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桜封比翼・ツバサとジュナ 第二話~これが私の交流~

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桜封比翼・ツバサとジュナ 第二話~これが私の交流~

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■絆の天秤
 ――輸送飛空艇の貨物室へと急ぐ翼と樹菜。二人の護衛としてルカルカやエース、そしてシリウスや吹雪を始めとした複数組の契約者たちが務め、貨物室までの案内を飛空艇の乗組員が担当してもらっている。
「反応、近いです!」
「本当!? 急ごう!」
 翼のペンダントを握りながら、欠片の気配を探っていく樹菜。その感知力はペンダントによって増幅されており、正確な位置をより強く感じ取れるようになっていた。
(――『ディテクトエビル』の反応は乗組員たちのも含めて、微弱なのがほとんど。黒幕と言えるほどの反応はないか……)
 『ディテクトエビル』を張って害意のある者の洗い出しをしていたシリウスであったが、いまだ濃い反応を得ることはできずにいた。いまだ見せぬ黒幕の姿にわずかながら焦りを覚えてしまう。
「ここが貨物室よ。中に契約者の人が貨物の護衛をやってくれてたんだけど……あ、いたいた」
 乗組員の案内で貨物室の中へ入ると、そこには灯たちの姿があった。お互いに一瞥を交わしあうとすぐに“鍵の欠片”の捜索に入っていく。
「……匂いますね」
「匂うって?」
「……? いえ……気のせいです」
 翼の動向を確認する、ということで後方からついてきていたリカインと狐樹廊。狐樹廊は貨物室の中に漂う『妙な空気』を感じ取っていたのだが、それも一瞬のこと。すぐにいつもの雰囲気に戻ったのか、リカインはわけわからぬまま、狐樹廊は首を傾げることしかできずにいた。
 増幅された感知能力で“鍵の欠片”を探す樹菜。翼は後をついていくだけだが、いつでも先頭に入れるよう準備はしている。そして、奥のほうに置かれた貨物コンテナのところまでやってきた。
「――反応は……ここです。この貨物の中にあります」
「中身を確認してもいいかしら?」
 ルカルカが確認を取ると、乗組員は頷いて貨物コンテナのふたを開ける。……中にあったのは、おそらくどこかの富豪に渡される予定らしい宝石があしらわれた飾り剣が何本か入っているだけだ。
「ええと……あ、この剣です。この剣にはめ込まれた水晶石……これが“鍵の欠片”です!」
 “鍵の欠片”を発見し、それを取ろうとする樹菜。だが、伸ばした手は乗組員の人によって止められてしまった。
「ごめんなさい、これはお客様の物だからすぐに手に触れさせるわけにはいかないの。……ちょっと待っててね」
 乗組員はそう言うと、手袋をしてから大事そうにそっと飾り剣を抜き取っていく。
「……えーと、どの石だったかしら? ごめんなさい、ちょっと教えてもらえる?」
 そう言われ、樹菜は手に持っていたペンダントを翼に返し、飾り剣にはめられた“鍵の欠片”を指し示そうと覗き込んだ――その時!
「っ!? 樹菜、離れろっ!!」
「え……きゃあっ!?」
 シリウスの『ディテクトエビル』が今日一番の強い反応を示す。だがシリウスが樹菜を引き寄せるよりも早く、飾り剣を持った乗組員が樹菜を人質に取ると、契約者たちと距離を離し、コンテナを背にして樹菜の喉元にクナイの刃を当て、翼たちと対峙していった!
「く、樹菜!」
「動かないで! ちょっとでも動けばこの子の首を掻っ捌く! 不意打ちも『禁猟区』で感知できるから下手なことはやめたほうがいいわよ!」
 先ほどとは打って変わったどす黒い殺気。乗組員――否、この騒動の黒幕は樹菜を人質に取ったまま、口元を上げて翼へ視線を向ける。
「くそ……! てめえいったい何者なんだ! 名を名乗れ!」
 『ゴッドスピード』で加速して接敵しようとした康之も樹菜を人質を取られるとは思わなかったようで、動きを封じられたまま黒幕へそう叫びつける。某も攻めることばかりを考えていたからか、《ウルフアヴァターラ・ソード》を剣状態に戻したまま、攻勢に出れずに黒幕を睨みつけるだけだった。
「わたくしの名? ――わたくしはカルベラ・マーソン。元陸軍の女トレジャーハンターよ」
 自らの名を口にしながらも、一切の隙を見せないカルベラ。衆人警戒もしていたシリウスは、警戒に引っかからなかったこの相手へ言葉を投げかける。
「――乗組員に成りすます、までは予想できたが……『ディテクトエビル』にもかからないように行動するとか、やることが大胆だな」
「褒め言葉として受け取っておくわ。忍びたるもの、敵の警戒網を掻い潜るのは基本中の基本だしね。――それにしても、反応が遅かったわねぇ、わたくしがこっちを狙う可能性は考えなかったの?」
「くっ……!」
 確かに“鍵の欠片”を狙っているのならば、それを実際に持っている翼にガードが回るのが普通だろう。だがそれ故に、樹菜へのガードが甘くなっていた事実もあり、シリウスは苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる。
「さて……こういった状況は長引けばこっちが不利になるから、要求を言わせてもらうわ。……翼、あなたの持つその“鍵の欠片”をこちらへ渡しなさい。もし渡さないというのならば、こいつの首を切るわよ」
「……!」
