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学生たちの休日9

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学生たちの休日9
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    ★    ★    ★
 
「なんだか、あっちは難しいことを話してますねえ」
 ときおり聞こえてくる天城紗理華の声に、大神 御嶽(おおがみ・うたき)が大変ですねえという感じで言った。あれだけいろいろ覚えてきたとなると、ほとんど紋切り型でしゃべっているだろう。いっぱいいっぱいで、顔も口調もきつく強張っているのだろうことは容易に想像できる。話を聞かされる相手もいい迷惑だ。
「で、メイちゃんたちは、じきにキネコが連れてくると思いますが……」
「えっ? ああ、そうじゃったな。もぐもぐ」
 源鉄心たちを宿り樹に果実に連れてきたビュリ・ピュリティアはといえば、イコナ・ユア・クックブックとともにスイカフラッペに夢中でほとんど話を聞いていなかった。
「それで、メイちゃんたちが持っている魔石の封印を解く方法はあるのだろうか。それから、けんちゃんの欠片から、けんちゃんを復活させる方法も」
 ビュリ・ピュリティアに紹介されて、大神御嶽に会った源鉄心が、単刀直入に聞いた。
 メイちゃんたちは、今、キネコ・マネーが呼びに行っている。
「まず、魔石の封印ですが、あの封印はかなり強力なんですよ。おそらくは、解封を想定しないでの封印だったのでしょう。これは、魔石に対して衝撃で結界を壊すという通常の方法は使えませんね。結界だけでなく、中の騎士たち諸共破壊してしまいかねません」
「だが、壊さなければ開放することはできないんじゃないのか?」
「そういうことになりますね。後は、それ以外で封印を無効化する方法か、あるいは封印に穴を開けるか扉をつけるか、とにかく中の世界と外の世界を繋げる方法を見つけだすしかないですね」
「そんな方法は聞いたことがないな」
「ええ。もしも、そういう方法があるとすれば、高位の陰陽師か召喚士しか知らないだろうということになりますか。全て、推測でしかありませんが」
「推測か……。あやふやだな」
 手塞がりかと、源鉄心がつぶやいた。
「まあ、まったくのあてずっぽうではないんですが。アラザルクさんの話では、魔石の封印に、どうも客寄せパンダ様が関与しているようなのです」
「何か関係があるのか。あれは、失敗作だと聞いているが」
「問題にしているのは、あれがなぜ葦原島のそばに封印されていたかです。どこかにあれを封印した人か技術があるはずです」
「それはそうかもしれないが……」
 それが何かと、源鉄心が聞き返した。
「あれだけの強力な効果を、封印が壊れるまで押さえ込んでいたのですから、相当強力な封印だったはずです。参考になるとは思いませんか?」
「いや、漠然としすぎていると思うが」
「でも、案外糸口なんて、そんなところから……かもしれませんよ。葦原島には、行ってみる価値はありそうです」
 どうにもとっかかりがなくて戸惑う源鉄心に、大神御嶽が言った。
「はあはあ、つ、連れてきましたですらー」
 そこへ、キネコ・マネーがメイちゃんたちを連れて戻ってきた。心なしか、キネコ・マネーの着ぐるみが歪になっているのは気のせいだろうか。
「ええっと、御挨拶はいいですからね」
 あわてて、大神御嶽が静止する。
「きゃー、こんにちはー」
 機先を制して、ティー・ティーが、メイちゃんたちにだきついた。こんな所でメイちゃんたち式御挨拶をされたらたまったもんではない。
「一緒に遊びましょう。世界樹で虫取りでもしますか?」
 メイちゃんたちの手を取って、ティー・ティーが言った。
「ちょっと待ってください、ムシバトルでもさせるつもりですか!?」
 大神御嶽があわてた。世界樹に来る虫と言えば、体長数メートルにもなる巨大昆虫ばかりだ。メイちゃんたちと遊んだら、自然と大バトルになってしまう。
「じゃあ、合体スイカ大王割りするのですわ」
 大量のスイカを閉じ込めたぽいぽいカプセルを手にしながら、イコナ・ユア・クックブックが今にもこの場でスイッチを入れる仕種をする。
「わーい、スイカなのじゃあ!」
「ああ、とにかく外行きましょう。ここでは他の人たちに迷惑です」
 喜ぶビュリ・ピュリティアに、大神御嶽があわててみんなをうながした。
「そうだな。あまり何もできなかった分、遊ぼうぜ」
 そう言うと、源鉄心がメイちゃんたちの手を取って立ちあがった。
 
