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戦火に包まれし街≪ヴィ・デ・クル≫

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戦火に包まれし街≪ヴィ・デ・クル≫

リアクション

 源 鉄心(みなもと・てっしん)は博物館から要塞を見つめる。
「まるで巣立とうとしているみたいだな」
 博物館から見える≪三頭を持つ邪竜≫は、羽を広げて要塞という柵から飛び出そうとしているように見えた。
 そんなことを考えていると、最後の陣が完成したことを伝える光の柱が、空へと伸びる。
「ティー、準備はいいか!?」
「は、はい!」
 振り返ると≪黒衣の巫女装束≫を着たティー・ティー(てぃー・てぃー)が、緊張した面持ちで簡易祭壇の上に立っていた。
「あの、鉄心。祈るって何を祈れはいいのでしょうか?」
「そうだな……『大人しく眠ってください』とか、その辺じゃないか?」
 結局、正確なやり方を教えてもらえなかった鉄心は曖昧な答えをするしかなかった。
「……とりあえずやってみます」
 不安を感じながらも、ティーは目を閉じ、祈りを始める。
「ゆっくり休んでください……」
 すると、足元に描かれた陣が淡く光りだし、それに同調するように街の十本の柱も光を増していく。
 十本の光の柱は博物館の上空で収束すると、束となって一斉に≪三頭を持つ邪竜≫へ向かっていった。
 重なった光の束は、≪三頭を持つ邪竜≫の身体に絡みついて拘束する。
 ――しかし、光は絡みつくだけで、一向に封印する気配をみせない。それどころか、≪三頭を持つ邪竜≫は封印の祈りを止めようと、元は要塞の物だった口の中の砲台を博物館へ向けてきた。
「ティー、もう少しどうにかならないか!?」
「無理……です、よ……」 
 まだ数分も経っていないのに、ティーは既に大量の汗をかいていた。ただ祈りを捧げているようで、多大な精神力を使うのである。
 鉄心は苦い顔で、向けられた砲身を睨みつける。

 ――ドォォン!!

 そんな中、突如砲台が爆発した。


*****



「……うまくいったみたいね」
 セレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)は≪三頭を持つ邪竜≫の砲台が爆発したのを見て、嬉しそうに笑う。
 ≪三頭を持つ邪竜≫がドラゴンの形をとる前。要塞の時に生徒達がしかけた爆弾を、セレンフィリティは遠隔操作で起爆させたのだ。
「この調子でドンドンの爆破しちゃおうか」
「ダメよ」
 起爆スイッチを押そうとしたセレンフィリティをセレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)が止める。
「ちゃんと爆弾がどこに取り込まれた確認しなくちゃ。
 そうでないと、ちゃんとしたダメージが与えられないでしょ?」
「でもそんなの待ってたら、あの邪龍はさらに大きくなるわよ。そしたら、爆弾じゃどうしようもなくなるし、封印ができなくなるわよ」
「確かに、セレンの言う通りかもしれない。けど――」
 ミッツから封印を行うためには、ある程度の攻撃を与えて心臓を機械の身体から引きずりだす必要があるとの連絡があった。
 そのためにセレンフィリティ達は、要塞内にしかけて取り込まれてしまった爆弾を起爆して、内側からダメージを与えようと考えていた。
 ダメージを与えられるのは一回限り。失敗すればすぐに再生をされてしまう。
 セレアナは確実に成功させるためにも慎重に行いたかった。
「一番の問題は取り込んだ爆弾の数が少なかった場合よね。その場合、どうしたら……」
 悩むセレアナ。すると、その横を――
「足りない分は私がやる!」
 緋柱 透乃(ひばしら・とうの)が駆け抜けた。
 闘志をたぎらせる透乃の左手に炎が宿る。
「透乃ちゃん、援護は任せてください!」
 緋柱 陽子(ひばしら・ようこ)が透乃の背後を追いかける。
 二人は一直線に≪三頭を持つ邪竜≫を目指す。
 透乃の存在に気づいた≪三頭を持つ邪竜≫が、槍のように先端が鋭い金属の触手で狙ってくる。
「大人しく! 透乃ちゃんに倒されてください!」
 それを陽子は訃刃の煉鎖を振り回し、弾き飛ばす。
「……うん」
 透乃は陽子を振り返って頷くと、速度をあげた。
 地面から斜めに突き出した鉄板を踏み台にして、高く、遠くへ。
「ここだ!」
 目の前に辿りついた透乃は、しっかり足を踏みしめて【等活地獄】を叩きこむ。
「ふきとべぇぇぇぇ!!」
『――――!?!?』
 ≪三頭を持つ邪竜≫が悲鳴のようなノイズ音をあげる。
 要塞から飛び出た胴体部分に打ちつけられた拳は広がるように衝撃を伝え、次々と≪三頭を持つ邪竜≫の身体の一部を破壊する。
 片腕と翼が接続部分から折れ、外装が外れて一部骨格替わりの金属部分がむき出しになる。
 だが――倒すには至らない。
 突き出した透乃の腕に四方から一斉にコードが絡みつく。
「なんだ、こいっ――ぅ!?」
 腕に絡みついたコードを剥ぎ取ろうとした時、突然腹部に違和感を感じた。
 視線を向けると、≪三頭を持つ邪竜≫の鋭い触手が腹に刺さっていた。
「ぐっ――」
 触手が引き抜かれると、ぽたぽたと血が流れ落ちる。
 膝がガクリと来て、倒れそうになる透乃をそのまま取り込もうとする≪三頭を持つ邪竜≫。
「透乃ちゃん!?」
 駆けつけた陽子がコードを切り裂き、透乃を救出して距離をとる。
「大丈夫ですか?」
「――うん。とりあえず……あと一発ぐらいは踏ん張れる」
 怪我を負っていてもまだ戦う気でいる透乃。
「で、でも、透乃ちゃん。その傷では……」
「大丈夫だよ。でも、気になるならこれで止血を――」
「ちょっと待ってください! そんなことするなら私のドレスを使ってください!」
 胸を隠すチューブトップを脱いで傷口に当てようとする透乃を、陽子は慌てて止める。
 そして、代わりにと自分のゴスロリドレスの裾を千切り始めた。
「これでよし! いきますかっ!」
 傷口を抑え終った透乃は、少しふら付きながら立ち上がる。
「今度は一緒に行きましょう、透乃ちゃん」
「うん。派手に決めよう!」
 透乃はミニスカートになったドレスを気にしている様子の陽子に笑いかけた。
 二人が≪三頭を持つ邪竜≫へ一斉に駆け出す。
 襲いかかる触手と兵が使っていた銃を向けてくる≪三頭を持つ邪竜≫。
 その攻撃を最小限の動作で避けつつ前へ。
「今までも、そしてこれからも私と共にある光、緋想……」
 陽子の拳が光条兵器のよって白く眩い光が宿る。
「闘争の快感、そこにある私の生き様……」
 透乃の拳が【等活地獄】によって漆黒に輝きだす。
 二人は≪三頭を持つ邪竜≫の傍まで来ると一瞬、お互いの顔を見た。
「いくよ、陽子ちゃん」
「はい!」
 二人は息を合わせて――拳を叩き込む。

