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リアクション
■明かされる黒幕
輸送飛空艇から最も近い所では、翼と樹菜が多くの契約者たちに支えられながら戦闘をこなしていた。
「天翔、仙道院から離れ過ぎだ! 契約者の戦いは連携が一番大事だからそれをしっかり覚えろ!」
「う、うん!」
カイは翼、サー・ベディヴィア(さー・べでぃびあ)は樹菜の近くで構いすぎない程度にフォローをしている。死角から出てくる敵へ『歴戦の武術』で対処していきながら、カイは翼たちのコンビネーションを鍛えさせるべく叱咤とアドバイスを送っていた。
「ふっ! ――マスター!」
「たぁぁぁぁぁっ!!」
樹菜への攻撃を盾で防ぎながら、『ソードプレイ』で空賊とツタの化け物を一気にいなすベディヴィア。カイへ合図を送ると、すぐにカイは『ソードプレイ』によっていなされ、体勢を崩した敵たちへ『歴戦の武術』を繰り出し一掃する! そして放出される種を潰そうと紫月 唯斗(しづき・ゆいと)が飛び出し、《バードマンアヴァターラ・ウィング》《モンキーアヴァターラ・レガース》を駆使して広範囲に攻撃を展開。放出された種を素早い動きで一気に潰していった。
「……これが連携だ。やろうと思えば、他の契約者とも連携攻撃は可能となる。覚えておいたほうがいい」
カイとベディヴィアの連携攻撃に感心の眼差しを向ける翼と樹菜。急きょ参加した唯斗もまんざらでもなさそうだ。
「そろそろ中を調べてもいいんじゃないかな。何があるかわからないだろうし、何人か一緒のほうがいいと思うけど」
唯斗がそう提案する。もとより、翼と樹菜の目的はこの輸送飛空艇の中にある“鍵の欠片”を回収することにある。敵の数もだいぶ少なくなってきたので、本来の目的を果たすべきだろう。
「それなら、俺が付いていこう。女性を守るのは紳士の務め、だしね」
翼たちの護衛として、ツタに対して『ファイアストーム』や『ブリザード』で確実に仕留めていっているエース・ラグランツ(えーす・らぐらんつ)が名乗りを上げた。そのすぐ近くでは『ブリザード』で凍りついたツタの化け物を自慢の剣撃で砕き、種がまかれそうになっても『火術』などで燃やすリリア・オーランソート(りりあ・おーらんそーと)がいる。
「私は花のない情けない身内たちの始末をつけるわ。面倒だけど、同じ眷族だし……これも花のある者の務めよ」
リリアはツタの化け物の相手をするために戦線に残るようだ。同様に、カイとベディヴィアもその場に残ることにした。
「ついていきたいのは山々だが、こうも数が多いとなると戦力として残るべきだろうからな」
「それなら、ルカが付いていくわ。――ダリル、甲板の部隊の指揮お願いできる?」
と、ちょうどその時甲板からルカルカが降りてきて翼たちに同行する旨を伝える。そして携帯電話を取り出すとダリルへ連絡を取り、甲板の部隊の指揮を委任していった。
「これでよし、っと。そうそう、修理のほうはだいぶ完了したみたいで、あとは動力部が起動すればすぐに飛び立てるらしいわ」
逐一、修理班との連絡を取っていたようで、修理はほぼ完了したらしい。しかしこの戦線を片付けないことには飛び立つことは無理だろう。
「――こうしてる間にもどんどん群れてきたようだ。だが、その程度の頭数で俺らを止められると思うなよ……おいルーキー、何か目的があるんだろ? ここは俺らに任せて先に行け」
……話し込んでいる間に、ツタの化け物の数がまた増えたようだ。だが、それをこれ以上させるまいと煉が前線に立ちふさがり、明鏡止水の境地に達した静かな闘気を放って威嚇する。それは本能に訴えるものがあったのか、ちらほらといる空賊たちはおろか、ツタの化け物すら萎縮させた。
「わかった――この場はお願い! 樹菜、みんな、行こう!」
他にも数組の契約者たちが翼の護衛に合流したところで、その場を煉やカイたちに任せ、翼たちは飛空艇の中へ向かう。それを見届けると、煉は《流星のアンクレット》で加速しながら『ヒロイックアサルト』“雲耀乃太刀”による神速剣技を空賊やツタの化け物たちへ食らわせていく。
(ルーキー……想いだけでもない、力だけでもない。両方あって初めて守ることができる。それを――忘れるなよ!)
