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リアクション
2章 13時〜16時
『涼司くんの側にいるのは私だけで十分です!』
『いいや! 私だよ! ね、学食タダ券半年分……何としても手に入れようね、涼司!』
『何でもいいが少しは警戒しろよオマエら。うだー……』
『大丈夫です。私はしてます』
『あーうんそーだね。うだー』
先程からうだうだ言っているのは、山葉 涼司(やまは・りょうじ)である。
自ら立ち上げた企画であるし、食券も欲しいしで、開始直後はやってやるぜおらーと意気込んでいたのだが、付いて来た、山葉 加夜(やまは・かや)、小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)、ベアトリーチェ・アイブリンガー(べあとりーちぇ・あいぶりんがー)がこんな調子で、敵も現れないのでやる気が失われつつあるのだった。
そうしていると、涼司のHCに連絡が入ってきた。
『ん、あぁ、諜報の騎沙良か。どうした? ……了解。そっちも気をつけろよ。じゃあな』
『どうしました? 涼司くん』
急に険しい表情を浮かべた涼司に、加夜が問う。
『前方のビル、屋上、敵諜報員2人、だそうだ。諜報員ってことは装備は大したことないだろう。ここは攻めていこ――』
と、涼司が言い終わる前に。
『よぉし! 私の方が役に立つということを証明するよ、涼司! いくよ、ベアトリーチェ!』
『あ、待ちなさい! 私がやります!』
と、加夜たちが駆け出して行った。
残された涼司は。
『……何なんだよ、ったく。うだぁー』
とぼやくのだった。
■ ■ ■
騎沙良 詩穂(きさら・しほ)は、涼司に情報伝達した後、引き続き諜報活動に動こうとしていたところで、ある事に気づいた。
何か、光るものが目に入ったのだ。
最初は、ビルの窓か何かが反射して光ったのだと思ったが、違う。
アレは、スナイパーライフルのスコープが反射した光だ。
(正確な位置は一瞬だったからよく分からないけど、スナイパーがいるね。位置を探りに行こうかな?)
そう考えていると、近くの壁に、弾が当たる音が響いた。
それを聞いて、騎沙良はすぐに物陰に隠れる。
(アレは詩穂を狙ってる! どうしよ!? 逃げる!? いや、【ホークアイ】で位置を割り出す! 諜報が仕事しなくてどうするの!)
そう思い、騎沙良が身を乗り出した瞬間、足下に弾が着弾した。
弾の威力が高かったようで、地面がえぐれ、破片が飛び散る。
運悪く、破片の一つが胸のバルーンを一つ貫いた。
『ぐっ!?』
(今の威力…、ゴム弾で? まさか対物ライフル!? 何てモノ撃ち込んでくるんだよ!? ……逃げる? 否! ここで逃げても狙撃されて終わりだろうね。向こうは出てくるのを待ってる。炙り出しってやつね。だからと言ってここに居続けても壁ごと射抜かれてしまう可能性もある。どうする!?)
そして、騎沙良は――。
■ ■ ■
先程の狙撃者、マイア・コロチナ(まいあ・ころちな)は、突然こちらへ特攻してきた騎沙良を見て、
『こちらの居場所がバレましたか? 自棄になって突っ込んで来ているだけ? いや、走りながらこちらの居場所を探っていますね。位置を特定して、攻撃するつもりですかね? まぁ何にせよ、狙撃するだけです』
マイアはスコープを覗き込む。
『む、盾ですか。防がれると確実に居場所がバレますね。なら』
マイアは携帯を取り出し、
『あ、那由他ですか? そこからボクの方に走ってきてる女の子、見えますか? ボクじゃ仕留めることができそうにないので、援護お願いします』
■ ■ ■
『アレかな?』
阿頼耶 那由他(あらや・なゆた)は、スコープを覗きながら言う。
『やぁっと出番なのだよ。まぁ芋ってるから出番が来ただけでもよしとするのだよ』
呟き、引き金をひいた。
だが。
『あッしまった! 外した!』
弾は騎沙良の近くの壁にあたった。
騎沙良がこちらを向く。
『うぁー居場所バレたのだよ。こっち来たのだよ。でも、これで昌毅の射撃範囲に入るのだよ。というわけで昌毅。お願いするのだよ!』
■ ■ ■
