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行方不明になった少女達と森の化け物達

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行方不明になった少女達と森の化け物達

リアクション


■ 断罪の拳 ■



 爆発の余韻も消えることを待たず魔女は撃ち抜かれた右太腿を庇いながら立ち上がった。近場にあった椅子にどっかりと座り込んだ。
「多勢に無勢って、ほぉんとやぁねぇ」
 静かになった室内に魔女のぼやきが静かに響いた。
 この中で何人が気づいているだろうか。彼女が一切悲鳴を上げていない事に。それ故かこの静寂は不気味この上ない。
「見つけたわッ」
 爆音を頼りに駆けつけたセレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)は室内の様子に声を失った。隣のセレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)と視線を交わし合う。
「大人しく観念するんだな」
 鞭を片手に一歩を踏み出したダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)に魔女は不遜に足を組む。裂傷と穴だらけ体とは思えぬほど優雅な所作であった。
「なぁんであたしが観念しないといけないのぉ?」
「ふざけないでッ」
「ふざけてなんていないわぁ。あたしは至って真面目よぉ?」
 ルカルカ・ルー(るかるか・るー)の非難を右から左へと魔女は受け流した。
「これでも結構苦労したんだからぁ。実験するにはお金がいるしぃ、正確な結果を出すにはそれなりの被験体が必要だしぃ」
「それで誰と組んだんだ?」
 問うダリルに魔女は実に煩そうだった。
「あんた頭いいねぇ。頭いい人ってあたしきらいだなぁ」
 その一言で判明したのは、魔女と利害が一致した人間が存在している、という事実。
 セレンフィリティが動いた。同時に魔女も床を左足で力強く叩く。
 シュヴァルツヴァイスの弾丸を召喚に応じたミイラが、一撃、二撃と受け止めた。
 奇襲に見せかけた威嚇射撃を防がれたことにもめげずセレンフィリティは追撃に重たい対化物用拳銃を構え直す。
「短期な人も嫌――へぇ」
 爆ぜてバラバラになったミイラを煩わしそうに消した魔女はセレンフィリティに集中していてセレアナに接近を許していた。感心し片眉を跳ねあげる。
「連携って素敵ぃ。水着のペアルックってのも素敵ぃ」
 ビキニ姿のセレンフィリティとレオタード姿のセレアナに魔女はとても嫌味ったらしく呟くように呻いた。
 ワイヤーを持つセレアナはスタンガン代わりにするつもりなのか、その指には雷術の準備が用意されていた。
「さぁて、知ってることは洗いざらい気持ちよく話してもらおうかしら? 黒幕とかいるんでしょ?」
「なぁに、尋問? でぇもぉ、あたしなぁんにも喋んないからあ」
 椅子ごとワイヤーで括られながらもセレンフィリティに微笑んだ魔女に、怒りに震えるルカルカが近寄った。
 椅子に座る魔女にかしずくように腰を落とし、腕を振り上げた。
「――い、ったぁあいぃッ」
 残された最後の左足さえ殴り砕かれた魔女は、しかし、愉しげに笑っていた。
「何が可笑しいのッ」
 ルカルカの激高は最早絶叫に近かった。
 眦を吊り上げる契約者達に、魔女は、「馬ぁ鹿ねぇ」と囁いた。
 ワイヤーが拘束する中、左腕を何とか動かして、隠しから薬瓶を取り出す。拳大程の大きさのそれを無造作に床に転がした。
「あげるわぁ」
 咄嗟のことで誰も反応できなかったが、それなりの厚さなのか瓶は割れること無くころころと転がっていく。セレアナが警戒しつつもそれを拾い上げた。
「なにそれ?」
「ご希望の呪いを解くお薬」
 セレンフィリティに素直に答えて、魔女は本当につまらなそうに半眼になった。
 そして、この場に自分の理解者が居ないことを大きく嘆いた。
「魔女の実験になぁんでそんなに必死になってるのぉ? あんた達あたしがどんだけ凄いことしたのかわかってるのぉ? 不死族化よ? 生きたままアンデッドにつく――ッ」
 怒りの拳が魔女の語りを遮った。
「これは被疑者の分……」
 ルカルカの声は静かで重たい。
「……これも被害者の分」
 彼女が拳を振るうのを止める者は居なかった。
「これも、これも、これもよ!」
 高まりすぎた感情に際限無く拳を振るうルカルカをダリルは無言で止めた。
 それを何の好機と見とったか、魔女は伏せていた顔を上げてルカルカを、その向こうの天井を、更に先の天へと向かって目を見開いた。
「ねぇ、あたしって天才だと思わなぁい?」
「残念だが、実験は強制終了だ」
 高らかに叫んだ魔女は銃声音と共に沈黙した。



 館まで車が通れる道が確保されていたのは幸いだった。甚五郎が用意した小型飛空艇もあったが、流石に全員は収容できない。車が使えるとわかっただけでも心強いと、ルカルカは少女達の搬送に外部と連絡を取り始めた。
 リース、姫星達は解呪薬を飲んで眠ってしまった少女達の世話に甲斐甲斐しく動き回る。
 まだ森に残された少女もいるので、まだ人間になっている内に探しに出そうとエース、生駒、吹雪、朱鷺達は軽い打ち合わせを行なっている。
 館の地下に実験施設を発見したセレンフィリティは輝夜とロレンツォ達と一緒に探索にでるが、何者かが綺麗に拭ったかと思われるほど今回の事件に繋がる手がかりは、塵ひとつ見つけることができなかった。
 皆が忙しなく歩き回っている場からやや離れた所で、恭也と紅鵡が、麻酔銃を打たれ昏睡している魔女を睨むように監視している。
 まだ森の夜は明けない。






■ エピローグ ■



 後日少女達が収容されている病室に行くとツァンダ家の使者が現れた。
「この度の契約者様達のご協力大変感謝します。皆様のお陰で行方不明だったお嬢様方は全員無事に保護されたことをご両親様方は大変お喜びになっております。まだこちらがごたついているので、お礼と報奨の方は後日改めてさせていただくことになりますので、その時にはこちらからご連絡させていただきます。
 また件の魔女なのですが、こちらもまだ意識が戻らず取り調べが進んでおりません。他に協力者が居たということですが、あの後館を隅々調べましたがこちらも成果は全くと言っていい程ありません。全ては魔女が目覚めてから、ということになりました。進展がございましたら改めてご連絡させていただきます。
 それでは、今回は本当にお疲れ様でした。また、何かあればご依頼することもあると思いますのでその時はどうぞよろしくお願いいたします」
 そう丁寧に礼を述べ、少女達の見舞いを済ますと静かに病室を退室していった。

担当マスターより

▼担当マスター

保坂紫子

▼マスターコメント

 皆様初めまして、またおひさしぶりです。保坂紫子です。
 今回のシナリオはいかがでしたでしょうか。皆様の素敵なアクションに、少しでもお返しできていれば幸いです。
 皆様お疲れ様でした。少しだけ引きを残した最後になりましたが、このシナリオの続編は予定しておりません。
 余談ではありますが、このシナリオは元々は童話を基盤にしておりました。ご覧いただければわかりますが既にガイドからして見る影もございません。これも全ては魔女の頭のネジを緩ませすぎたのが原因だと思われます。
 次回作は明るめなのを予定しております。もしよろしければご参加いただければ幸いです。

 また、推敲を重ねておりますが、誤字脱字等がございましたらどうかご容赦願います。
 では、ご縁がございましたらまた会いましょう。

2012年12月12日 修正。