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【祓魔師のカリキュラム】一人前のエクソシストを目指す授業 4

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【祓魔師のカリキュラム】一人前のエクソシストを目指す授業 4

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第4章 1時間目・実技

「林田 樹さん、緒方 章さん、グラキエス・エンドロアさん、エルデネスト・ヴァッサゴーさん。教壇の近くへ来てください〜」
 エリザベートに呼ばれた者たちは、教壇の傍へ集合する。
「他の皆さんは、前列の4列目まで後ろに下がってくださいねぇ〜」
「これから4人には、床に置いた人形に不可視の魔性が憑かないように、数分間だけ守ってもらうよ」
「悪い魔性に憑かれていたせいで、精神が衰弱している鳥さんを治療しながらお願いしますねぇ♪」
「すごい無茶振りだね…」
「授業とはいえ、温いよりはいいだろう、アキラ」
 ちゃんと敵の探知が出来るだろうか、と不安になる章に樹が言う。
「人形を狙っている子たちは、授業に協力してもらっているのですがぁ〜。せっかくチームで実技を行うのですからぁ、多少は攻撃するように言いましたぁ〜♪」
「俺がエルデネストを守るから…、2人は人形の方を頼む」
「あぁ、了解だ。…3時の方向に2体、8時の方向に…3…いや、4体か?」
 校長と講師が自分たちから離れると、樹は人形の傍に立ち詠唱を始めた。
 アークソウルが輝き、器に迫る者たちの気配を探知する。
「アキラ、お前はどのように魔の存在を感じているんだ?」
「うーん、ぼんやりと何か居るかもしれない…って程度だね、樹ちゃん。ヤバイかも…って感覚はあるけど。何時の方向から何体…とか、具体的なことはわからない感じだね」
 章は殺気看破で探そうとするが、ちょろちょろ動き回られると、気配を探知するのが樹よりも遅れてしまう。
「アークソウルやエレメンタルケイジが上手く扱えないと、難しい存在だね。(僕が使えそうなものは本だけかー…)」
 彼女のように前提スキルを覚えていないから、他に使えそうな物は本くらいかな…としょんぼりする。
「(―…アキラのほうに、何対か近づいている!)」
 “帽子のメガネで遊んでミヨー”と言いケラケラ笑う者から、章を守ろうと彼の元へ走る。
「言の葉で表しきれぬ者よ、ここは貴様のいるべき場所ではない、帰れ」
 樹は詠唱し、祓魔の護符を魔性に投げつけると、魔性たちが“キャァー!”と悲鳴を上げた。
「…アキラに触るな…良いな?」
 彼をからかってみようと近づく者に、視線で『私の大切な人に危害を加えるな』と威圧をかける。
 だが、魔性はその隙に、人形の中に入り込んでしまった。
「わーイ、器ゲットー!」
「はっ、しまった…。最初からそれが狙いか」
「ンー?そういう授業ジャンッ。からかうフリして、目的のモン狙ウ。これ、アタリマエー」
「くぅっ、私としたことが…っ」
 アキラを守るだけで手一杯になってしまったのだ。
 グラキエスの方は…。
 闇術で精神を乱そうとする者たちから、エルデネストを守っている。
「まだか、エルデネスト」
「申し訳ありません、グラキエス様。まだ治療に時間がかかりそうです」
「そうか…。治療が終わるまで俺が守るから、焦らなくていい」
 球体をイメージした黄褐色の光のバリアーを作り出し、魔性が放つ術を緩和する。
 エルデネストはグラキエスを信じ、ペンダントを鳥の上にかざして治療に集中している。
 床の上に横たわり、ぐったりしている小さな生き物の中に、温かい白い光が溶け込み黒い気が抜け出る。
