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めざめた!

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めざめた!

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    ★    ★    ★
 
「多分このへんのはずですが……」
「ああ、来ましたです」
 町外れで待ち構えていた一瀬 瑞樹(いちのせ・みずき)一瀬 真鈴(いちのせ・まりん)が、ドクター・ハデスと下川忍を見つけた。
「しまった。もう、組織の手の者が……」
「大丈夫だよ。ハデスさんは、ボクが守るんだから」
 怯むドクター・ハデスに、下川忍が言った。
「ちょ、ちょっと、何か勘違いしています。私たちは、ハデスさんたちの味方です」
「ええそうですよ。私たちは正義の味方に目覚めたのです」
 あわてて一瀬瑞樹と一瀬真鈴が、ハデスの誤解を解こうとした。
「だが、お前たちもオリュ……」
「しーっ」
 疑うドクター・ハデスの言葉を、一瀬瑞樹があわてて遮った。
「どうしたの、その悪に追われているって人たちは、見っかったの?」
 遅ればせに、神崎 輝(かんざき・ひかる)がこちらへと走ってくる。
「輝さんは、オリュンポスのことは知らないんです」
 一瀬真鈴がドクター・ハデスに説明した。
「ミネルヴァさんの通信は聞きましたが、私たちはハデスさんたちを攻撃するなんてことはできません。だから、ここは正義に目覚めて、お二人を守ります」
「ありがたい」
 一瀬真鈴の言葉に、ドクター・ハデスが手を握りしめて喜んだ。
「あらあら、仲良しさんですねえ。でも、そこまでですわ」
「何者ですか!」
 突然聞こえてきた声に、神崎輝が誰何した。
 ぷっすんぷすぷすとエンジン音を響かせながら、豪華な自動車がやってくる。ぴたっと止まった自動車のドアをメイドが開けると、中からミネルヴァ・プロセルピナが現れた。
「裏切り者には死を。やっておしまいなさい、怪人ディザスター・スリーよ」
 ミネルヴァ・プロセルピナが命じた。
「ちょっと待たんかい。いつから自分らは怪人になったんじゃ!」
「まあまあ、いいから暴れるぞぉ!」
 いきなり一山いくらの怪人にされてメイスン・ドットハックが怒るのを、鵜飼衛が押し止めた。
「さあハデス、年貢の納めどきじゃ! 裏切り者には死を!」
「そうはいきません!」
 台詞を決める鵜飼衛に、一瀬瑞樹が言い返した。
「裏切り者が増えたか。貴様等がハデスを手引きした者じゃな! カカカカカッハッー、悪の秘密結社オリュンポスを舐めるなよ! 全員返り討ちにしてくれる!」
 言うなり、鵜飼衛が呪符を掲げた。
「来よ、黒き翼よ!」
 中に飛ばされた呪符が燃え尽きると同時に、高空からダークブレードドラゴンがドクター・ハデスめがけて真一文字に急降下してきた。
「だめー!!」
 神崎輝のシャウトに驚いたダークブレードドラゴンが方向を変える。
「メイディングスター!!」
 そこへ、下川忍が星を落とした。あわてて、ダークブレードドラゴンが退散する。
 だが、その星の雨を縫うようにして、メイスン・ドットハックが機甲斧剣フラガラッハを持って突っ込んできた。
「真っ二つにしちゃるけー、覚悟せーや! 名店斬三麗善!
そうはいかないです!
 一瀬瑞樹が、魔導剣ビッグ・クランチで真っ向からフラガッハを受けとめる。大剣同士が激しくぶつかり合って、メイスン・ドットハックと一瀬瑞樹が弾かれるようにしていったん退いた。
「悪い奴らは私の新しい力でぶっ殺してやるのです! あはははははは!」
「衛に劣らず壊れておるのう。来いや!」
 二人が激しく剣をぶつけ合う上を、ヘスティア・ウルカヌスの放ったミサイル群がハデスにむかって飛来する。
邪魔する奴は皆ぶっ飛ばしてやります!
 すかさずミサイルの一斉射撃で一瀬真鈴が、ヘスティア・ウルカヌスのミサイルを迎撃した。激しい爆発と爆風が、地上にいる者たちを襲う。
「危ない!」
 シールドを持った下川忍が、とっさにドクター・ハデスをかばった。ルドウィク・プリン著『妖蛆の秘密』の放った灰蛇銃ユルルングルの魔弾が、盾に弾かれる。
「みんな、頑張ってね。アイドルたちの前には、悪は無力だよ♪」
 神崎輝が、味方のみんなを激励する。
「こうなったら、本格的にお仕置きですわね。やっておしまいなさい」
「はい、お嬢様」
 自動車に乗り込んだミネルヴァ・プロセルピナが、御者に命じた。豪華な自動車が、ドクター・ハデスにむかって急発進する。
「どきんしゃい、ここはわしがシルフの一撃で止めを……」
 拮抗する戦いに、ノーマークとなっていた鵜飼衛が前に進み出て、必殺の攻撃を放とうとした。
「なんで出て来ますの!」
 急な飛び出しは危険である。
 ドクター・ハデスにひき逃げアタックをしかけようとしていたミネルヴァ・プロセルピナの豪華な自動車が、鵜飼衛を撥ね飛ばした。
「うぎゃあ!?」
「衛!」
 メイスン・ドットハックが、いったん退いて鵜飼衛を回収にむかった。ルドウィク・プリン著『妖蛆の秘密』が、銃で一瀬瑞樹を牽制して回収の隙を作る。
「はっ、わしはここで何をしておるのじゃ?」
 さすがは契約者である、自動車事故程度ではかすり傷ぐらいですんでいた鵜飼衛であった。だが、頭を打ったのか、興奮が収まって、いつも通りになっている。
「よかった、元に戻ったようじゃのう」
 メイスン・ドットハックがほっとしたときだ。
「何、あれは?」
 急に日が翳って、神崎輝が上を見あげた。
「あれは、オリュンポス・パレス……。落ちてくるだと!!」
 墜落してくる機動要塞オリュンポス・パレスを見あげて、ドクター・ハデスが叫んだ。
「あらあらあら、これは大変ですわね。逃げますわよ」
 ミネルヴァ・プロセルピナが、素早く御者に命じる。すぐに呼応したヘスティア・ウルカヌスが飛びたった。
「ハデスさん、ここは僕たちに任せて、早く逃げてください」
「すまない」
 神崎輝にうながされて、ドクター・ハデスと下川忍があわててその場から逃げて行く。
魔導砲リントヴルム、ミサイル残弾全発射です!!」
 一瀬真鈴が、最大火力攻撃を行ったが、それで落ちてくる機動要塞が消し飛ぶはずもない。
「わーい、脱出だよね!」
「せっかく拾った野良機動要塞があ〜!」
 何やら機動要塞オリュンポス・パレスから脱出していくフィリーネ・カシオメイサと上條優夏には誰も気づかず、神崎輝たちと鵜飼衛たちはあわててその場から脱出をはかった。だが、墜落した機動要塞オリュンポス・パレスが台地に衝突したときの衝撃波が襲ってくる。
「あ〜れ〜」
 先に逃げたドクター・ハデスたちと、それを追うミネルヴァ・プロセルピナたち以外の者たちは、軽く吹っ飛ばされて地面をコロコロと転がっていった。
 
