イルミンスール魔法学校へ

シャンバラ教導団

校長室

百合園女学院へ

学生たちの休日10

リアクション公開中!

学生たちの休日10
学生たちの休日10 学生たちの休日10

リアクション

 
    ★    ★    ★
 
「あー、ぽかぽかー。ぽかぽかー」
「うん、ぽかぽかなのじゃー」
 世界樹の枝の上では、稲荷さくらとビュリ・ピュリティア(びゅり・ぴゅりてぃあ)が、のんびりとひなたぼっこをしています。
 その近くにある宿り樹に果実のカフェテラスでは、アルディミアク・ミトゥナ(あるでぃみあく・みとぅな)アラザルク・ミトゥナがのんびりとデートしていました。
 そこからちょっと離れたテーブルでは、ココ・カンパーニュ(ここ・かんぱーにゅ)がテーブルに突っ伏しています。
「リーダー、大丈夫ですか?」
 ペコ・フラワリー(ぺこ・ふらわりー)が、ちょっと心配そうに訊ねます。
「いや、あまり……」
 突っ伏したまま、ココ・カンパーニュが答えました。
「まあ、先を越されちゃったからねえ」
 はははと笑うマサラ・アッサム(まさら・あっさむ)を、これこれとチャイ・セイロン(ちゃい・せいろん)が突っつきました。
「やれやれ、ここにいるのはみんな負け組か? そういえばクリスマスのときも……」
 人間の姿になっているジャワ・ディンブラ(じゃわ・でぃんぶら)が空気を読まないで言いました。
「よし、リア充はすべて爆発させ……」
 がばっと起きあがったココ・カンパーニュを、ゴチメイ隊全員であわてて取り押さえます。ここで、宿り樹に果実を吹き飛ばされてはかないません。ミリア・フォレスト(みりあ・ふぉれすと)が泣きます。
「少し頭を冷やしにいきましょう。そういえば、リンちゃんはどうしているのですか?」
「また、お風呂ですわあ」
 ペコ・フラワリーの言葉に、マサラ・アッサムが答えました。イルミンスール魔法学校にやってくると、リン・ダージ(りん・だーじ)はたいてい大浴場に入り浸りです。
「分かった。打たせ湯で修行してくる。全員だあ!」
「え〜」
 ぶうぶう非難の声をあげるゴチメイのメンバーを追いたてるようにして、ココ・カンパーニュは大浴場へとむかいました。
 
    ★    ★    ★
 
 ごぉぉぉぉーん。
 ちょっと世界樹には不釣り合いな響きですが、除夜の鐘の音がどこからか鳴り響きます。
 本来の意味をちょっと離れて、イベントとしてどこかの枝に鐘を吊って叩いているのでしょう。
「もうすぐ、年が変わるね」
 博季・アシュリング(ひろき・あしゅりんぐ)が、リンネ・アシュリング(りんね・あしゅりんぐ)に言いました。
「そうですね。今年もいろいろとありました」
 博季・アシュリングが、今年一年を振り返ります。
「僕は凄く幸せな一年だったなぁ。リンネさんと一緒に編み物したり。一緒にお料理したのも楽しかった。膝枕が大好きになったりね」
 そう言うと、ちょっとリンネ・アシュリングが照れました。
 ほかにも、バレンタインがあったり、ハロウィンを楽しんだり、クリスマスを一緒に過ごしたり、忘年会に参加したり、いろいろな出来事がありました。
「そろそろ、カウントダウンだね」
 時計を見て、博季・アシュリングが言いました。そっとリンネ・アシュリングの肩に手を回すと、妻をだき寄せてそのときに備えます。
「3、2、1……」
「あけ……」
 ……ましておめでとう、と言いかけたリンネ・アシュリングの唇が、博季・アシュリングの唇でふさがれました。
 暖かいぬくもりが、二人だけの時の針をしばし止めます。
 現実の時計の秒針がたっぷり二周した後、やっと二人の唇が離れました。
「あけましておめでとうございます。今年も一年……、いや、違うな。……今年も、来年も再来年も、その先まで。ずっとずっと……よろしくお願いします。リンネさん」
 ちょっと酸欠気味に一所懸命息をしているリンネ・アシュリングにむかって、博季・アシュリングが言いました。
 そして再び、今年最初のキスをします。先ほどのキスは、年またぎのキスだったので、今年最初にはならないようです。
 そのまま、二人は今年はどう二人で過ごすかなど、楽しい想像をふくらませながら話し続けました。
 そのままベッドに入っても話は尽きることなく、ずっと朝まで続いていったのでした。
 
