リアクション
***** 要塞上部に上がった生徒達は、大きくなる≪三頭を持つ邪竜≫を見つめていた。 攻撃を加えてみたが、脅威的な再生力の前では大した効果はなく、どうにか策を講じなくてはと考えていた。 「もっと全体に一気に攻撃を加えないとダメね……」 天貴 彩羽(あまむち・あやは)は取り出したパソコンで破壊するためにプランを考え始めた。 その時、視界の端に見覚えのある黒い影を見つける。 「あいつは確か……」 それは中央コントロール室の監視映像で見た左腕が異様に肥大化した化け物(エッツェル・アザトース(えっつぇる・あざとーす))だった。 化け物が真っ直ぐに見つめる先、そこには≪三頭を持つ邪竜≫の心臓が金属片の間から少しだけ顔を覗かせていた。 「……まずい。食らうつもりだわ!」 彩羽は兵を食らって力をつけたことを思いだし、慌てて周囲の生徒に化け物を止めるように指示した。 化け物の狙いは、≪三頭を持つ邪竜≫の心臓を食らい、自分の力にすることだ。 走り出した化け物を追いかける生徒達。 だが―― 「早い!」 手を地面につけて四足で走る化け物は思いのほか早く、追いかける生徒達には止められらない。 そんな時、化け物の進行方向の外壁を壊して、柊 恭也(ひいらぎ・きょうや)と富永 佐那(とみなが・さな)が要塞上部に上がってきた。 「二人とも! そいつを止めて!」 「あら? この声――」 「おい、なんか来たぞ!」 化け物に気づいた恭也は、慌てて複合銃【バヨネット】で狙い撃つ。 だが、跳躍した化け物は恭也の頭上を通り過ぎようとした。 「よくわかりませんが――」 「!?」 すると、佐那が空中で回転蹴りを放った。 吹き飛ばされる化け物。 着地した佐那はレーザーキンジャールを二種、両手に構える。 「とりあえず、やばい感じはビリビリ伝わってきますので、退治させていただきます」 二人は化け物との交戦を開始した。 ***** 「ぅぐ、落ちる……」 カプセルにどうにかしがみ付いた騨は、空中に宙ずり状態でカプセルにぶら下がる。 床を抜けたカプセルは≪三頭を持つ邪竜≫の身体の一部にされそうになっていた。 カプセルは少しずつ、身体の中へと引きづり込まれていく。 「もう、同調システムは完了しているはず……だったら」 カプセルのタイマーは見えなかった。だが、先ほど確認した表示から考えて、治療は完了していると思われた。 騨は腰のホルスターから銃を引き抜き、カプセルと≪三頭を持つ邪竜≫を繋いでいるコードに狙いを定める。 引き金に指をかけ、大きく深呼吸。 「相手がただの機械なら……」 頭に以前聞いた≪隷属のマカフ≫の言葉が過る。 『機械なら撃てるのか? だったら機晶姫もただ機械……』 手が震え出す。 「……」 騨は首を振って考えるのをやめる。 ――その時、突如の≪三頭を持つ邪竜≫の中から大量のコードが現れた。 「ゥゥ……タ……」 「なっ、なんだ!?」 それらは複雑に絡みながら人の顔を構成していった。 「タ……タスケテクレ……」 「!?」 内部からノイズ交じりの悲痛な声が聞こえてくる。 「クルシイ……コワイ……」 コードの塊は、顔の形を変え、声を変え、単調な言葉で、騨に絶え間なく助けを求めてきた。 それらは全て取り込まれた兵のものだった。 「そ、んな……」 騨の顔が青ざめ、唇を震わせる。 銃口の前で訴える兵の顔に、引き金ができない。 その間にもカプセルは徐々に取り込まれていく。 兵の顔が騨に近づき、腕や顔にコードが伸びてくる。 「こんなの……どうしたら……」 騨はこういう時にどう対処するべきか考えた。 取り込まれた人を助けるか、あゆむを助けるか。 だが、答えは一向に浮かばず、頭の中が真っ白になっていく。 そんな時、ふと腕に巻いたお守りが目に入ってきた。 「……あゆむ」 ――徹夜して手作りのお守り。 『大切な相手を救いたいなら、躊躇わずに撃て……』 ふいにエヴァルト・マルトリッツ(えう゛ぁると・まるとりっつ)の言葉が脳内をよぎった。 「大切な人……そうだ。帰らなきゃ……」 カプセルの中ではあゆむが、こんな状況でも幸せそうな表情で眠っていた。 騨は唇を噛みしめると、銃をしっかり握りしめ――引き金を引いた。 「……ごめん」 何度も、何度も、目を瞑って聞こえる悲鳴に耐えながら、弾が切れるまで撃ち続けた。 だが――地上へ落ちかけたカプセルは、伸びてきた太いコードに捕らわれてしまう。 「クッ、このっ――!?」 銃を向けるが、既に弾切れである。 騨は伸びてきたコードに首を絞められる。 「うぐっ……」 叩いてもコードは外れない。 ジタバタ暴れるが、脱出できない。 絞める力が強くなり、息が苦しくなる。 意識が遠のき始め、その時――眩しい光が目の前を駆け抜けた。 「うぐっ!?」 「よっと……」 締め付けていたコードが光によって切断され、解放された騨は宮殿用飛行翼を使って飛んできたイーリャ・アカーシ(いーりゃ・あかーし)によって抱きかかえられる。 光の発射された方角を見ると、ジヴァ・アカーシ(じう゛ぁ・あかーし)が個人携行型プラズマライフルを構えていた。 イーリャが≪三頭を持つ邪竜≫から離れながら優しく声をかける。 「頑張ったわね」 「あ……り……がと……それより……」 ようやく呼吸ができるような騨は、あゆむの救出を頼む。 「わかっているわ、ルカルカさん!」 「オッケー!」 ルカルカ・ルー(るかるか・るー)はカプセルに近づくと、眠っているあゆむに笑いかけた。 「あゆむ、いま助けるからね!」 ルカルカはカプセルを捕えているコードに向かってブライドオブブレイドを振り下ろした。 拘束が解かれ、落下したカプセルをダリルとカルキノス・シュトロエンデ(かるきのす・しゅとろえんで)が受け止める。 「離脱するよ!」 ルカルカ達は≪三頭を持つ邪竜≫から離れながら地表へ向かった。 「……あゆむ」 騨は安心して地表へ銃を落とした。 |
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