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リアクション
二階、廊下。
「……いちゃいちゃとバカップルが多すぎだ」
和深は少し苛立ちが見える調子でぼやいた。先ほどから手やら腕やらを組んで歩くカップルばかり。そこで可愛らしい悲鳴を上げようものならさらに苛立つ。
「ここはホラーハウスですから」
流が簡潔に答えた。
「次は誰を驚かすのだ? あちしはいつでも準備出来てるのだー」
透過飴で姿は見えないが、きっと真面目な顔で和深の指示を待つ春夏秋冬。和深の指示の元、透過飴を食べて男に抱き付いたり女の胸に飛びついたりと活躍をしていた。
今は少し人の波が途絶えたところだ。
「……次は」
和深はターゲットはいないものかと辺りを確認。
そして、発見。
「あの二人だ。めちゃくちゃにやれ」
向かいから来る優と優の腕に抱き付いている零。怖い中でも幸せに満ちている二人。
何となくターゲットにしたくなる。
「了解なのだ!」
元気よく春夏秋冬は出撃した。
「……やり過ぎないで下さいよ」
張り切る春夏秋冬に注意をする流。
「大丈夫なのだ!!」
流の言葉に元気よく答える春夏秋冬。本当に分かっているかは怪しいが。
「きゃぁ」
春夏秋冬は、零に抱き付き、頬にスリスリしたり優の背中に抱き付いたりとくっつきまくる。見えないだけに不気味だが、二人はしっかりと腕を組んだまま。それが二人の絆の強さの表れでもある。
「……俺も」
じっと離れない腕を見ていた和深は何となく邪魔をしたくなった。組んだ腕を引き離したいと。
そんな和深が透過飴を口に放り込もうとするのを流は見逃さなかった。
「……それはダメって言いましたよね」
顔は笑顔だが、言葉の調子にはほんの少し怖い匂いが見え隠れ。
「もう少し盛り上げようと」
和深は何とか許可をして貰おうと言うが、流の言葉は変わらない。
「私、ダメって言いましたよね」
先ほどよりもさらに怖い匂いが強くなっている。
「……大丈夫だから」
和深は透過飴を口に放り込んだ。
しかし、透過飴が口に入る前に流の『煉獄斬』によって透過飴は燃え尽きた。
「……仕方無い」
透過飴を使わせて貰えないならこのまま突撃しようとした時、背後から殺気を感じて振り向くと『鬼神力』を使い、醜い姿の流が立っていた。
「……ダメって言いましたよね」
ゆっくりと和深に近寄る流。
「ちょ、流!?」
和深はヤバイ展開に大慌て。
思わず隠れていた所から飛び出してしまった。
「うわぁ、すごいのだ!!」
春夏秋冬は役目を忘れて流と和深のやり取りを楽しそうに見ていた。
「……優」
「大丈夫だ」
現れた流の姿に不安そうにする零に優しく言い、このまま進むのは危険と判断し、零を連れて来た道を戻った。
「ちょ、待てって」
無駄だと分かりながらもやめてくれるのをほんの少し信じて嘆願する和深。
「あははは、和深、驚いてるのだ!」
姿の見えない春夏秋冬は無邪気に笑っている。これまた助ける様子はない。
「ぎゃぁぁぁぁあぁぁぁ」
流に鉄槌を下された和深の無残な悲鳴が響き、ベルの歌声を盛り上げた。
和深の悲鳴は同じ廊下にいた東雲の耳にしっかりと入っていた。
(……和深様の悲鳴。流様を怒らせたに違いありませんね)
少し離れた所でベルは歌いながら和深の悲鳴を聞いていた。
この後、誘導員として歩き回っていた木枯と稲穂が『応急手当』で和深の手当をしている流を発見し、声をかけた。
「手伝うよ〜」
「大丈夫ですか?」
そう言って木枯が『ナーシング』で流を手伝った。
「……ん? わっ」
目を覚ました和深は自分を覗き見ているたくさんの顔に驚きの声を上げた。
「和深が起きたのだ!」
両手を万歳して喜ぶ春夏秋冬。透過飴の効果はすっかり切れている。
「……和深さん、申し訳ありません」
流は和深を気絶させてしまった事に謝った。
「……はは、大丈夫」
和深は上半身を起こして笑いながら言った。
「もう大丈夫ですね」
稲穂が和深に無事を確認。
「何とか」
和深は稲穂に息を吐きながら無事である事を伝えた。
