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リアクション
▼海賊団参上!
シーサーペント襲来の事件は、あまり広まっていなかった。
リース・エンデルフィア(りーす・えんでるふぃあ)らの素早い対応が船から戦場を遠ざけていたのと、
ちょうど昼時だったため船内のレストランに乗客が集中していて、甲板に人がいなかったからである。
なので、あれだけの死闘があったにも関わらず、エスペランサ内部は平和そのものだった。
しばらく様子を見ていた機晶高速艇は、やがて役目を終えたと悟って港へ戻ったのだが───
その平和も、長続きはしなかった。
<!> Emergency Call <!>
再び、あの警告音が鳴り響いたのだ。
成り行きで待機室側の通信を担当することになっていたコルセア・レキシントン(こるせあ・れきしんとん)が、すぐさま画面を切り換える。
すると、やはり情報処理室にいるリカイン・フェルマータ(りかいん・ふぇるまーた)の姿が現れた。
見るや否や、金元 ななな(かねもと・ななな)が状況の確認を急ぐ。
「リカちゃん! 今度はどうしたの!?」
「今度は、海賊船が現れたみたい。それもかなり大きいみたいよ」
海賊……人の意思が関わるそれを災厄と呼んでいいのかはわからない。
が、シーサーペントの時と同じく、とにかく何らかの形で対処しなければならないだろう。
すぐに出動した方がいいと判断したなななは、その旨を伝えようとしたが、
「───ななな君、重要なことだからよく聞いてね」
リカインが妙に慎重な口調で先を制したので、思いとどまる。
その様子を知ってか知らずか、リカインは先の言から続けるように、
「この海賊船だけど、あくまで現れただけなのよ。エスペランサを襲ってきたわけじゃないの」
「……? どういう意味?」
リカインの報告を要約すると───
エスペランサから視認可能な距離で、海賊旗を掲げた大型船と、今まさにそれに襲われている小型商船が目撃された。
放っておけば、その小型商船は確実に略奪の被害を受けるだろう。
しかし今回の任務はエスペランサの護衛が最優先だ。放っておくという選択肢も十分にある。
それを踏まえて至急の判断を請う、といったところか。
「小型商船を助けるのに戦力を割いてる間に、別の何かにエスペランサが襲われたら、対応できるかわからないわ」
リカインが最も危惧している事態である。
そもそも彼女がこうやって連絡係を買って出た理由というのが、
友人であるなななに滞りなく任務を遂行してもらえるよう、サポートする目的だったので。
「……リカちゃん、忠告ありがとね。危ない橋を渡ってほしくないっていうのも、理解してるつもりだよ。でも───」
……わかってた。
彼女の本業は、宇宙刑事なんだ。
ならば教導団の任務など関係なく、世界を守らねばならない。
なななの采配で機晶高速艇は再び港を発ち、海賊の略奪現場へと急行することになった。
そして当面の問題は到着までの時間をどうするか、という事だったのだが───
とあるグループの立候補によって、その問題はすぐ解消されることとなる。
「案外あっさり許可をもらえたわね。もうひと悶着あるかと思ったのだけれど」
宇都宮 祥子(うつのみや・さちこ)は『炎雷龍スパーキングブレードドラゴン』に搭乗し、海賊船を目下に捉えて呟く。
祥子の言葉には、同じように『小型飛空艇オイレ』で滞空している如月 正悟(きさらぎ・しょうご)が応じた。
「現場指揮がなななさんだからね。教導団の中では一番フランクなんじゃないか」
「まぁ一概に良いとは言えないけど〜、今回は、それが対応力に繋がったんじゃないかしら〜?」
師王 アスカ(しおう・あすか)も、『聖邪龍ケイオスブレードドラゴン』の背にしがみついたまま同意する。
龍の背には、アスカ以外にオルベール・ルシフェリア(おるべーる・るしふぇりあ)の姿もあった。
彼女達4人はエスペランサで遊覧を楽しんでいた乗客なのだが、いずれも実力のある契約者だ。