「―…なんとか、元気になってくれたみたいですね」
「よかった…」
 グラキエスも鳥が元気になった様子を見て、ふぅ…と息をつく。
 それを見た魔性は攻撃を止める。
「皆さん、お席に戻ってください♪次の人を呼びますねぇ〜。遠野 歌菜さん、月崎 羽純さん、セレンフィリティ・シャーレットさん、セレアナ・ミアキスさん。こちらへ集まってください〜♪」
「次は私たちの番ね、羽純くん」
「さっきみたいにやるのか?」
「ぅーん、どうかしら…」
「よろしくね。歌菜、羽純」
「こちらこそ、よろしくお願いします!」
「さっきの実戦とは、ちょっと違う方法で行ってもらいますねぇ〜」
 校長は呪いについて書いた黒板に、チョークを向ける。
「歌菜さんと羽純さんには、呪いにかかった動物さんを助けてもらいますぅ〜。セレンフィリティさんとセレアナさんは、動物さんに魔性が近づかないように、気配を探知してくださいねぇ〜。探知役の2人がいる場所には近づかないように、指示しておきましたぁ〜」
「ん〜、つまりどういうこと?」
 ようわからない…というふうに、セレンフィリティが腕組をして顔を顰める。
「例えば、真ん中のゾーンに2人のうち、どちらもいないと。そこに侵入されちゃいますぅ〜」
「私たちが道を塞ぐようにしておけばいいってことね?」
「はい♪」
「先生、近づいてくる魔性は、呪いをかけた相手と同じですか?」
「いいえ、違いますぅ〜。では〜、実技を行ってください〜♪」
 教壇の上にオコジョをそっと置くと、エリザベートは4人から離れた。
「校長が例に出してくれた変身させられる呪い…よね?」
 きょろきょろと自分たちを見る動物を歌菜が見つめる。
「今のところ元気そうだが、こいつの正体が不明だな」
「私たちの言ってること…分かる?」
 彼女の言葉がまったく理解できない様子で、オコジョが身体を斜めにクニャッと傾ける。
「時間が経ちすぎると、人の言葉すらも分からなくなる…と校長が言っていたな」
「そうだったわね。ぁっ、逃げようとしてる!羽純くん、抑えていて」
「教室内を走られたら、捕まえるだけで大変だな。―…っ!?」
 小さな身体の自由を奪われ、オコジョ化した者はシャーシャー言いながら怒る。
 逃がさないように抑えようとしたが、ガブリと指を噛まれてしまった。
「(…これくらいで一々怒っていられないな。術に集中しよう…)」
 ふぅ…と深呼吸し、気分を落ち着かせるが…。
「このっ、また噛みついたな!」
「そんなに強く抑えたら可哀相よ」
「止めるな歌菜。ちょっとくらい強く抑えておかないと、逃げられる」
「は…、羽純くん!顔が怖いわっ」
「ひと噛みや、ふた噛みくらい、我慢して噛まれるしかないわよ!」
 アークソウルの反応を頼りに、魔性を探しながらセレンフィリティが声を上げる。
「セレン。歌菜の後ろに、一体行ったわ」
「オッケー、通さないわよっ」
 恋人が指差す方へ走り、行く手を塞ぐ。
「(実戦なら指示を送りながら、護符をぶつけたりするといいのよね…)」
 セレンフィリティは誰かに位置を知らせて、魔性が近づけないようにしたらどうか、と考えてみる。
「退いてヨ、キレイナオネエサン」
「おだてても退かないわよ?退いたら授業にならないじゃないの」
 相手の言葉に耳を貸さず、セレアナは普段と変らない冷静な態度を保ちながら言う。
 歌菜たちの方を見ると、小動物にかけられた呪いを解除しようとするだけで、手一杯のようだ。
 その動物は羽純の手の下で、大人しくなるどころか、ずっとシャーシャー言いながら暴れている。
「ううーん……、まだ解除できないわね。羽純くんも手伝って」
「こいつを押さえていると、術に集中出来そうにない…っ」
「わかった、頑張ってみるね…。(あなたを元の姿に戻したいだけなの。お願い、暴れないで。私の祈りを受け入れて!)」