「ありがとうなのだ!」
「……助かりました」
春夏秋冬と流はそれぞれ木枯と稲穂に礼を言った。
「気を付けてね〜」
「……良かったです」
木枯と稲穂は挨拶をして行ってしまった。
その後、和深はゆっくりと立ち上がった。
「……もうしないで下さいね。もしやれば」
流がにっこりと笑顔で和深に念を押した。
「……分かってるよ」
和深は苦笑いで答えた。
「また驚かすのだー!」
春夏秋冬は元気よく透過飴を食べた。
再び仕事を再開した。
一階食堂、喫茶店。
「……おいしいけど、もっとカラフルだったらいいのに。ピンクとか」
ホラーなスイーツの試食をしながらぼつりと文句を口にするユルナ。
営業開始少し前に喫茶店に来てずっと試食を続けている。長テーブルにはたくさんの食べ物が並んでいる。
「ねぇ、そう思わない?」
社交性のあるユルナは向かいの席に座るルファンに賛同を求めた。
「それは仕方無かろう。ここはホラーハウスだからのぅ」
同じように試食をしているルファンは答えた。
「でもお菓子の国とかの方がずっといいと思う」
ユルナはまた辞職したスタッフ達を傷付けた言葉を口にした。
何にも考えていない事は明か。
「……もしそのお菓子の国とやらが失敗したら次は別のものを考え、またそれが失敗したら別のものを考えるのじゃろう」
そんなユルナにルファンは厳しく窘めた。
「……それが経営でしょう」
窘められて少し苛立ったユルナは、口を尖らせた。どうやらまだファンシーなお菓子の国を諦めてはいないようだ。もしかしたら、ホラーハウスを黒字にしたら自分の希望のものに変えようと思っているのではと彼女の言葉から感じられる。ルファンはそれを察していた。
「……それでは、望みのお菓子の国にしたとしても失敗するじゃろう。最初はうまくいったとしてものぅ」
施設を変えても人が変わらなければ意味が無い。誰が見ても分かる事だ。
「……そんな事は」
ルファンの言葉にも一理あると口ごもってしまった。
いいタイミングでイリアがホラー料理を運んで来た。
「ダーリン、今度はこれを食べてみて」
「うむ」
イリアを見送ってからルファンは一口食べた。
「ホラーよりもお菓子の国とかの方が喜ぶはずよ」
ホラー料理を食べるルファンになおも言い張るユルナ。一理ある事は認めたくない。認めたら自分が悪いとなるから。
「……そなたはそうかもしれぬが、ここを訪れる者はホラーを求めておる」
「……それは」
ルファンは、試食の手を止めてユルナの相手をする。
ユルナは黙った。ここからでも聞こえるし見る事が出来る。悲鳴の声。そして、この喫茶店で寛いでいる客達。ルファンの言うようにここがホラーハウスだから来た事は見れば分かる。
「分かっておるようなら何が必要か分かるじゃろう。施設自体を変える前にするべき事がのぅ」
ユルナの難しい顔から自分の言葉が届いたのだろうと理解し、この言葉を最後に黙って試食の手を忙しくした。
「……」
ユルナは黙って重たそうにスイーツを食べるを手を進めた。
そこに写真を全て回収したノーンと舞花が登場。
「イリアちゃん、リクエスト!」
「はいはい」
ノーンに呼ばれてイリアは急いで行く。
そしてノーンからこんなスイーツが食べたいというリクエストを受け、厨房へと急いだ。
その間、舞花は試食をしているユルナの元へ。
「ユルナさん、こんちは。すみません、まだ宝物は見つかっていません」
舞花は今の状況を話した。
「……そっかぁ」
ユルナはルファンの言葉が残っているのか少し重たそうに言った。
「心配しなくても大丈夫です。まだ探していない所がありますから」
舞花はまだ希望はあるとユルナをがっかりさせないように言った。
「ありがとう」
ユルナは頑張ってくれている舞花とノーンに礼を言った。
「いえ、お礼は宝物が見つかってからです」
そう言って舞花はスイーツを食べているノーンの隣の席に行った。
この後、ルファンがひそかに受付までお使いに行った。
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