斎賀 昌毅(さいが・まさき)は、騎沙良への射撃の一発目を、わざと外した。
わざと、騎沙良の足下へ、射撃する。
騎沙良は、困惑した。
これで、狙撃を確認した方向は3つ目だ。
つまり、3人に狙われている。
どうする? このまま確実な位置が分かる2度目の狙撃者へ行くか? だが、そうすると今の狙撃者に撃たれる可能性が――。
考え、騎沙良は一瞬、動きが止まる。
『だよな。どうするか迷うよな。一瞬でも困惑すれば隙ができる。そうすれば』
斎賀は撃った。
騎沙良の一瞬の隙をついて。
弾は騎沙良の風船を貫いた。
『ふう、ま、こんなもんだよ。さて、続けて芋るとしようかね』
■ ■ ■
『ふー、まさか3人いるとはねー、参った参った』
斎賀に撃たれ、リタイアとなった騎沙良は呟く。
『でも、ま、スナイパーが3人いる、という情報は拡散できたし、諜報としての仕事は達成できたかな』
斎賀に撃たれる寸前、彼女は情報拡散に成功していた。
だが、もう何もできないので、あとはリタイアゾーンに行くだけだが、一つ疑問が浮かんだ。
『あれ? そういえば、山葉校長に連絡した諜報員2人はどうなったんだろ? まあ、山葉校長がいるし、なんとかなってるでしょ!』
■ ■ ■
件の涼司は、何の役にも立っていなかった。
というか、戦場にすらいなかった。
なんというか、迷子になっていた。
まあ、それは置いておいて。
今この場にいるのは、加夜、美羽、ベアトリーチェ。
そして、騎沙良の言う諜報員2人、龍滅鬼 廉(りゅうめき・れん)と白江 紅(しらえ・くれない)の5人だった。
『おりゃぁ! 逃げるな!!』
『逃がしません!』
ドドドドドド! と、美羽の【ブライトマシンガン】が火を噴く。
美羽の武器は光条兵器で、物理防御は無視できる上、剣の花嫁であるベアトリーチェがエネルギー供給している為、当面弾数の心配はしなくて済む。
さらにベアトリーチェは、諸葛弩から神威の矢を放ち、逃げる龍滅鬼の風船を一つ貫いた。
龍滅鬼と白江は元々諜報に来ていたので、その攻撃を防御するどころか、戦闘さえろくに出来ない状態だ。それなりに装備はあるが、2対3という状況からしても戦うべきではない。ということで、ひたすらに逃げていた。
『【光術】!』
白江は、目くらましの為に美羽たちに向かって唱えた。
光術はフラッシュバンのように、閃光を散らす。
『うあッ!?』
美羽とベアトリーチェは、閃光をくらい、一時的な失明状態に陥り、その場にうずくまった。
『廉さん! 今です! 逃げましょう!』
しかし、龍滅鬼は。
(いや、今ならやれる。倒しておくべきだ! あの火力ではいずれやられる!)
龍滅鬼は、刀を抜き、美羽たちに特攻する。
『廉さん!? 待って下さい! 今のは一時的なものです! それに……』
白江は叫ぶが、龍滅鬼は聞かずに突っ込む。
そして、美羽とベアトリーチェの風船を一気に割った。
しかし、その瞬間。
『【ヒプノシス】!』
2人を倒したことで、一瞬気が緩んだ龍滅鬼に、加夜の催眠術が襲いかかってきた。
『廉さん危ないっ!』
叫びながら、白江は龍滅鬼をかばい、身代わりとなった。
『紅!?』
龍滅鬼はすぐに白江の側に寄るが、白江は既に催眠術により、眠ってしまっていた。
(しまった……。俺のミスだ。俺が注意を聞かなかったから……)
龍滅鬼は一瞬、後悔するが、すぐに思考を前向きにする。
(大丈夫だ。結果的に2人は倒せたんだ。ただ、俺の今のやらなければいけないことは、情報を少しでも持ち帰ることだ。忘れるな。だが白江は置いて行くしかないな。下手すれば俺もろともやられる可能性が高い。とにかく今はすぐにここを離れよう)
龍滅鬼は瞬時に判断し、逃走した。
『む、逃がしましたか』
残された加夜は呟く。
(眠らせただけなのでてっきり連れて帰ろうとすると思ってましたが、意外に冷静でしたね。2人まとめてやってしまおうと考えたのですが)
『でも、まぁ、一人は倒せたので、よしとしますか。……というか、涼司くん、どこにいったのでしょう? 探しに行かなければなりませんね。やれやれです』
■ ■ ■
『13時から16時までのリタイア数を報告します
A:美羽
ベアトリーチェ
騎沙良
計3名
B:白江
計1名
以上』