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リアクション
第1競技 徒競走
開会式が終わり、校庭から散っていくなか。
アナウンスに従って、出場する生徒達が入場門へと整列した。
「ねぇねぇお姉さ〜ん」
「はい?」
隣になったセレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)へ早速、耀助は声をかけている。
このやりとり、先日も行われていたような気がするのだが。
「終わったらオレとお茶しな〜い?」
「あら、どうしようかしら……じゃあこうしましょう。
レースで1位になることができれば、ご一緒するわ」
この申し出に、耀助は大喜び。
まだ、そうなると決まったわけでもないというのにね。
「みんなは何所にいるのかな?」
2人の前方では、リーズ・クオルヴェル(りーず・くおるう゛ぇる)がきょろきょろと客席を見渡している。
どうやらパートナー達を捜しているようだが、見つからない。
「リーズ、早く来るネ!」
「えっ、あ、ごめんねっ!」
そんなことをしているうちに、入場時刻。
置いていかれそうになったところをティファニーに呼ばれ、走り出した。
「緊張しているのカナ?
大丈夫ネ、ミーについてくればいいヨ!」
「うん、ありがとう、頑張ろうね」
にっこり笑顔を交わせば、順番がまわってくる。
いよいよ、火蓋が切られた。
(走るのは得意なの!
狼の獣人、甘く見ないでよね!
とにかく全力で走る!
やるからには1位を狙うわよー!)
と心中にて叫び、リーズは狼へとその姿を変化させる。
走ることを考えれば、これ以上に相応しい者はいないだろう。
「ふむ、考えたでありんすな。
スキルではないゆえ、ルール違反ではないのぅ」
いたるところから挙がるどよめきは、ハイナの一声で治められた。
勿論、レースの行方は知れたこと。
「わふ〜負けたネェ〜」
「ま、私に勝つのはまだまだ早いってことよね!」
「しかしリーズ、気持ちよさそうヨ。
触らせて欲しいのネ〜ッ!」
「きゃあぁっ!」
未だ狼姿のリーズに、ティファニーが抱き付いた。
もふもふはほかの女性陣や子ども達にも大人気で、人だかりができてしまうことに。
「絶対に勝つからねっ!」
「ふふっ、そう上手くいくかしら。
伊達に教導団の歩兵科でハードな訓練を受けている訳じゃないのよ☆」
(明倫館と言えば忍者学校だから、運動会と言ってもそれ相応にレベルが高いはず。
けどここで負けたら、教導団の恥だわ)
第4レース、耀助とセレンフィリティの番が来る。
約束を果たすために、耀助ったら火花を散らしまくっている。
(最初は抑えていくわ……)
セレンフィリティのレース構想は、こんな感じ。
まずは、できるだけ体力を温存しつつ、なかほどの位置をキープする。
前を走る選手達を観察し、疲れが見えれば徐々に追い上げ、頃合いで一気に追い抜くのだ。
(いまよっ!)
決意を固めて、スピードを上げていく。
セレンフィリティは耀助を華麗に抜き去り、ゴールした。
「ふわ〜負けたぁ〜っ!」
「だから、言ったでしょ?
あたしは教導団では歩兵科に所属しているの。
地雷原を全速力で突っ走るとか、日ごろの厳しい訓練のおかげで足腰はかなり鍛えられていると自負しているわ。
最高の舞台で全力をぶつけられて本当によかった、ありがとう」
「じゃあそのお礼ってことでお茶にでも……」
「それは駄目よ、約束だもの」
やはり誘ってくる耀助を、軽く躱していく。
はて、これで諦めるのだろうかと思ったのは、セレンフィリティだけではなかったかも知れない。
(上体を低くして……いまだっ!)
(獣人として、狼として、スピードで人に負けられねぇな!)
最終レースで登場したのは、清泉 北都(いずみ・ほくと)と白銀 昶(しろがね・あきら)。
パートナーとはいえ、いまだけはライバル心むき出しだ。
「オレはっ!