出発前、翼へ言った言葉を思い返しながら、周囲の敵たちへ出力を上げた《カーディナルブレイド》で薙ぎ払っていく。煉のその攻撃が皮切りとなり、契約者たちの一斉攻撃が始まったのであった――。
「三下が……お前は化け物の餌がお似合いだ――でぇぇぇぇいっ!!」
エヴァルト・マルトリッツ(えう゛ぁると・まるとりっつ)は空賊の一人を掴むと、そのままツタの化け物の進路上へとぶん投げる。空賊たちがツタの化け物に攻撃しないということは、奴らも化け物に襲われる可能性があるということ。そう考えたエヴァルトは空賊をところ構わず化け物の進路上へと投げ入れていく。
「せっかくの旅行を台無しにする奴、そしてあいつらの心意気を邪魔しようとする奴は俺が許さねぇ!」
そうやって一ヶ所に集まった化け物や空賊たちの足止めをしている間に、エヴァルトは《彗星のアンクレット》の力で加速し、『爆炎波』で化け物たちを一度斬りつける。そして、放出された種に対しては『ドラゴンアーツ』と『歴戦の武術』を使って一斉に砕いていった。
「真人! 指揮官のほうは任せたぜ!」
「もちろんです! セルファ、敵の飛空艇まで一気に行きましょう!」
「了解! 飛ばしていくよ!」
頃合いと見たのだろう、御凪 真人(みなぎ・まこと)は今回の騒動を仕組んだ張本人の話を聞くべく、空賊団『黒鴉組』の指揮官である団長・バリィを捕縛するべくセルファ・オルドリン(せるふぁ・おるどりん)と共に敵の大型飛空艇へと向かう。敵の飛空艇は空中にあるため、真人は《氷雪比翼》で、セルファは《強化光翼》で飛行して飛空艇へと駆ける。
「黒幕は策を弄してきています。翼さんたちの行動内容、全校交流旅行の日程、輸送飛空艇の航路――これらすべての情報を把握し、巧妙に組み合わせてきた。これだけの情報を入手し、さらには飛空艇の故障を引き起こし、空賊をも作戦に組み込む交渉……なんとしても尻尾を掴みたいものですね」
真人は今回の騒動の黒幕が何者なのかを推理する。翼と樹菜の行動スケジュールを把握し、全校交流旅行や輸送飛空艇の航路の日程を知ることができる人物。旅行やスケジュール、航路を調整できる人間が……とも考えたが、それは考え過ぎだろうと選択肢から消していく。
「その犯人のことを聞くためにも、『黒鴉組』の団長を捕縛しないとね!」
セルファの言葉に頷く真人。……と、ようやく敵の飛空艇上空に到着したのだが何やら騒ぎが起こっているようだ。
「――どーもー、契約者でーす。この飛空艇、貰いに来ちゃいました……ってわけで、とっととおっ死ね空賊共が」
先に飛空艇に乗り込んでいたのは、柊 恭也(ひいらぎ・きょうや)だった。どうやら《バードマンアヴァターラ・ウィング》と『光学迷彩』を使って飛空艇に乗り込んでいたらしく、ここを潰して一気に制圧するつもりらしい。
「てめぇ、いつの間に!? お前ら、奴を抑えるんだ! 一人だけとは限らねぇ、十分注意しろ! すぐに出払ってる部下たちを呼び戻すからそれまで堪えるんだ!」
バリィは突然の奇襲にも関わらず、冷静に指示を出す。そして腰に携えた角笛を思い切り吹くと、空を旋回中だった部下たちが帰還し始める。
「雑魚共が集まっても所詮雑魚なんだよ。死んどけや」
だが、恭也は動ずることなく『我は射す光の閃刃』や接近戦で次々と空賊たちを圧倒していく!
「……これはまずいですね。このままだと指揮官まで殺してしまいそうな勢いですよ。セルファ、捕縛準備のほう急いでください」
「わかった!」
このまま放っておくわけにはいかない。そう考えた真人はすぐにセルファへ飛空艇に降りるよう伝える。セルファは頷くと急いで甲板に降り立ち、『乱撃ソニックブレード』で周囲を攻撃、攪乱する。
「なんだぁ? 俺の邪魔をするならその辺の雑魚と一緒にするぞ?