    ★    ★    ★
 
「つまり、接近戦闘の弱点に目覚めたので、弱点を克服したいというわけですね」
 アレクセイ・ヴァングライド(あれくせい・う゛ぁんぐらいど)に相談を持ちかけられて、六本木 優希(ろっぽんぎ・ゆうき)が、うーんっとちょっと考え込んだ。
「いいですよ。六本木通信社のお仕事も、一段落していますから」
 一つ返事で承諾すると、六本木優希は押し入れの奥から古びた段ボール箱を引きずり出してきた。
「これはなんだ?」
「私が今までこつこつと集めてきた特撮番組のDVDです」
「DVDとは、また古い物を……」
 現在は最低でも多層型三次元記録媒体の時代だというのに、六本木優希は、いったいいつの時代にこんな番組に目覚めたのだろうか。
「そうですねえ。ほんとは接近戦なら、魔法少女の古代シャンバラ式杖術をマスターすればいいような気もしますが……」
「魔法少女だけは勘弁してくだせえ」
 さすがに、フリフリコスチュームを着て戦う自分の姿を想像して、アレクセイ・ヴァングライドが土下座して許しを請うた。
「これなんかどうでしょうか」
 六本木優希が、いくつかのビデオをアレクセイ・ヴァングライドに見せる。
 攻防一体の戦い方は、魔法発動体であるロッドで敵の攻撃を受け流しつつ、その動き自体で魔法発動のためのサインを宙に描き、発動した魔法エネルギーを敵にぶつけるというものだ。
「うーん、これなら俺様でもできるかなあ……」
 あくまでも主体は魔法攻撃であって、杖の動きはそのためのものであると同時に防御術でもある。これならば、流れるような動きが美しいに違いない。
「本来は、無詠唱が一番強力なんだけどなあ」
 あるいは、魔方陣をセットしておいて、そこに誘い込むかである。魔法とは、その場で発動させるものではなく、本来は周到な準備をしておいて使うものである。魔法攻撃のときの隙とは、魔法を使う以前の問題だ。
「とにかく、何か掴んだような気がする。後は実戦だ。ユーキ、悪いが特訓につきあってくれ!」
 そう言って、アレクセイ・ヴァングライドが六本木優希に頼み込んだ。