、アルファーナはにっこり笑ったかと思うと、がしっとその体に抱きついてぎゅうっと抱きしめた。その瞬間、ダイナマイト・ハグを食らったからか、それとも別の理由だったのか、クローディスの姿は掻き消えて、人形の姿に戻ったそれはころんと床に転がったのだった。それを見下ろして、アルファーナは「私にお姉さまがわからないわけがなくってよ」とにっこりと笑う。
「さあ、次はどなたが遊んでくださるのかしら……?」
 その表情に、俄かに挑戦的なものが混じったのに、皆もすぐに表情を引き締めた。
 勿論、全員が全員、同じ意味で、ではなく、戦部 小次郎(いくさべ・こじろう)はその豊かな胸元に対してきらりと目を輝かせていた。
「そのおっぱいを目の前にして、挑まないわけにはいきません」
 きっぱり言い切って、小次郎は兵は神速を尊ぶという言葉どおり、勢い良く正面から彼女を押し倒すべくタックルにかかった。が。
「暴力反対ですー―っ!」
 二人の間に猛然と飛び込んだのは、ソルファイン・アンフィニス(そるふぁいん・あんふぃにす)だ。両手を広げて制止を求めたが、何しろ小次郎は全力での突撃の最中だ。急に止められる筈がなく、結果。
「どぅあ……っ!!」
 どーん、という衝撃音と共に正面激突した二人は、お互い激突した部分を押さえながら暫く呻いていたが、いち早く衝撃から復活した小次郎は「おい」と非難めいた視線をソルフィンへ向けた。
「ちょっと、どういうつもり……」
「ちょっと、ソル……、何やってるの……っ」
 文句をつけようとした小次郎の言葉は、リカイン・フェルマータ(りかいん・ふぇるまーた)の叫びにかき消された。
「私たちは治療に来たんでしょ、怪我人を増やしてどうするのよっ」
 その言葉の通り、リカインはソルファインとアストライト・グロリアフル(あすとらいと・ぐろりあふる)の兄弟を連れて、怪我人の治療の手伝いをしよう、とやって来ていたのだが、いまいちやる気のないアストライトに比べれば、まだ真面目に手伝っていた方だったソルフィンの、問題はこれだった。
「しかし、敵であれ味方であれ、暴力はいけません、暴力は」
 きっと真面目な顔で熱を込めて言うが、そんな顔で見られたアルファーナのほうこそ困ったような顔をしている。
「そう言われましても、私もお仕事ですのよ?」
「それでも、です」
 首を傾げたアルファーナに、ソルファインは頑なだ。これではどちらが妨害しているのかわからない。
「なあ兄弟、あちらさんはやる気だしよ、諦めた方がいいんじゃねえ?」
 見かねてアストライトも口を出したものの、やはりソルファインは首を振る。
「いいえ、諦めません。暴力を振るえば、それだけ平和は遠ざかるのです……」
 突然始まったその演説に、挑戦者たちだけでなく、アルファーナまであっけに取られてぽかんとしてしまっているが、ソルファインは構わず続ける。
「武器を持てば、相手も武器を持つのです。つまり、全てを捨てなければ平和は成り立たないのです。つまり」
 ばっ! と衣服を脱ぎ捨てて、現れたソルフェインの姿は、何故かパンツ一丁。
「これが完全な平和の証っ、さあ、みなさんも……!」
「って、なれるか!」
 思わず小次郎はツッコミを入れた。
「男のおっぱいなんて、見てもつまらないんですよ……っ」
 論点が違う。と、皆の心が一つになった、次の瞬間。
 しゅるるる……と振るわれた鞭は、器用に二人の体を纏めて絡めとってしまうと引き寄せ、ぎゅうっとそのまま抱きしめた。圧倒的な胸圧がふたりをぎゅうぎゅうと挟み込み、おまけとばかりにその耳に息を吹き入れる。
「はぁい、ちょっと……おやすみになってくださいませね?」
 囁く声はぞわぞわっとするような声色で、とどめとばかりはみっと柔らかく耳朶を噛まれた二人は、原因:窒息死、とされてしまいそうな特盛りに埋まること六秒半で、がっくりと撃沈したのだった。
「さすがに、パンツ一丁の殿方をそのまま放置しておくわけには参りませんわ」
 微妙に視線を逸らしているあたり、実は恥ずかしがっているらしい。
「ま……まだ、まだです……暴力を止めるのが僕のしめ……」
 自分の姿を省みれば矛盾もいいところだが、そこはあえて誰も突っ込まないでいると、沈むのが早ければ復活も早いのか、よろよろしつつも二人は何とか立ち上がろうとした、が。
「えいっ」
 ゴスッ、と。とても痛そうな音と共に、リカインの疾風突きが、ソルファインを沈黙させたのだ。
「うお、ちょっ、このバカ女、兄弟に何すんだっ」