 ぎゅっと目を閉じてペンダントを握り、祈りを込めると…。
 小さな身体から赤黒い泡が、コポコポと出て動物の骨格のような形状に変わっていく。
 それは可笑しそうにカカカッと笑い、破裂して散って消えてしまった。
 変身させていた呪いが消え去ったことで、オコジョだった生き物は、茶色い小型の動物の姿になった。
「呪いが消えたのね!」
「モモンガだったのか…」
「なんとか呪いの解除に成功したのね。―…もう、戻ってもいいのよね?」
 自分たちから魔性が離れていくのを感じ、席に戻っていいかセレアナがエリザベートに聞く。
「はい♪」
「ふぅ…。セレン、席に戻るわよ」
 疲れたようにため息をつき、恋人を連れて席へ戻った。



 実技の見ていた生徒たちは、その様子をノートにまとめている。
「どんなに愛らしい姿でも、会話や言葉の理解も出来なくなったら最悪だ…」
 もしも自分が動物に変身させられてしまったら…と草薙 羽純が想像してみる。
「今のことろ、祓魔術を学んでいるために、決められた服装はないのであろう?」
「あぁ、専用の服もないみたいだしな」
 甚五郎は教室内を見回してみるが、それらしい服をもらえた者は見当たらない。
「人の言葉が発せなくなったら、魔道具を持っているか見て、確認するしかないな」
「うーむ…。他の者と逸れてしまわないように、気をつけねばな。それにしても、動物から抜け出たアレからは、なんとも不気味なものだった…。悪ふざけ程度なのかの?」
 アレもいたずらなのだろうか…と考え込む。
「呪いを解除してもらった動物さんは元気そうですけど。かけられた影響はないのでしょうか?」
 それさえ消えてしまえば本当に、いつも通りに過ごせるのだろうか…というふうにミリィが言う。
「どうだろうな。校長は呪いを解除すれば、全て元通りに戻る…と言っていたようだが」
「授業の残り時間が、すくなくなってきましたので〜。今、呼ぶ方々が最後ですぅ〜!涼介・フォレストさん、フレデリカ・レヴィさん、ルイーザ・レイシュタインさん、レイカ・スオウさん、白雪 椿さん、九条 ジェライザ・ローズさん、冬月 学人さん。こちらへ集まってください〜」
「呼ばれたようだな。行ってくるよ、ミリィ」
 涼介はペンダントを手にすると、教壇の方へ向かう。
「えぇーっとぉ、皆さんには〜。魔性に憑かれてしまった精神ダメージの治療と、呪いの解除と〜…。ここに集まってもらった、ホーリーソウルを使える方を、魔性から守ってもらいますぅ!!」
「魔法攻撃もしてくるということですか…?」
「実戦では場合によっては、逃げにくいこともありますからぁ〜。それも想定して、実技を行ってもらいますぅ〜♪」
 にっこりと笑顔でそう言うと、校長はヘビに変身させられた生き物を教壇に置き、生徒たちから離れる。
「皆さんに遅れないよう頑張ります」
 椿はぺこりと頭を下げ、レイカたちに言う。
「一緒に頑張りましょう、椿ちゃん」
「治療と呪い解除を同時に行うのは、厳しいそうだな。ルイーザさんとローズさん、椿さんの3人は治療を頼む。私とフレデリカさんで呪いの解除を行おう。それでいいかな?」
 涼介がそう言うと、ルイーザたちは小さく頷いた。
「僕たちは、皆を守る役割だね」
「―…はい。あの、なるべく術者の傍にいましょう。あまり離れてしまうと、守りの効果が切れる時…。フレデリカさんたちが狙われてしまいます」
「うん、わかった。抵抗力がなくなる時間が分からないからね」
「えぇ…。使い慣れているわけじゃありませんから、短時間で切れてしまうと思います…」
 2人は術者たちの傍へ寄り、いつ魔性が解き放たれてもいいように、ペンダントに触れる。
