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第1章 アイドル交代

「ねえ君、アイドルになってみない?」
「えっ」
 突然かけられた声に、ネーブル・スノーレイン(ねーぶる・すのーれいん)は青い目を見開いた。

「更衣室は他の子と別でもいいのか? なんでって……見ての通り、女装、しなきゃいけないからな」
「構わないよ! それにボクだってボーイッシュって言われてるしね」
 月見里 九十九(やまなし・つくも)の言葉に笑って返すのは、アイドル。
 今売出し中の、KKY(KUKYO)108のメンバー。
 彼女たちは、自分の身代わりになってくれる人物を探していた。
 一日の、ほんのわずかな休息のために。

「ね、お願い!」
「どうするんじゃね」
「うーん、困ってるようだし、なんだか面白そう。イリア、頑張ってみる!」
 こちらもアイドルに頼まれたイリア・ヘラー(いりあ・へらー)
 ルファン・グルーガ(るふぁん・ぐるーが)の言葉に僅かに悩む素振りは見せたものの、すぐに笑顔を見せる。
「ほほう、なかなか興味深い」
 その様子を興味深そうに観察しているのは長尾 顕景(ながお・あきかげ)
 顕景はあくまでも傍観者として楽しむ立場らしい。
「ついでに……一日デートもお願いしたいんだけど……」
 イリアにそっくりなアイドルは、ちらりとルファンを見る。
 それを見てイリアは慌ててアイドルとルファンの間に割り込む。
「だ、駄目ーっ! ダーリンはイリアのだからねっ!」

「誰にも息抜きが必要よ。代わりに1日頑張っちゃうわ」
「ありがとう!」
 アイドルにぎゅうっと手を握られているのは、リリア・オーランソート(りりあ・おーらんそーと)
「でも……がんばってやってみるけど、失敗しちゃったらゴメンね」
 てへっと舌を出すリリアに、アイドルもくすりと笑う。
「リリアが頑張るなら、俺もできる限り応援するよ」
「やるからにはリリアの最大限の力を引き出さなくてはいけませんね」
 エース・ラグランツ(えーす・らぐらんつ)メシエ・ヒューヴェリアル(めしえ・ひゅーう゛ぇりある)も協力を申し出る。
 しかし。
「握手会は辞退させますよ。それから水着で運動会もね」
 メシエはスケジュール帳を取り出すと、何やら書き込みを始める。
「えーっ」
「当然でしょう。握手会は熱心なファンが集まるのですから。代役がバレると面倒です」
「う、うーん、そうかな」
「水着で運動会もTV放送でアップで撮影されると、代役を見抜かれる可能性があります」
「もう、メシエってばあれこれうるさいんだもの……」
 リリアの文句にも耳を貸す様子はない。
 本当は彼女を他人と握手させたり水着姿を見せるつもりはないという彼自身の個人的な都合から来るものなのだが、そんな様子はおくびにも出さず、てきぱきと仕切り始めるメシエだった。

「アイドルってのも、なったらなったで贅沢な悩みもあるものね」
 話を聞いたアリアンナ・コッソット(ありあんな・こっそっと)は、大げさに肩を竦めた。
 そしてくすりと笑うと、片目を瞑る。
「でもまあ、一日くらいなら協力してもいいかな。面白い体験かもしれないしね」
「アリアンナは歌も踊りも上手だから、きっと無事代わりを務めることができますよ」
 ロレンツォ・バルトーリ(ろれんつぉ・ばるとーり)が請け合った。
「だから、あなたはゆっくり『迷う』といいですよ」
「迷う……」
 ロレンツォの言葉を、アイドルは繰り返す。
 自分に言い聞かせるように。
「そうです。『迷い』は人をステップアップするために不可欠なものです。あなたが迷うための一日を、私たちがプレゼントしますよ」