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リアクション
集まって意見を戦わせている討伐隊のメンバーたちの姿を、ウィニカは少しはなれた場所からぼんやりと見ていた。
甚五郎がまとめた地図を広げ、これからの方針を決めているのだ。
……何をやってるんだろう、あたしは。
ここに「紅蓮の機晶石」があると聞いて、何も考えずに飛び出して来たことが考えなしだったとは、さすがに自覚している。
しかし、それでも譲ることのできない想いがウィニカにはある。
モンスター討伐に来た彼らは、自分とは目的が違うのだ。
「これじゃ一匹一匹倒してたら、埒があかないねぇ」
むつかしい顔で煙が言う。北都が頷いて、
「イレイザー・スポーンの変異体というのがホントなら、多少数を減らしても分裂で増殖するかもしれないよね」
「ええ。ですから、「巣」を急襲してそれ自体を根絶やしにするのが一番確実です」
……ほら。
彩羽の言葉に、ウィニカはきりっと奥歯を噛み締める。
「巣」を根絶やしにすると言うことは、ウィニカが求める「宝」を巻き込んで戦闘が行われるということだ。
戦闘によってそれが破壊されてしまう、あるいは二度と手に入らない場所に埋もれてしまう……そんな嫌な想像ばかりが頭に浮かぶ。
「待ってくれ」
ふいに榊朝斗が言葉を挟んだ。
「今回は、目撃された「機晶石」の発見と回収も重要な目的だから……できればあまり強引な方法は取りたくない」
「ええ……なんとか「機晶石」を確認して、戦闘に巻き込まないようにしたいですね」
ルシェン・グライシス(るしぇん・ぐらいしす)が頷いて言う。
「……あのね、ウィニカ」
ウィニカがぼんやりとその会話を聞いていると、傍らにそっと座っていたアイシァが口を開いた。
そこにアイシァがいたことにも気づいていなかったウィニカは、驚いてアイシァを見た。
アイシァはそんなウィニカを元気づけるように、にこりと笑って言った。
「みんな、ウィニカが「ともだち」の為に「紅蓮の機晶石」を欲しがっていること、知ってるんだよ」
「……え」
「討伐に参加した目的はいろいろだし、みんな考え方は違うと思うけど……できるだけウィニカの力になりたいって、思ってくれてるんだよ」
ウィニカは、複雑な表情になる。
自分の「事情」がいつの間にか皆に知られていることも、複雑だ。
アイシァが話したのだろうから、無責任な噂話ではないのはわかっている。
でも、ファニー・メイのことは、ウィニカの心にとっては深い傷そのものだ。人に知られることは、その傷を抉られるような気持ちになる。
そして……。
「でるだけ、ね」
つい吐き捨てるように呟いて、ウィニカはまた自己嫌悪に陥った。
なんの利害関係もない人が、できるだけ力になりたい……と言ってくれることは、ウィニカだって本当は嬉しい。
けれど、自分にとっての切実さから見れば、彼らの感覚はあまりに安易なものに感じるのだ。
それが苛立ちと焦りを掻き立てる。
「ウィニカ……?」
心配そうなアイシァの声が、ささくれだったウィニカの心をいっそう苛立てた。
そんなとき、その報告は入った。
「機晶石がモンスターの巣になっている」……と。
◇ ◇ ◇
「どーなっとる、ぜんぜん数が減らんぞー!」
「どんどん増えるでありますー」
討伐隊を出し抜いて機晶石の元に急いでいた葛城吹雪とイングラハム・カニンガムは、岩だらけの山道を逃げ惑っていた。
「コルセア、機晶石の位置はこの辺で間違いないでありますか」
「情報の座標は間違いないけど……だから、情報が不確かだって言ったじゃない」
トラックで待機するコルセアが頭を抱えてぼやいた。
何度もそう念を押すコルセアに、「なんとかなるであります」と言って飛び出して行ったのは吹雪だ。
「うおあー、また分裂しおったぞー」
「なんか飛んで来たでありますー」
通信機越しに聞こえる二人の声に、あまり緊張感はない。
しかし、その背後で聞こえる爆音や銃声、モンスターの叫び声らしき異音は、そうお気楽な状況ではない。
「吹雪……ねえ、吹雪ってば」
コルセアはたまりかねて言った。
「いい加減、方針転換した方がいいって」
チームの良心コルセアのもっともな意見だった。
「一旦退いて、一時的にでも討伐隊と協力すべきよ。ねぇ、聞いてるの、吹雪?」
ふと気づくと、吹雪たちは息を潜めたように静かだ。
「……吹雪?」
「しっ」
コルセアも息を詰め、注意深く声を低めて聞いた。
「……どうしたの」
「みつけたであります」
囁くように告げられた言葉は、コルセアの予想の斜め上を行っていた。
「ラスボス・オン・お宝、であります」
「……はぁ?」
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