 アストライトが声を上げたが、怒っている、というよりちょっとびくっとなっているのは気のせいだろうか。抗議するその言葉に、リカインは悲痛溢れる面持ちで、重苦しく首を振った。
「こうでもしなければ、止められなかったもの……」
「……ええと、仕切りなおしと行きましょうか」
 微妙な空気になりかけた中で、こほんとわざとらしく咳き込んだのは御凪 真人(みなぎ・まこと)だ。
 先程までの空気を何とか払拭して、臨戦態勢になっている真人に、アルファーナも挑戦的にくすりと笑う。
「次はあなたがお相手してくださるのかしら?」
「いいや、あんたの相手はオイラだ!」
 胸を張ったのはトーマ・サイオン(とーま・さいおん)だ。
 言うが早いか、真人の攻撃のための囮になるため、疾風迅雷の速さで飛び込むと、その直線的な動きに、即座に向ってきた鞭を、空蝉の術で等身大たいむちゃん人形と入れ替わることで回避する。
「もら……っ、うわッ」
 だが、安心するも束の間。捕まえたのが人間でないのが直ぐにわかったためか、間髪いれずにニ撃目が襲い掛かってきたので、咄嗟に何とかジェイダス人形(大)と入れ替わった。今度は先程よりも人間に近かったが、やはりそれにだまされてくれるほど、生半な相手ではないらしい。直ぐに再び鞭が襲おうとするのには、歴戦の経験が体を動かさせ、絶妙な立ち回りで、なんとか距離を取って、トーマは額の汗を拭った。
「にいちゃん、あの鞭結構厄介だぜ」
 トーマが言うのに、その一部始終を観察していた真人は、そうですね、と難しい顔で頷いた。
「やっぱり人間でないと隙を作ってはくれないようですね……」
「じゃあ突っ込んでいくしかないな!」
 妙に嬉しげに言ったのは、アルフだ。
「ここは俺に任せて、先に行け、エルヴァ」
「……いいけど」
 映画のように格好よい台詞を口にしたアルフだが、その真意などお見通しな、エールヴァントの反応はどこか冷ややかだ。そして、ぱしーん、と拳と掌を会わせてやる気満々のアルフの後ろで、青夜がまだ状況がわからない、と言う顔で首を捻った。
「なになに、あの美人のおねーさんが、何だって?」
「どうやら、あのお姉さんに捕まったら、ダイナマイトにハグしてもらえるらしいぜ……って」
 興味津々な目に、説明してやる裕樹だったが、最後まで言い終える間もなかった。
「な、なんだってー!そんな僕得な……!!」
 きらきらっと目を輝かせる青夜に、裕樹はあーあ、と胡乱な目をしたが、こちらもエールヴァントと同じ意味で予想通り、と顔に書いてある。
 そしてその、隣では。
「考えられる対応は、円の上から相手を退かすか、円自体を破壊するかだな」
 だがいずれにしろ、両者の性質やらを確認しなければ、と日比谷 皐月(ひびや・さつき)は真剣に考えをめぐらせながら、口を開いていたのだが、その意思や作戦を伝えるべき相手は、と言えば。
「おい、聞いてるか、お前ら。おい。おーい……?」
 呼びかけたが反応はない。それもそのはずで。
「まずはおっぱいを堪能しよう」
 と五十嵐 睦月(いがらし・むつき)が言えば。
「五月蝿いですよ」
 と雨宮 七日(あめみや・なのか)がじっとりとその顔を睨みつける。
「話はそれからだ」
「五月蝿いって言ってるんですよ、さっきからおっぱいおっぱいと……あんな脂肪の塊の何が良いんですか」
「何言ってるんだ、おっぱいに興味ない男の子なんかいないぜ」
 そんな言いあいをしていたかと思うと、くるりと二人揃って振り返ると、「皐月」と二人は同時に口を開いた。
「な、そうだよな」
「まさかと思いますけど、ナインと同じ事を言い出したりはしないですよね」
 余り表情の変わらないままおっぱいを語る睦月と、苛々をじわじわと吹き上げる七日に、皐月は盛大にため息を吐き出した。この様子では一切聞いていなかっただろう。
「お前ら、せめてもう少し、仲良く出来ねーもんかね」
 皐月が思わず漏らした瞬間だ。二人に浮かんだ表情と沈黙に、皐月は更にため息を吐き出した。
「無理か。…………無理か……」
 かくんと首を落とす皐月の肩を、自分が原因だと判って居るくせに、何事もなかったかのように「まあまあ」と睦月は叩く。
「とにかく、まずは確認なんだろ?」
 行って来る、とアルファーナに向って睦月が飛び出すと、それに続くように、青夜も飛び出した。
「やっふー!突撃だぁー!!」
「ちょ、抜け駆けかよっ」
 そして更にその後を、慌てて飛び出したアルフに、やっぱりか、とエールヴァントのため息が混ざる。