小細工無しでただ走るだけだ!」
上下黒のジャージを着ていることもあり、イメージは黒い弾丸。
あくまでも人の姿で、ただし姿勢を低くして獣の如く走り抜けていく。
(なんとか、昶にはついていかないとね〜)
鋭いスタートを切った北都が、ゆっくりと上体を起こしてきた。
歩幅は広く、地を蹴ってラインまで一直線。
(背が低い分、空気抵抗は少ないだろうけど、歩幅の差があるから。
メリットとデメリットは、半々、ってところかな)
こちらも昶に同じく、真っ黒な様相でレースへと挑む。
派手な色が好きでないため、白組を選んだのだとか。
「ぃよっしゃ〜っ、いっちば〜んっ!」
「はぁ……はぁ……はぁ……に、にばん、だね〜」
昶と北都は、ゴールすると速攻で倉庫の方向へ走っていった。
事前の相談で外れていたのだが、次の競技の準備を手伝いたいらしい。
「激しいことはあまりできないけど、少しでもみんなの役に立ちたいんだ」
「そうか、まぁ手が多いに越したことはないのでな。
たいへんでなければ、よろしくお願いいたす」
「うん、執事気質だから、サポート系は得意なんだよ」
「大玉があれば、狼姿で上に乗って玉をころころ転がして運ぶのもアリだったんだけどな。
残念ながら使わなかった……地道に人の姿で運ぶぜ」
ゲイルからのお墨付きもいただいたところで、北都と昶は玉入れの籠を受けとった。
進行方向にたいして、北都は背を向け、昶は前向き。
「よいしょよいしょ!」
「足許に石があるぜ、気をつけろ!」
流石はパートナーということで、息ぴったりに道具を運ぶ。
籠を立てる係に手渡してから、客席へと戻っていった。
「く!
もはや匡壱達よりも早く問答無用で手伝わされるとは!
俺は何なんだ!?」
今朝は、朝の8時に学校へと呼び出された紫月 唯斗(しづき・ゆいと)。
一般の生徒達は10時集合だったというのに、残念な現実である。
「白線を引き、テントを建て、シートを敷き、各競技の準備まで……」
記憶を辿り、指を折って数えてみた。
教職員に負けない、いや、それ以上のがんばりっぷりである。
(自分のことをこんなに偉いと思ったのは、初めてかも知れないな)
改めて思うと、なんだか拍手でも送りたくなってきた。
赤組に属しているが、雑用係で終わりそうな気配がしている。
「大丈夫か、唯斗?」
「お、ダリルもお疲れさま。
なんかさぁ、俺達、本部手伝いって感じになっているよな」
ちょっとだけ辛くなってきたタイミングで、ダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)が話しかけてきた。
デジタル一眼カメラを首から提げ、選手達を激写している。
「そうだな……まぁ俺は、この役目も嫌いじゃないけどな」
「前向きだなぁ、ダリルは」
合間には準備を手伝い、競技中は撮影やら放送補助やら、なにかと忙しいダリル。
それでも、競技に出られなくとも、楽しんでいるようだ。
「そういやぁ、ダリルのパートナーさんはどこにいるんだ?」
「ん〜っと……あぁ、あそこだ」
示す先には、橙の髪を持つ少女。
同じ組のメンバー達と、面白おかしく談笑しているようだ。
「彼女は、幼少時から傭兵として世界を転戦しているのだ。
出会いと別れを繰り返してるゆえに、友情や絆を大切にする。
だからこそ、友情という関係には特別な思い入れがあるのだという」
「そうか、たいへんな経験をしてきたんだな」
ぽつりぽつりと、ダリルはパートナーのことを話し始める。
唯斗になら、打ち明けてもよいと思えたから。
「誰にでも、永遠の別れは突然訪れるからな。
ああしておけば良かったと悔いを残さないように、いつも全力なのだ」
「なるほど……とても素敵な心がけだな」
返答に、ダリルは満足げな笑みを浮かべる。
パートナーのことが大切だから、理解してもらえて、素直に嬉しかった。