    ★    ★    ★
 
 ぴゅるるるるる〜っと、トンビが鳴くような音をたてて、寒風がパラミタ内海に面した砂浜を吹き抜けていきます。寒いです。
「浜だから、風が強いんだよ。でも、すぐ慣れるから、みんな、頑張ろう!ね
 荀 灌(じゅん・かん)芦原 揺花(あはら・ゆりあ)を前にして、芦原 郁乃(あはら・いくの)が言いました。
「お姉ちゃ〜ん、これは無理ですよ〜。だいたい、なんで海なんですか?」
「古来より特訓は海でやるものと相場が決まっているのよ。かつて猛虎と呼ばれた選手は荒波にむかってシュートを打ち続け、強烈なシュートを会得したという……」
 ちょっと泣きべそをかいている荀灌に、芦原郁乃が言いました。
「あの、わたし、サッカー部員でもないんですけど……」
「そういうことで、身体を温めないと危険だからね。まずはビーチ往復50回からいくよ〜っ!」
「え〜!」
 華麗に芦原揺花をスルーして、芦原郁乃が駆け出します。二人の意見など聞いちゃいません。
「これは、恐怖合宿です……」
 砂に足を取られながら、荀灌が必死に芦原郁乃の後を追いかけながらつぶやきました。
「海に来たんだから、ホントは泳ぎたいけれど、この寒さじゃ自殺行為だよね……」
 早々と脱落してとぼとぼと歩きながら、芦原揺花が大波で荒れ狂う海を見て言います。
「よおし、身体も温まったから、次はシュート練習行っくよー
 そう叫ぶと、ボールを持った芦原郁乃がジャブジャブと波打ち際に入っていきました。
「ちょっと、お姉ちゃん!」
「無理だよぉ」
 荀灌と芦原揺花が悲鳴をあげますが、芦原郁乃は全然平気です。気合いで、寒気を弾き返して全身から真白い湯気を上げています。さすがは、胸以外は完成された肉体です。
「こうやって、キック力を鍛えるんだよ」
 そう言うと、芦原郁乃が海に入り、波で運ばれてくるボールをキックしました。沖から来る波にボールが当たりますが、勢いに負けてまた戻ってきます。
「さすがに、二人にはこれはまだ無理かな?」
 何度もキックを繰り返しながら、芦原郁乃が荀灌と芦原揺花に聞きました。二人が、首が千切れそうなほどに思いっきりうなずきます。
「うおりゃあぁぁ!!」
 雄叫びをあげながら、芦原郁乃が鍛錬を続けていきました。波を被り、全身もうびしょ濡れです。身体に貼りついたユニフォームが身体のラインを顕わにしてしまっていますが、完成された肉体はだんだんと乙女の身体からは遠のいていっている気がするのはなぜでしょうか……。
「二人で、いつもこんな特訓しているの?」
 荀灌が熾した焚き火にあたりながら、芦原揺花が聞きました。
「私には無理、無理」
 海で捕った貝を焚き火で焼きながら、荀灌が答えました。
 芦原郁乃の方は、何度もシュートを繰り返すうちに、ついにボールで波を破ることに成功します。
「やった、必殺とらさんシュート!!」
 波をみごとに打ち砕いて飛んでいったボールは、遥か沖に留まっていた船にぶつかりました。
「何? 今、何かぶつかった?」
 一瞬船がぐらりと傾いた気がして、デクステラ・サリクスが船縁から海を見下ろしました。どこから飛んできたのか、サッカーボールが波間に浮いています。
「なんで、サッカーボール?」
 どこからか流れてきたのだろうかと、デクステラ・サリクスが小首をかしげます。
「ゴミだろう。やれやれ、新年早々、海を汚すとはどこのどいつの仕業だ」
 見つけたら締めてやると言いたげに、甲板の上においたビーチチェアの上にふんぞり返りながらシニストラ・ラウルスが言いました。