「あなたを抑えに来たわけじゃないよ! ただ、この指揮官だけは殺さないでほしいの!」
『バーストダッシュ』と『ライド・オブ・ヴァルキリー』で加速を付けながら、スピードによる立ち回りでバリィを追い込んでいく。
「……ま、拠点を潰せるならなんだっていいな。そっちは任せるわ」
やる気のなさを感じさせながらも、ひとまず捕縛は大丈夫そうだ。真人はバリィの後方へ降り立つと、挟み撃ちの形でバリィを徐々に追い込む。
「ちっ、上空待機組は何やってやがるんだ!? ――げ、あいつは!?」
呼んだはずの増援が来ないことにいら立ちを覚えるバリィ。横目で空のほうを見てみると……帰還しようとしていた空賊たちが次々と落とされていっている。
「……『黒鴉組』がなぜここにいるのかしら? 少し邪魔させてもらうわ」
上空から『ゴッドスピード』で速さを付けた《ワイルドペガサス》を駆り、空の戦場に飛び込んでは『タービュランス』で攪乱するリネン・エルフト(りねん・えるふと)。《カナンの剣》と《空賊王の魔銃》による変則二刀流による『エアリアルレイヴ』や『歴戦の武術』の乱舞攻撃で力の差をいかんなく見せつけながら、飛空艇の甲板へと降り立っていく。
さらに、反対側の空域ではある二人組がえらい勢いで空賊たちの小型飛空艇を次々と落としている。
「……浅かったか。……残りは頼む」
「セリスよ、まだまだ詰めが甘いな――ふんっ!」
飛行している空賊の小型飛空艇とセリス・ファーランド(せりす・ふぁーらんど)の乗る《スレイプニル》が高速ですれ違う。次の瞬間、小型飛空艇の動力部が爆発し、制御不能となったそれは空賊もろとも落下して雲海に消えゆく。動力部へのダメージが浅かった機体も、《氷雪比翼》で飛行するヴェルザ・リ(べるざ・り)が演出として『冥府の瘴気』を出しながら接近し、適当に空賊をあしらってから動力部を破壊していった。
「う、うわぁぁぁぁぁ!!」
「おーおー、いい感じに落としてくれてるな。嫌いじゃないぜ、ああいうの」
景気のいい落としっぷりに、恭也も思わず手を止めて賞賛しているようだ。……どうやらあの二人は、温泉街のほうへ流れていった護衛依頼を受けてここへ来たようだった。少しでも空賊たちを地上に下ろすまいと活動しているようで、大型飛空艇のほうには来る気配はない。
「バリィ、ここは『黒鴉組』の縄張りではないはずだけど」
「お前こそ縄張りはタシガンのほうだろ! なんでここにいるんだ!?」
「偶然通りがかっただけよ。……とりあえず、話だけでも聞かせてもらおうかしら。バリィがなぜここにいるのか」
どうやらリネンも空賊のようで、その縄張りはタシガン空峡らしい。そのためか顔見知りらしく……完全に取り囲まれたせいもあってかバリィはその場に座り込んで完全に降伏したようだった。もし暴れるようならば真人は『封印呪縛』を使うつもりであったが、これならば必要はなさそうだろう。
「くそ、『黒鴉組』もここまでか……まぁいい、俺たちも好き好んでここにいるわけじゃないからな」
「それはどういうことでしょうか?」
思わぬ言葉に真人は首を傾げバリィに問いかけた。すると――バリィは一から説明を始めていく。
「――脅されたんだよ。男二人を引き連れた、トレジャーハンターだっていう女がこの飛空艇に乗り込んできてな。『わたくしが指定した日に、指定した場所に飛空艇を不時着させるから、その中にある貨物を奪ってほしい。もし断るなら、全員殺す』って脅されたんだ」
「『黒鴉組』のバリィが脅しに屈したの? ……空賊だというならそんな脅し、蹴ってしまえばよかったのに」
「リネンの言うとおりだ。もちろん俺たちは空賊のプライドってもんがあるし、脅しに屈するわけにはいかなかった。だが……断った瞬間、飛空艇にあのツタの化け物をいきなりたくさん召喚しやがってな。抵抗はしたんだが……物量には勝てなかった」
その時のことを思い出してか、悔しそうに顔を歪ませるバリィ。……話は、続く。
「俺も部下を見捨てるわけにはいかなかった。最終的には脅してきた女の脅迫に屈するしかなかったんだ」
「この襲撃は望んだものじゃなかったわけですか……この戦闘の途中で攻撃を止めることはできなかったんですか?」
「ああ。もし攻撃を止めた場合、その時は全員殺すと言われた。今となっちゃ似たような状況になっちまったけどよ」
自虐の嘲笑を浮かべると、さらに真人たちへ話を続けていく。脅しに屈した後、バリィたちへ指示されたのは先ほどの『指定した日時にこの浮島へ不時着させる輸送飛空艇の貨物を奪うこと』、『死にたくなかったら“桜の精”の邪魔は絶対にしないこと』の二つだけだったらしい。そして、バリィを脅した女トレジャーハンター……その名前はカルベラと名乗っていたことも聞かされる。
(……桜の精、というのがあのツタの化け物の名前みたいですね。ともあれ、必要以上の情報は与えられていないと見て問題ないでしょう)
バリィからこれ以上は情報を引き出せそうにないようだ。真人たちは改めてバリィを捕縛すると、警察へと引き渡すために地上へと連行していくのであった――。
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