    ★    ★    ★
 
 宿り樹に果実の一画で非不未予異無亡病 近遠(ひふみよいむなや・このとお)がパートナーたちと共にアーデルハイト・ワルプルギス(あーでるはいと・わるぷるぎす)を囲んでいた。
「まあ、気恥ずかしいものだな。イルミンスールに戻ってきてみれば、いろいろな生徒たちが、毎日のようにお帰りなさいを言ってくれる。この後も、なんだかアイスクリームパーティーがあるらしいのう」
「そうなんですか。やっぱり、みんな、アーデルハイト先生の帰りを待っていたんですね」
 少し照れくさそうに言う、アーデルハイト・ワルプルギスに、非不未予異無亡病近遠が言った。
「それでは、さっそく、シャンバラ山羊のミルクアイスで乾杯いたしましょう」
 アルティア・シールアム(あるてぃあ・しーるあむ)が、皆の前に用意されたアイスが溶けてしまわないうちにと切り出した。
「それでは、あらためて、お帰りなさい、アーデルハイト先生」
「お帰りなさいですわ」
「御帰還をお喜びする」
「お帰りなさいでございますわ」
「アイスで、かんぱーい♪」
 ミリア・フォレストお手製のウエファースのついたアイスのカップを、非不未予異無亡病近遠たちが掲げて言った。
「イグナちゃんったら、もっとこっちに来ればいいのにですわ」
「いえ、我はここで……」
 いつも通り非不未予異無亡病近遠たちから一歩引いて、パートナーたちを視界に収められる位置にいるイグナ・スプリント(いぐな・すぷりんと)に、ユーリカ・アスゲージ(ゆーりか・あすげーじ)が隣に来ればいいのにと言う。ここはイルミンスール魔法学校のカフェテラスなのだから、そんなに周囲に警戒する必要はないだろう。まして、アーデルハイト・ワルプルギスが一緒で、何を警戒するというのだろうか。
「こんにちはあ!」
「あぱっぽ!?」
 いや、何やら宿り樹に果実の隅っこで、武神牙竜がメイちゃんから御挨拶を受けている。宿り樹に果実から出て外に行くというので、さよならの御挨拶を始めてしまったのだ。
「く、来るなら来なさいです……」
 コンちゃん相手に、フラッペを持ったノルニル『運命の書』が、じりじりと慎重に間合いをとっていた。
「こんにちはー」
「はい、こんにちはー!」
 突進してきたランちゃんを、イグナ・スプリントがひらりと別の方向へと誘導した。
「ナイスですわ」
 本当に役にたったと、ユーリカ・アスゲージがイグナ・スプリントに感謝した。
「ええと……、ザナドゥでは、今まで何をしていらしたのでございますか?」
 アルティア・シールアムが、アーデルハイト・ワルプルギスに聞いた。メイちゃんたちの挨拶祭りは、見なかったことにする。アーデルハイト・ワルプルギスも、逃げ回るアゾート・ワルプルギスを尻目に涼しい顔だった。さすがに、今まで経験してきた場数が違う。
「知っての通り、クリフォトから地上へと通じるゲートの管理をしておったよ。イルミンスールからザナドゥにやってきた者たちが帰るときにも利用するから、結構忙しかったのう。ほとんど転移の間のヒッキーと化していたな」
 なんだか、もう昔のことになってしまったかのように、ちょっと懐かしそうにアーデルハイト・ワルプルギスが答えた。
「それより、シャンバラの方は、何か変わったことはなかったのか?」
 逆に、アーデルハイト・ワルプルギスが、非不未予異無亡病近遠たちに訊ねた。
「そうですね。最近だと、イナテミスで……」
 非不未予異無亡病近遠が、最近の出来事をアーデルハイト・ワルプルギスに語り始めた。