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学生たちの休日10

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タシガンのクリスティ・ナタリス

 
 
 タシガンの霧深き廃城、そこにはストゥ伯爵オプシディアンたちが未だに身を潜めていました。
「ポータラカが消滅したか。新たな時代に入ったと思っていたのだが、まだ試しは続いているようだな」
「それだけれど、どうにも腑に落ちないことがある。確かに、以前のサイクルの終わりに、このパラミタは地球から離れ、カトゥンの回帰が行われた。それはいい。それが我らの世の理なのだから。だが、なぜ、今のタイミングで再び終末が訪れる? 少しずれてはいないだろうか」
 オプシディアンに、ジェイドがちょっと疑問を呈しました。
「ずれる? それは地球の暦だからであろう。パラミタの暦であれば、サイクルの終わりは今だ」
 アラバスターが口をはさみました。
 2012年の終末論がもてはやされたのは、地球ではもう10年も前のことです。
「パラミタが地球と会を起こす機会はサイクルごとにありえるはず。そして、それが続くかどうかが試される。それが、我らの理であったはず」
「そして、その理に則って、パラミタは無事に新たなサイクルに入ったはずなのではなかったのか?」
 アラバスターの言葉に、ルビーが言いました。彼らにとっては、水、風と土、火による試練を乗りきったパラミタは、次のサイクルまで見守る存在に落ち着いたはずです。
「でも、私たちとは別の原因で、パラミタは滅びに瀕していますね。これって、ちょっと気に入らないんですが……」
「それは、そうだけど。だいたい、ニルヴァーナなんて、存在すら知らなかったし……」
 怪訝そうな顔をしているアクアマリンに、エメラルドが言いました。
「まったく、お前たちは変な存在だ。神の英霊でありながら、帝国の竜騎士のような純粋な神とは違う。かといって、英霊としても少しおかしい。どちらかといえば、私は、少し親近感をいだくのだが、どうしてだろうな」
 広間の隅で話を聞いていたストゥ伯爵が言いました。
「現し身のコピーでしかない、お前と近い部分があるというのか。ばかばかしい」
 オプシディアンが一笑に付しました。
「私は、今や一個人、あるいは個性、個体と言ってもいいが、そう言い切るには曖昧すぎる。意識的な群体に近い部分が大きいと感じている。そんな存在を私は知っている」
「ポータラカ人のことかな?」
 ルビーの言葉に、ストゥ伯爵がうなずきました。
「その概念に関しては、答えは難しいだろう。ナノマシンの集合体であるポータラカ人は、群体であり個体であるとも言えるが、それは生物すべてに言えることでもある。人は多種多様の細胞によって構成されているだろう。これは群体とどこが違うのだろう。細胞一つをとっても、それを構成する器官は、元は別の生命体だ。つまり、単細胞生物でさえ、群体であるとも言える。もはや、これでは定義にすらならない。だとすれば、個を示す基準はなんだろう。意識か、魂か。それにしても、個々の細胞の意識を判別できないため、総意を一つの意識と錯覚しているだけなのかもしれない。だとしたら、私の意識には何が含まれているんだろうね」
「何か、難しい話ねえ」
 ルビーの言葉に、エメラルドがちょっとアクビを噛み殺しながら言いました。
「つまり、我々も、自覚しないうちに何かの影響を受けていたかもしれないというわけか。だが、世界樹への攻撃は、シャンバラという国の存亡を左右する一番手っ取り早い方法であったことには間違いないはずだが。別に、固執したとは思わないぞ」
 あくまでも自分の意志だと、オプシディアンが言いました。
「いずれにしろ、ポータラカは消滅した。少し気にはならないか。我らが降り立った地のことを。ちょうど、その境だったはずだ」
「気晴らしに、確かめに行ってみるのも一興でしょうかね」
 アラバスターの言葉に、ジェイドが一同を見回して聞きました。
「そう、それも一興だね」
 そうルビーが言いました。
 
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 エッツェル・アザトース(えっつぇる・あざとーす)は、どこかを徘徊していました。
 どこかであり、どこであるかは知覚できません。
 ただ、周囲の物を潰し、変え、喰らい尽くす。それだけが、今のエッツェル・アザトースの存在意義でした。
 けれども、その身体の中で何かが起こりつつありました。あるいは、止まりつつあるのでしょうか。変化し、ゆっくりと、そして確実に起こっていました……。