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学生たちの休日10

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ヒラニプラの年底

 
 
「セレン、お手々がお留守よ」
 セレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)が、本を読みふけっているセレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)に言いました。
 二人は、今、大掃除をしていたはずなのですが、なぜか、セレンフィリティ・シャーレットは積みあげた本の山の前で漫画を読みふけっています。
「いや、だって、ちょっとこれ懐かしくって……。セレアナも読んでみる?」
 そう言って、セレンフィリティ・シャーレットが読んでいた漫画本を差し出しました。
「私に四十七巻全部を読めと……。だいたい、あなたも最後まで読んだら、年が明けてしまうわよ」
 そう言って、セレアナ・ミアキスがセレンフィリティ・シャーレットを追いたてました。
 仕方なく、セレンフィリティ・シャーレットが読んでいた漫画本を泣く泣く縛っていきました。それら、縛った本は、古本屋に売りに行く予定です。
 その間にも、セレアナ・ミアキスがせっせと部屋の中を片づけて掃除を進めていきます。
「よし、梱包完了。じゃ、売ってくるね」
 そう言うと、セレンフィリティ・シャーレットが漫画本の束を古本屋へと売りに行きました。
 その間にも、せっせせっせとセレアナ・ミアキスが掃除を進めていきます。
「遅い……」
 なかなか帰ってこないセレンフィリティ・シャーレットに、セレアナ・ミアキスがだんだんと苛ついてきました。
 掃除は、とっくの昔に終わっています。
「ただいまー」
 日もとっぷりと暮れたころ、やっとセレンフィリティ・シャーレットが帰ってきました。
「それでいくらになったの?」
 セレアナ・ミアキスが聞くと、少し笑いながらセレンフィリティ・シャーレットが何やらチケットの束のような物を取り出しました。
「うーんと、確実に六億ゴルダって言うところかな。前後賞も当たれば、もっと増えるけど……」
 セレンフィリティ・シャーレットが見せたのは、年末パラミタジャンボ宝くじです。
「えーっと、いったいどこから突っ込んだら……」
 捕らぬタヌキの何とやらですが、それ以前に、今売ってきた古本のお金までつぎ込むとは……。実は、すでに、冬のボーナスやらなんやらをすべてつぎ込んで宝くじを買っていたのでした。まだ足りないのかという言葉は、いくら言っても足りません。
「わあ、すっかり綺麗になったわね。私だって、やればできる……」
 すっかり片づいた部屋を見てのたまったセレンフィリティ・シャーレットの口に指を突っ込んで、セレアナ・ミアキスが思いっきり左右に広げました。
「そういう冗談を言うのはこの口かあ。ええい、この口かあ」
「ははゃっははら、ひゃんへんひて……」
 涙目で、セレンフィリティ・シャーレットが謝りました。間違いなく、この部屋を掃除したのは、セレンフィリティ・シャーレットではなくてセレアナ・ミアキスです。
 まあ、そんなごたごたもすぎ、セレアナ・ミアキスが年越し蕎麦を茹でていると、セレンフィリティ・シャーレットの悲鳴がリビングから聞こえてきました。
 何ごとかとセレアナ・ミアキスが駆けつけると、両手で宝くじの束を握り潰して怪しい踊りを踊っているセレスティア・レインがいました。
「あっ、ほい。あっ、ほい」
「まあ、予想通りだったけどね」
 結局全部外れたのでしょう。想定の範囲内です。これでは、末等の三百ゴルダすら当たったのか怪しいです。
「あっ、ほい。あっ、ほい」
「いいかげん、現実に戻ってきなさい!」
 いつまでも踊って自分をごまかしているセレンフィリティ・シャーレットをセレアナ・ミアキスがどつきました。
「なによぉ、人生には夢が必要なのよぉ! たとえそれが蜃気楼のようにつかめない夢であっても、人は夢を見続ける限り、それを糧にしてつらい現実を生きていけるんだから!」
「で?」
「だ、だから、人生には夢が……」
「他力本願じゃいつまで経ってもお金貯まらないわよ。はいはい、お蕎麦のびちゃうから、早く食べよう」
 パンパンと手を叩いて不毛な会話を終了させると、セレアナ・ミアキスが言いました。
「来年こそわあ!」
 
    ★    ★    ★
 
「さてと、今年最後の訓練をしましょうか?」
 教導団の食堂の片隅に、図書室から集めてきた本を山積みにして、高峰 結和(たかみね・ゆうわ)が言いました。
「じゃあ、いつもの訓練からね。あえいうえおあおあ。はい」
 高峰結和に言われてエメリヤン・ロッソー(えめりやん・ろっそー)がなんとかそれを繰り返そうとしますが、うまく発音できません。
「もう少し頑張るよー」
 繰り返し繰り返し、丁寧にゆっくり高峰結和がエメリヤン・ロッソーのボイストレーニングを繰り返します。
「あー、えー、おー」
 一緒にいたロラ・ピソン・ルレアル(ろら・ぴそんるれある)が、応援しながら一緒に繰り返しました。とはいえ、こちらの方もあやふやです。
「うーん、エメリアンの方はちゃんとしゃべれるためのボイストレーニングだけれど、ロラさんの方は、ボキャブラリを増やす必要があるねー」
 そう言うと、高峰結和が簡単な絵本をロラ・ピソン・ルレアルに渡しました。
「がー、あー、うー」
 頑張って読もうとしますが、カエル型のギフトであるロラ・ピソン・ルレアルは、基本的な発声を必要としていなかったため、音声機能を完全には装備していません。そのため、絵本も、ひらがなの主に母音の部分しか読んでないので、もう何が何やら。
「じゃあ、続けるよ」
 高峰結和が、口の形をよく見せながら、エメリヤン・ロッソーのボイストレーニングを再開しました。
 エメリヤン・ロッソーは山羊の獣人ですが、普段から頭の角や尻尾や足は山羊のままです。普段から半分以上獣化していることもあってか、人のような発声が困難でなかなかうまく言葉が話せません。それではこの先困るだろうということで、機会を見ては高峰結和がボイストレーニングをしているのでした。
「頑張ろー」
「がー、ばー」
「ひーほー! うー!」
 ロラ・ピソン・ルレアルが両手を挙げて元気にポーズをとりますが、一番わけが分かりません。エメリヤン・ロッソーが、ロラ・ピソン・ルレアルにだけは負けられないと対抗心を顕わにして頑張りました。
「それじゃあ、今回の最終目標。あけましておめでとう。はい」
「あー、けー、めー」
「ろー、ほー、たー」
 高峰結和に続いて、二人が繰り返しましたが、なんとなく意味が分かるエメリヤン・ロッソーと比べて、ロラ・ピソン・ルレアルの方は相変わらずさっぱり分かりません。
「繰り返すよー。あけましておめでとー」
 何度もみんなで繰り返すうちに、日付は新年へと変わっていました。