 かくして、飛び込んだ三人だったが、大方の予想の見事ストライクで、ひゅん、ひゅん、ひゅん、と空を切った鞭の三振るいで絡め取られた三人は、その細腕からは想像のつかない力で引き寄せられたかと思うと、その足が地面についたかどうかもわからない内に、一気にぎゅううっとその胸の谷間にホールドされたのであった。
「……ま、予定通りというか」
「そうだね」
 裕樹とエールヴァントは、ため息をつきながら、しかし、実際のところ彼らが飛び出したときには一歩踏み出して、その鞭が彼らを捕らえるのを待ってから一気に駆け出した。
「え、おい……?」
 最初からパートナーを囮という名の盾にする気満々だったとありあり判る二人に、皐月は面食らったようにしていた、が。
「今だ……!」
「ごめんね、お先に失礼」
 と、まさにそのタイミングで、更に九十九と他数名が横をすり抜けていったのである。ダイナマイト・ハグの最中のアルファーナの傍を、躊躇いなく通り抜けていったその背中に、もう言葉のない皐月を尻目に、アルファーナは面白そうに笑った。
「薄情な方たち……と言いたい所ですけど」
 これも正統な作戦である。狙いどころは正確だわ、とアルファーナは笑って、腰砕けになった三人から腕を離した。十秒と待たずあっさり落とされた三人は、起き上がれなくなっているがそれぞれ満足そうだ。
「ふへへ、僕、もうおなかいっぱい……」
「すげえ……胸圧、だった……ぜ」
「……ごちそうさまでした……」
 そんな三人に、何とも言えない顔で、皐月は思わずアルファーナに訊ねた。
「……十秒ぐらい、かかるんじゃなかったっけ」
 それには、アルファーナはにっこりと笑う。
「ええ、抵抗されれば、流石の私もそのくらいはかかりますわ」
 早かったのは推して知るべし、である。
「……さ、次はどうなさいますの?」
 そう言われても、気概をがっつりと削ぎ落とされた皐月には、咄嗟に作戦も出てこない。そんな皐月をどう思ったのか、七日がにじりよると、じっと窺うようにその目を覗き込んでいた。
「皐月、もしナインと同じ目にあいたいなんて言うなら」
「何……?」
「容赦なく……ええと、ぐーぱんち、です」
 あの人ごと粉砕しますから、と本気の声が言った。ぐーぱんち、などと可愛い名前をしているが、その実は大魔弾『カムイカヅチ』である。この狭い通路では、地下ごと粉砕しかねない。
(それって死ねってことか、おい?)
 そんな感想を、皐月は賢明にも飲み込んだのだった。



 そんな彼らを見やりながら、ニキータ・エリザロフ(にきーた・えりざろふ)は盛大にため息を吐き出した。
「まったく……目的見失ってんじゃないのかしら」
 呆れた調子で呟いた横で、うーん、と唸ったのは鳳明だ。
「やっぱり、通り抜けるしかないのかなあ」
 その呟きに、ふむ、とレンが考えるように首を捻り、ややして「ひとつ、聞いてもいいか」とアルファーナに話しかけた。
「何かしら?」
「円陣から出てこないのは、何か理由があるのか?」
 その質問に、アルファーナは勿論、と頷いた。
「レベル設定は2を維持、と言われているわ。ここを出て戦うと、それを逸脱してしまうの」
 その言葉に、何人かが首を捻り、レンも考える間を空けて「なら」と再度口を開いた。
「提案がある。そこから一歩でも出たところで、負けを認めて俺たちを通してくれないか?」
 唐突な提案に目を瞬かせるアルファーナに、レンは続ける。
「俺は、あんたを敵として倒したいわけじゃあないが、ただ通り過ぎる、というのも性に合わない」
 だから、お互いに納得できる決着を付けたい、と説明するレンに、アルファーナは面白そうに目を細めると、そうねえ、と少し考えてから「それなら」と提案を返してきた。
「私がこの魔法陣の効果を得られなくなったら負け、ということでどうかしら」
 陣から出るだけ、では不利すぎるからという理由での提案に、首を捻ったのは鳳明だ。
「それって、魔法陣をどうにかしろってこと?」
「さあ、どうかしら」
 アルファーナはくすくすと曖昧に笑って、首を傾げてみせる。
「正解をただ与えられるのでは、面白くないのではなくて?」
 挑発的な笑みに、よおし、と鳳明は、気合を入れるようにぱしん、と掌を叩いた。
「頑張らなきゃ。ね、天樹ちゃん」
 だが、そんな彼女とは裏腹に、藤谷 天樹(ふじたに・あまぎ)の方はいまいち乗り気ではなさそうだ。
 ここに来るまでも、さっさと落とし穴におちてやろうとしていたぐらいだ。面倒くさい、と精神感応で伝えるまでもなく顔に書いてあるが、じ、と鳳明がその目を見つめてくるのに、はあ、と諦めたようにため息を吐き出した。

(はいはい……わかった、ちゃんとやるよ)