「翼、絶対にそれは渡しちゃダメ! 今ルカが何とか――」
 黒幕――カルベラの突きつけた要求。それは翼の持つ“鍵の欠片”を渡せというもの。そしてもし渡さない場合は樹菜を殺す……。その要求を聞いて、ルカルカは『隠れ身』を使おうと身構えるが……。
「――言ったわよね、こっちは『禁猟区』を張ってるんだ。次に変な真似をしたらこうじゃすまないわよ……!」
「つぅっ……!」
 樹菜の首に当てられていたクナイの刃が少しだけ深く入り込み、樹菜の白い喉に赤い血筋が一本流れる。これ以上の行動は、樹菜の……そして、契約している翼にも危険が及んでしまう。
「……ルカルカさん」
「…………わかった。でも、解放されたらすぐに攻撃するから」
 ルカルカはスキルの発動をやめ、悔しそうに事の様子を見届けることしか今はできなかった。翼は少しの逡巡の後――手に持っていたペンダントをカルベラに投げ渡す。
「翼、どうして!? あれは翼の大事な絆じゃ……!」
「――確かに私と、私の家族の大事な“絆”だよ。だけど、それと私の大事なパートナーの命……“絆”とで天秤にかけられたら……こうするしかなかった。こうするしか……」
「翼……」
 翼の判断に、樹菜は複雑そうな……悲しみと嬉しさの混ざった眼差しを向ける。そして――。
「いい判断だよ。わたくしは約束を違えられるのだけは嫌いなの。だから、自分自身でも違えることはしない。――この子は解放するわ」
 カルベラは樹菜を人質に取ったままペンダントを回収すると……そのまま樹菜を解放していく。――その瞬間を狙い、契約者たちは一気に行動を開始する!
「やぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」
「翼、樹菜を連れてここから離れろ!! こっからは翼たちにはまだ早い!!」
 事前にダリルから『ゴッドスピード』を付与してもらっていたルカルカは、そこからさらに『疾風迅雷』でさらに速度を上げ、『隠れ身』で姿を消したまま《ダークヴァルキリーの羽》で自在な高速移動による『光条兵器』で不可視攻撃を仕掛ける! 同時にシリウスも翼たちへすぐ退避するよう叫びながら『ファイアストーム』で援護。エースも「女性にはあまり手を上げたくないが……」と思いつつ、『勇士の剣技』でカルベラに攻撃を仕掛けていく!
「わたくしだって忍びの端くれ――その素早さがあなただけのものと思わないでほしいわね!!」
 だが、カルベラも『疾風迅雷』で加速するとあくまで三人の攻撃をいなすようにし、『分身の術』や『空蝉の術』を使っての回避を主体にしながら後退を開始。『禁猟区』を張っているためルカルカの不可視攻撃の位置も何とか防御できているようだ。
「速いっ……!」
 某は『ホークアイ』でカルベラの動きを追っているが、完全には捉えきれないほどの速さで翻弄してくる。しかしそれでも逃走パターンを読んで『真空波』を撃ちこむ。当たらなくても気にせずに連続で撃ち、逃走ルートを狭めさせていくが……貨物コンテナによって小さな迷路と化している貨物室では、なかなか難しいようだった。
 移動を制限しきれないまま、あと少しで壁際にたどり着かせてしまう。壁際の上には窓があり、おそらくはそこから逃げ出すのだろう。――急いでカルベラを捕らえなくてはならない。契約者たちの焦りは募っていく。
「これ以上はいかせるつもりはない!」
 佑也は『行動予測』でカルベラの動きを読もうとするが、やはり速さによって攪乱されてしまうためうまく『サイコキネシス』で動きを止めることは難しそうだった。なんとか動きを読むべく追いかけていくと……。
「ここから先は通行止めだ!」
 『ゴッドスピード』と《翼の靴》の併用で飛行し、窓の前に立ちふさがる康之。これで逃走経路をふさいだ――誰もがそう思った時。
「これで――あっ」
 《千里走りの術》でカルベラに追従し、肉薄する吹雪。手に持った《機晶爆弾》をぶつけて攻撃しようとするが、誤って手元から滑らせてしまう。その結果、至近距離で《機晶爆弾》が爆発してしまい、さらにその衝撃で吹雪が懐に入れていた《自爆弾》まで誘爆。壮絶な自爆ショーが展開されていった!
「なっ……自爆!?」
「吹雪!?」
 思わずルカルカを始め、契約者たちは攻撃の手を止めてしまう。濃い爆破の煙が徐々に晴れていくと……そこにあったのは、船体に開けられた大きな穴。そしてそこには、小型飛空艇ファルテに乗ったカルベラと、ヴァルキリーの羽をもつ二人の男の姿があった。
「今の爆発のおかげで、迎えに行く手間が省けたっす! さ、カルベラの姐さん早く逃げようっす!」
「待てぇっ!!」
「悪いが待てるほどこちらも余裕はないんでな。さ、姐さん」
「くっ……自爆特攻のダメージ、結構大きかったわね。それでも――ペンダント、飾り剣、そしてわたくしが事前に手に入れた手鏡。“鍵の欠片”三つ、確かに頂戴したわよ!」
 爆発の騒ぎを聞きつけ、徐々に集まり出す契約者たち。それらの攻撃を受けるよりも早く、カルベラたちはその場を離脱する。ルカルカを始め、飛行ができる契約者たちはすぐに追いかけたのだが……カルベラたちは雲海の中へうまく身を隠したため、完全に見逃してしまったのであった……。


「……生きてるか? 生きてたら返事をするのだ」
 二十二号が自爆によって倒れている吹雪を抱き起こす。……しばらくピクリとも動かなかったが、どうやら死んではいないようで。
「……な、何とか生きてるであります……」
 と、わずかながらに返事をしたのだった……。