海賊船の騒ぎを聞きつけ、教導団へ制圧の協力を申し出たのである。
「……あらあら〜? 海賊さん達も、こっちに気づいたみたいよぉ」
アスカが遠くを見やるような仕草をする。
見ると、海賊船の甲板で火薬式の大砲を準備する動きがあった。
オルベールはやれやれ、といった表情で、
「砲身をこちらに向けているわ。まったく、こっちはまだ見てるだけなのに短気ったらないわよね」
「そりゃ、海賊だからな……」
今はまだ大砲の射程外なのか、ただちに撃ってくる気配はない。
しかしああやって構えられると、迂闊に近づいたら危険かもしれない───
と、そう思った矢先、
「こういう時は、先手必勝よね」
言うなり、祥子は恐ろしい速度で急降下していった。
海賊団員が慌てて放った迎撃の砲弾は、ローリングによって回避される。
甲板に降りるのが目的だったはずだが、炎と雷の力を纏った龍の接地は、結果的に着地点の周囲をまとめて吹き飛ばした。
設置されていた大砲も、無残に海の藻屑と消える。
「お、おい! 無闇な殺傷は控えろって指示は、忘れるんじゃないぞ!?」
慌てて追いかける正悟。
そんな様子を見ながら、アスカはくすくす笑って、
「じゃ、私達もいこうかぁ。ベルちゃんは、予定通り船長さんを探すのをお願いね〜」
「わかったわ。甲板に降りたら、スタッカートちゃんに乗って船内を索敵してみる。バトルの方は任せるわよ」
───…………。
それから、幾ばくかの時間が経過して、機晶高速艇も到着する。
海賊達はいきなり上空からの襲撃を受けて動揺したのか、接舷していた小型商船を逃してしまう。
これを機晶高速艇が保護・先導しつつ、海賊船を制圧するための援軍が、新たに送り込まれた。
『レッサーダイヤモンドドラゴン』で飛んできた緋柱 透乃(ひばしら・とうの)と緋柱 陽子(ひばしら・ようこ)も、その一員だ。
「海賊相手なら、殺すか殺されるかの戦いを楽しめると思ったんだけどなぁ」
透乃は落胆したまま、甲板での戦闘を継続する。
『カットラス』を構えて飛びついてきた海賊団員を【龍鱗化】で弾き返し、怯んだところへ『透煉の左拳』を叩き込む。
手加減したつもりだったが、海賊団員はわざとらしいほど吹き飛び、マストにぶち当たってそのまま気絶した。
彼女が強敵である事を悟ってか、他の海賊団員は取り囲むように展開して様子を窺っている。
だが、そんな状況下に置かれても、透乃は相変わらずつまらなさそうな面持ちのままだ。
傍らでは、陽子も同じような表情を浮かべている───
「まぁ、偉い人に念を押されてる以上、仕方ないですね……つまらない事は速やかに済ますに限りますよ。透乃ちゃん」
「わかったよー……無闇に殺しはしないことにする。でも、強そうなヤツを見つけたら私が戦うからね!」
空気が震えるような音がした。
その原因は、透乃が『戦闘狂の烈気』を纏い、タイミングを合わせて陽子が【アボミネーション】まで発動したためだ。
突如として湧き上がった畏怖、畏怖、畏怖に当てられて、海賊団員達は動きを停止してしまう。
その隙を見逃さず、陽子が『刃手の鎖』を繰り出して敵を捕縛。一網打尽にする。
ただ、かろうじて反応して、それをかわした者もいた。
彼らは我に返ったように『トミーガン』を構えて応戦しようとしたが───
そんな相手には、透乃が【軽身功】で一気に距離を詰め、先ほどとは違って右拳を叩きつけていく。
「おまえ達みたいな雑魚には、左拳は使わない方がしっくりくるね。手加減するのって性に合わないし苦手だもん」
気がつけば、一帯の海賊団員は完全に無力化されていた。10人以上いたであろうに、圧倒的である。
しかし、それほどの戦果をあげても、まだ彼女達が止まる気配はなかった。
「……船首の方に、まだ人の気配がありますね。一応、船全体を制圧する作戦みたいですから、行ってみましょうか……」
こちらは海賊船の室内だ。
外から見ても大きい船だとは思ったが、中に入ってみるとそれが顕著に感じられる。
ただ、そんな広い空間があるにも関わらず、海賊団員の数は何故か多くはなかった。