「食らえ、二人の絆!! 『烈禍裏逝拳』!!!!」

 透乃と陽子が裏拳と正拳突きを同じ箇所へとぶつける。 相反する力は反発して、新たな力となって≪三頭を持つ邪竜≫の身体を削り取る。
「ふきとべぇぇぇぇぇ!!」
 気合と共に透乃が威力をあげると、陽子がさらにそれ以上の力を出す。二人の力は幾度も威力をあげ、その度に反発力は上がり、同時に腕が吹き飛ばされそうになる。
 それを耐え抜き、≪三頭を持つ邪竜≫の取り込んだ物質が吹き飛ばされていく。
 ――その結果。
『―――――!??!?!?!??!』
 骨格部分に多大な損傷を受けた≪三頭を持つ邪竜≫の身体が、胴体から真っ二つになり、要塞の上部に倒れ込んだ。


 ≪三頭を持つ邪竜≫が倒れたのを目撃した化け物(エッツェル・アザトース(えっつぇる・あざとーす))が逃げ出す。
「くっ、逃がすか!」
 柊 恭也(ひいらぎ・きょうや)は銃弾を浴びせるが、化け物はお構いなく要塞から飛び降りていった。
「逃がしたか……仕方ない。今はこっちが先だ」
 恭也は富永 佐那(とみなが・さな)と一緒に、手持ちの爆弾を倒れた≪三頭を持つ邪竜≫に投げつける。
 少しでもダメージを増やそうという考えだった。
 全て投げ終わった恭也は、セレンフィリティに合図を送る。
「それじゃあ、行くよ」
 起爆スイッチが押され、≪三頭を持つ邪竜≫の身体から次々と爆発が起こった。
 しかし、爆弾は≪三頭を持つ邪竜≫の身体以外に要塞内にも存在していた。
 爆発の影響で要塞が傾き、落下速度が速まる。
「あぶねっ、とりあえず脱出だ!」
 他の生徒に続いて要塞から脱出する、恭也。
 そんな中――
「あ!」
 佐那だけは箒に乗って、爆発が巻き起こる≪三頭を持つ邪竜≫の方へと向かって行った。
 煙の中を飛び散る破片の間を抜けて――。
「見つけました!」
 佐那は身体から離れた≪三頭を持つ邪竜≫の心臓を確保した。
 身体から離れてもなお、金属片を呼び寄せる心臓。
「さっさと封印されてください!」
 佐那は≪三頭を持つ邪竜≫から離れると、街から注がれる封印の光に向けて心臓を投げつけた。
 そして――

 光に包まれた心臓は粒子状になり、博物館に置かれた宝箱へと再び封印された。