「ヘビさんの正体は別の動物さんですぅ。目で見える相手では勉強になりませんからぁ〜。不可視の魔性に協力してもらいますぅ〜。それでは〜。実技、スタートですぅう!!」
 エリザベートの後ろで待機していた魔性が、ローズたちに迫る。
「ふっふふ〜♪ちょーっとくらいなら、魔法攻撃してもいいんだよネェー?」
 魔性たちは低い声音で魔法を唱え、床に闇をズルズルと這わせる。
「来た…!個別に術をかけている暇はないね、どうしようか?」
「そうですね…。皆さんを包むような感じか…それか…囲むイメージをしてみてください」
「(僕の精神力を、守る力に変えて…。ロゼたちの周りを囲う感じに…っ」
 学人は目を閉じて、レイカの言葉に学人も祈りならがら、術者たちとその守り手であるレイカと自分を、囲むイメージをすると…。
 黄褐色の円状に輝く、光の壁が現れた。
「(校長が言うように、まずは…私がどう守りたいかイメージしなくては…。そして、それを…。皆を守る形に変化させるんです…っ!)」
 レイカの方はペンダントから漏れ出したアークソウルの輝きを、球体に変化させ…術者たちを囲むように球体の範囲を広げる。
 魔性が放った闇術は二重構造の守りの壁を越え、術者たちに届いたのだがレイカと学人の術により、魔法の威力が半分以下にされてしまった。
 術者たちの表情が崩れていないが魔性たちは怒る様子はなく、うろちょろ移動しながら魔法攻撃を仕掛ける。
「強化前のホーリーソウルって、精神力を回復できるんですよね?」
「憑かれてしまって、精神ダメージを受けた者が対象だよ」
 宝石の効果を確かめるように言う椿にローズが言う。
「そ、そうでしたか…」
「うーんとね。術者の精神力を回復させるなら、エアロソウルがいいかな」
「それか、私が持っている強化したホーリーソウルですね」
「はわわ…っ、そうなんですか」
「レイカさんたいが守ってくれている間に、動物さんの苦しみを取り除いてあげましょう」
「は、はい。…光の加護と安らぎを…」
 ルイーザに頷くと椿は宝石に祈りを込める。
 彼に続きルイーザとローズも、詠唱の言葉を紡いだ。
 3人がホーリソウルの効力を使い始めたのを確認した涼介たちは、ヘビに変身させられた者に、強化した白い宝石の力を注ぎ込む。
 動物を蝕んでた気が黒い気体となり、小さな身体から噴き出て消え去った。
 そこから灰色のドロドロした液体も抜け出て、何かの遺骸のような形状へ変化したかと思いきや、金切り声を上げて消滅した。
「小熊だったのね」
 よたよたと立ち上がろうとする小熊を、フレデリカが見つめる。
「この子もいたずらで、あんな姿にされていたの?」
 ぱたんっと教壇の上に倒れ、ころころ転がる小熊の背を撫でながら、校長に顔を向ける。
「遊びのつもりで呪いをかけてしまう、悪い子もいるんですぅ〜」
「相手はこれが悪いことだって、わかっていなさそうね」
「今回は術者がたくさんいたから早く終わったけど。1つの対象に時間かけすぎずに、治せるようにしたいね」
 ローズは壁にかけられている時計を見上げ、治療にかかったタイムを見る。
「まぁ、時間がかかることもあるから。近くにいる人に声をかけて、2人以上で治療したほうがいい時もありそうだね」
「精神力の負担も、半分になるよね」
「そうだね、学人」
「ではぁ〜、皆さん。席に戻ってくださいねぇ〜♪」
 エリザベートの声に実技を終えた者たちは、自分の席に戻っていく。
「なるほど。2種類の治療を同時にしたほうが、短時間で済むんだね」
 実技の様子を観察していた弥十郎は、ドーナッツを食べながらノートに書く。
「―…次回はぁ〜、なんと…強化合宿を行いますぅう!日時などは〜、後ほどご連絡しますねぇ。それではっ、1時間目の授業を終えますぅ!!」
 エリザベートがそう言うと、授業終了を告げるベルの音が鳴った。