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暴走する機械と彫像の遺跡

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暴走する機械と彫像の遺跡

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■幕間:暴走の在処

「フランソワ、お土産買ってきたよ」
 一風変わった服装の女性、黒乃 音子(くろの・ねこ)は機械を分解して調べているパートナーのフランソワ・ポール・ブリュイ(ふらんそわ・ぽーるぶりゅい)に近づくと手にした乾物を見せた。荒野という気候もあってかこの街には乾物が多い。
「遺跡の方に温泉あるって言ってたよ。ちょっと風景が寂しいけど忘年会で騒ぐには悪くないよね」
「音子はぶれませんな」
 彼が分解しているのは銃器のようだ。
 銃身の内側が焼け焦げており、円筒部分は内側から押し出されるように捲れていた。
 元は軍用のスナイパーライフルのようでスコープが脇に置かれている。
「何かわかったの?」
「発射される弾の速度が異常なのはわかりますな」
 それは威力も異常だということを意味する。
「これも暴走するのかな?」
 黒乃は手にした銃器をフランソワに見せた。
 火薬を用いた一般的なライフルだ。
「それは大丈夫でしょう。これが暴発ないし暴走を起こしたのはコレのせいでありましょうし」
 トントン、と指で叩く。
 その部分には機晶石が填められており、そこから細いケーブルがいくつも銃身にのびていた。
 どうやら機晶石のエネルギーを利用して弾丸を射出するタイプの銃器らしい。
「それ割れてるよね」
「だから暴走したのか、暴走したから割れたのか。まだ分かっておりませんな」
「最初は強力な磁界(力場)の変移でもあるのかと思ったよね」
「街の人から話を聞く限りではその様子もなかったですからな。他にも調査に乗り出している方たちがおられるようですし、後程情報交換をいたしましょう」
 二人が銃器を調べていると科学者風の男が脇を通り過ぎていく。
 女学生とヘンテコな機械を引き連れている姿は否応なく注目を集めていた。
「変な恰好ね」
「……音子もかなり独特ですけどな」
「ボクはほら、可愛いから許されるよ」
 その場でくるっと回って見せた。
 たしかに可愛いが、個性的なコスチュームからはどの区分にも当てはまらない新種族に見えなくもない。
 去っていく科学者風の男の背中と見比べながらフランソワは告げた。
「それがしはパートナーを尊重する主義です」
「女を立てるのは良い男の証だよね」
「褒められたからには良いところを見せないとなりませんな」
 フランソワは言うと分解した銃器を片づける。
「さて調査を続けましょうか」
 彼女たちはその場を後にすると他の暴走した機械を調べに向かった。

                                   ■

 街の東部、博物館に面した大通りをドクター・ハデス(どくたー・はです)は歩いていた。ハデスは発明品と妹を連れ立っている。
「フハハハ! 我が名は世界征服を企む悪の秘密結社オリュンポスの天才科学者ドクター・ハデス! 機械の暴走事件はこの天才科学者にして天才発明家である俺にとっても放置できぬ問題だ。すぐに原因を究明し、真実を白日の下にさらしてやろうではないか!!」
 ハデス空を仰ぎ叫んだ。
 いつもと変わらぬ調子の兄、ハデスに咲耶は声をかける。
「事件について調べるんですね。兄さん」
「さすがは改造人間だ。話が早くて助かるぞ」
「改造人間じゃないって何度言えばわかるんですかっ!」
「そんなことより、例の場所がこのあたりで間違いがないか確認をしてくるのだ!」
 そんなこと、と打ちひしがれている咲耶をよそにハデスは持ってきた発明品をいじり始めた。もう咲耶の言葉は耳に入らない様子である。
「さっき聞いてきましたよ。たしかにこの辺りが頻繁らしいです」
 ところで、と言葉を区切り彼女はハデスに聞いた。
「暴走した機械がどうなったかは、どうやって調べるんですか?」
「決まっているではないか」
 フハハハ、と笑いながらハデスは立ち上がると発明品を咲耶の前に置いた。
「ちょ、ちょっと、兄さん!? もしかして実際に暴走させて確かめようとか言うんじゃ……!?」
 その通りだというようにハデスは頷く。
「暴走したという機械の機能を全て持たせた発明品で実験を行えば、『暴走した機械がどうなったのか』は、一目瞭然! さあ起動せよ、『実験用十徳マシーン』よ!」
 ポチッ、という音と共に発明品が動き出した。
 ピピーッ、ガガガという耳障りな駆動音が聞こえてくると、次いで機械的な音声が発明品から発せられた。
「制御しすてむニ、えらーガ発生シマシタ。標的確認!」
 発明品のセリフを最後まで聞かずに、慣れた動きで咲耶は逃げ出した。
「やっぱり私に向かって暴走してくるんですねっ!?」
 叫ぶ彼女の背後、ハデスの発明品が包丁や掃除機などを振り回しながら追ってきていた。
 騒ぎの起きている様子を眺めながら、ウルスラーディ・シマック(うるすらーでぃ・しまっく)は己の仕事をこなしていた。
「たしかにこのあたりは事故が頻繁に起きているようだな」
 土煙をあげて去っていくハデスの発明品を見ながらウルスラーディは手にした地図にチェックを入れた。
 そこには機械の暴走が起きた場所と時間が書き込まれていた。
「これ追加でよろしく」
 そう声をかけてきたのはトーマだ。
 彼は御凪と別れたあとにウルスラーディと会い、一緒に調査をしていたのであった。
 手渡された地図を確認し追記する。事故の起きた位置が一見してわかるほどに偏っていた。
「規則性があるとは思ってたがここまで偏ってるとはな」
 ウルスラーディは言うとトーマに地図を見せた。
「東側ばっかり事故起きてるね」
「ああ、しかも時間はバラバラときてるからな。問題なのは時間じゃなくて位置だろう。対策としては東部で機械はできる限り使わないってところか」
 彼はめんどくせえなあ、と呟きながらハデスの発明品が去っていった方角へと歩き出した。その様子を見ていたトーマが声をかける。
「どこいくのさ?」
「調査結果は出たからな。仲間に知らせに行く」
「じゃあオイラも真人にいちゃんに知らせて来ようっと」
 二人は自分たちの仕事を終えて各々の仲間たちの元へと向かった。