祥子・正悟・アスカの3人組は、ここに至るまでにほぼ全ての敵を退治していた。
「気を抜いたら迷いそうよねぇ。どこでこんな船が作られてるのかしら〜」
「カナンやコンロンの方には、まだ治安が悪い場所が多いはず。おそらくその辺りじゃない?」
迷わせるために作られたんじゃないか、そう考えられるほど複雑な構造に、アスカが驚きの声をあげ、祥子が応じる。
そんな緊張感の無いやりとりを行う彼女達を守るように、正悟は位置取っていた。
曲がり角の壁を背負い、通路後方から接近しつつある海賊団員達を牽制する。
「おいおいてめーら、ここまで進撃してきた俺達の様子を見てればわかるだろ!?」
と、ここで正悟は、なにやら説得を始めた。
「頼むから大怪我する前に白旗をあげてくれ! これ以上抵抗すると……このおねー様方は、きっと容赦しないよ……」
先ほどの記述が誤っていたので訂正しよう。
正悟がこの場所に位置どっているのは、アスカや祥子を守るためではなかった。
彼女達の魔の手から、海賊を守ろうとしていたのである。
「ふざけんな! オレらの仲間を散々痛めつけやがって。許さねェぞ化け物女ども!」
「「そうだそうだ! ふざけんなー!」」
しかし、海賊団員達は正悟の警告などまるで無視して叫びながら、少しずつ距離を縮めてきている。
(馬鹿野郎が……どうなっても知らないぞ……)
このままではあの海賊団員達は血祭りにあげられるだろう。
正悟の後ろにいる、若干の返り血を浴びてなお笑顔をたたえる2人の女性陣が、それが誇張でもなんでもない事を物語っている。
いっそ、俺が飛び込んで片づけてしまった方が慈悲深いか? そんな事を正悟が考えていると、
「残念。タイムアップね」
祥子が宣言を下し、『桜の小太刀』2刀流を構えて通路に飛び出した。
───遅かったか。
「待って祥子姉さん〜、私も援護するわぁ」
アスカはひょこっと顔を出すと『パンドラガン』を構える。
うまい具合に祥子に当たらない軌道を選び、『カットラス』や『トミーガン』を持っている海賊団員らの手元を撃ち抜いた。
「ぐあっ!!」
「ッ……いってぇ!」
何人かはそれを受けたことで、たまらず武器を取り落とした。
それを見るや否や一直線に飛び込む祥子。
まだ武器を握っている敵が、タイミングを合わせて刃を突き出してくる───が、彼女の【受太刀】によってそれは回避される。
「はぁっ!」
回避直後、本来は急所を狙うはずの【疾風突き】が、残っている敵の武器めがけて連続で放たれた。
弾かれた剣戟は、勢いよく飛んでいき壁や天井に突き刺さる。
そして海賊団員達が一瞬そちらに視界を奪われた隙に、祥子は彼らの首元へ小太刀を突きつけ、
「どう? そろそろ降伏してもらえると助かるんだけど……?」
そうやって呼び掛けた。
さりげなく【侠客の威勢】を発動させて、凄みをきかせている辺りが抜け目ない。
ここまでを受けて、ようやく海賊団員達はお縄につく気になったようである。
「ふう、TheEndか……よかった。今回はそれなりに穏便に収まったみたいで」
正悟は安堵して胸を撫で下ろした。
と、そこで何の前触れもなく後ろから肩を叩かれたので本気で驚いて、
「うおわっ! 新手か!?」
「新手じゃないわよ……。如月ちゃん、アスカ達に見とれてたでしょ。男の子なんだからちゃんとリードして戦わないと」
振り返ると、そこにいたのは船内の索敵に出ていたオルベールだった。
「あぁ、ベルさん聞いてくれ。ここに来るまで、そりゃもう載せられないような映像ばかりでっ」
正悟は海賊団員達の悲劇を語り通した。
そうこうしている内に、やがて敵の捕縛を終えた祥子やアスカも戻ってきた。
アスカはオルベールが戻っているのを見て、
「あら、ベル? いつの間にか合流してたのね〜。船長さん見つかった?」
「あ、うん。そのことで説明しに来たのだけど───もしかしたら、厄介な事になってるかもしれないわ……」
一同は眉をひそめた。
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