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 木箱を手にしたアニキを先頭に、本堂を駆けるモヒカンたち。そのまま自分達のアジトへと急ぐが、そう易々とは逃がしてくれない。
「君ら、何をしているの?」
「大勢で何か企んでいるのだろ?」
 演奏中に目に止まり、気になって見に来た天音と護衛のブルーズが立ちはだかる。更に、
「先程から騒々しいのは君達だね」
「お客様に迷惑よ」
 憩いの場を提供するエースとリリア。二人も騒音を排除しにやってきた。
「くっ……」
 行く手を阻まれ、咄嗟に宝箱を背後に隠すアニキ。
「おまえが手に持っているものは何だ?」
 それを見咎めたブルーズは一歩前に進む。と、奥から追って来た柚と三月の声が聞こえた。
「和尚さんの宝だ!」
「取り戻してください!」
 情報を聞き、理解する四人。
「つまり、盗みを働いたんだね」
「それは許しておけないだろう」
 臨戦態勢を取る天音とブルーズ。
「宝はお二人にお任せするとして、俺たちはお客様のために動くとしよう」
「騒がしい方には退場していただかないといけませんわ」
 落ち着いた物腰と微笑みで動き出すエースとリリア。
 彼らに対し、アニキの取った行動は、
「てめぇら! 全力で突っ込むぞ!」
 強行突破。
 アニキの周りを固め、モヒカン一同が一丸となって突進。
 立ちはだかる天音、ブルーズ、エース、リリアに決死で飛び掛るモヒカン。さながらラグビーのよう。
 四人も対応するのだが、人壁に阻まれ上手くいかない。
 かくして、中心のアニキだけは辛うじて脱出に成功。
「このままアジトへ急ぐ――」
 境内を通り過ぎようとして、何故か坊主頭でBON−DANCEを踊る手下と出くわした。
「おまえら! 何してる!」
「あ、アニキ!?」
「す、すいやせん! けど、これも仕方ないんでやす」
 怒声を上げるアニキ。二言三言の会話だが、そのものの数秒が命取りとなった。
「追いついた!」
「くそっ、流石に早い! てめぇら、足止めしろ!」
「で、でも……」
 先程の一件で足が竦んでいる元モヒカン。
「いいからさっさと行け!」
「は、はいっ!」
 アニキに蹴り出され、泣く泣く突撃。
「同じ手に二度も引っ掛からないよ!」
 近づいてくる者を手持ちの水ヨーヨーで応戦する天音。
「宝とは何か、その中身、見させてもらうぞ!」
 取り戻すことより、中身の方が気になっているブルーズ。そのためにも近寄る火の粉は振り払う。
 二人とも【一騎当千】を使って薙ぎ払っていく。
 遅れてきた柚と三月は【その身を蝕む妄執】で幻覚を見せたりして脅しをかける。
「お客様の寛ぎ時間を妨害した代償、身体に刻んでもらいます」
「反省して謝って貰うわよ!」
 エースとリリアも動機こそ違えど、やっていることは同じだった。
 繰り広げられる小競り合い。
 場所が場所だけに、BON−DANCEは中止せざるを得なくなる。
「くっ、用心棒の先生方は何をしている!?」
 悲痛の叫びを上げたアニキに、更に不運が続く。
「あ、しまった! お宝が!」
 小脇に抱えた木箱を落としてしまったのだ。
 その衝撃で外れた蓋。そこから現れたものは、
「こらこら、ワシの秘蔵の特製ヅラを持ち出しちゃダメじゃないか」
 騒ぎを嗅ぎ付けやってきた和尚さんの特製ヅラだった。
「宝ってヅラかよ!」
 盛大な突っ込みと共に、アニキは取り押さえられた。

「ここまでじゃな」戦況を劣勢と見るや、「まあ、報酬分は働いておる。撤退じゃ」
 刹那は退散を決め込む。
 その去り際に気付いたことがあった。
「しかし、高円寺はどこに行ったのじゃ?」
 刹那の言うとおり、海が本堂から出てきた様子は無かった。


 ステージで騒動が起きている最中、海はまだ本堂奥に留まっていた。
「柚、三月、すまんな」
 呟く謝罪。それは自分を助けてくれる友に対しての礼であり、これから起こす行動への罪悪感でもあった。
「目的の物を手に入れるか……」
 開け放たれたままになっている地下室への隠し階段。
 一段一段進むと見えてくる主不在の台座。木箱はここに置かれていたのだろう。
 それでも構わず、海は台座に近寄ると、
「待つのであります!」
 後方から制止の声を投げられた。
 振り返る海の目に映ったのは、吹雪とイングラハムの姿。
「お前たち、どうして……」
 驚く海に指を突きつけ、吹雪は言い放つ。
「モヒカンが持っていたあの木箱、ダミーでありますね?」
「何故、そう思う」
 不敵な笑みを浮かべ答える吹雪。
「自分の感がそう言っているであります!」
「…………」
「まあ単純に言うとだ」イングラハムが補足する。「吹雪の金銭欲があれは金目のものではないと言っているのだよ」
「それに!」吹雪も言い募る。「未だここに留まり、一人で探索していることが証拠でもあります!」
「守銭奴に見破られたわけか……」
 溜息をつく海。
「観念したのなら、目的の宝を渡すのであります!」
 仕方が無いと、海は台座に振り返る。そして、下についていた取っ手を回すと、台座の壁の一部が開いた。
「これがオレの求めていたものだ」