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学生たちの休日10

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学生たちの休日10
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「これ可愛いよね。似合うんじゃないかな」
 アクセサリー屋に逃げ込んだ神崎輝とシエル・セアーズは、そこでいくつかのアクセサリーをつけたり外したりして選びました。
「おいて来ちゃった瑞樹の分も買っていってあげないとね」
 そう言って、神崎輝が音符の形をしたイヤリングを一瀬瑞樹へのプレゼントとして一揃い買いました。シエル・セアーズには、金鎖のついたブレスレットを選んであげました。
「じゃ、今度は、私から輝へのプレゼントの番だよ」
 シエル・セアーズが、神崎輝にあれこれのアクセサリーを当てていろいろと試していきます。最終的には、小さなロケットで決定したようです。とはいえ、中に入れる写真の方はまだこれからのようですが。
 
    ★    ★    ★
 
「B作戦は、順調に進んでいるな」
 ほくそ笑む新風 燕馬(にいかぜ・えんま)の所に、フィーア・レーヴェンツァーン(ふぃーあ・れーう゛ぇんつぁーん)から電話連絡が入りました。緊急です。
『ごめーん、ツバメちゃん、クライベイビーとはぐれちゃった。てへっ』
「はあっ、サツキとはぐれただとぉ。どーすんだよ、てへじゃないよ、てへじゃ!」
 思わず新風燕馬がフィーア・レーヴェンツァーンにむかって怒鳴り返します。
 今日12月24日はサツキ・シャルフリヒター(さつき・しゃるふりひたー)の誕生日です。密かにそれを祝うためのサプライズバースディ作戦、略してB作戦でしたのに、これでは台無しです。いや、それよりも、サツキ・シャルフリヒターはどこへ行ってしまったのでしょうか。
「すぐに捜せ、いいな!」
 そう言うと、新風燕馬はあわててサツキ・シャルフリヒターを捜しに走りだしました。
「ふふふふふ……。作戦成功ですぅ。題して、『すれ違いが愛を育む』、S作戦ですぅ」
 してやったとほくそ笑むと、フィーア・レーヴェンツァーンは、シャンバラ宮殿前のカフェテラスでのんびりとお茶を注文しました。
 
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「ええっと、それで、お母さんはこっちにいるんですね?」
 迷子の女の子に袖をしっかと掴まれたサツキ・シャルフリヒターが、確認しました。
「うん」
 リューグナー・ベトルーガー(りゅーぐなー・べとるーがー)が、半べそで答えます。
「お母さんは、こっちに行くっていってたの。びえええぇぇぇ……!」
「ああ、もう泣かないで。ちゃんと面倒見てあげますから。まったく、なんでこんなことに……」
 バーゲンセールでいい物買い占めるので手伝ってくださいとフィーア・レーヴェンツァーンに呼び出されたまではよかったのですが、まさか合流する前に迷子に捕まるとは思っても見なかったサツキ・シャルフリヒターでした。放っておくこともできないので一緒に母親を探してはいますが、クリスマスの人混みの中ではなかなか見つかりません。
『計画通り』
 心の中で、リューグナー・ベトルーガーがつぶやきました。ちょっと黒いかもしれません。
 実は、すべての黒幕はフィーア・レーヴェンツァーンでした。
 サツキ・シャルフリヒターのサプライズ・バースディー・パーティーを計画したのは新風燕馬ですが、フィーア・レーヴェンツァーンとしては何かもう一つ物足りません。もっと、こう、劇的な何かが欠けているような気がします。
「ツバメちゃんたちに必要なのは、劇的な愛のイベントですぅ」
 そう勝手に決めつけたフィーア・レーヴェンツァーンが、この作戦を作りあげました。会おうとして会えない時間の長さが愛の深さを増していくという、フィーア・レーヴェンツァーンの独自の理論に基づいた作戦です。
 ちょうど、新風燕馬のパートナーであるリューグナー・ベトルーガーはまだサツキ・シャルフリヒターに面が割れていません。なにしろ、あまりの腹黒さに、新風燕馬がその散在をひた隠しに隠していたからです。今回、それが裏目に出たというか、思いっきりフィーア・レーヴェンツァーンたちに悪用されています。
 迷子のふりをしたリューグナー・ベトルーガーは、計画通りサツキ・シャルフリヒターを新風燕馬に簡単に会わせないために、あちこちへと連れ回していきます。このくらいの演技は、リューグナー・ベトルーガーとしては演技のうちにも入りません。腹黒です。
「さあて、みんな、頑張って、フィーアの掌の上で踊るですぅ」
 そうつぶやくと、フィーア・レーヴェンツァーンは角砂糖を入れた紅茶の中身を、ティースプーンでくるりんとかき混ぜました。
 
    ★    ★    ★
 
「今日は、年に一度のクリスマスだ。理子さんも、さぞかし街に出て楽しみたいと思っていることだろう」
 ガーデンテラスから上を見あげて酒杜 陽一(さかもり・よういち)がつぶやきました。
「おっと、まずは作戦を伝えなきゃな」
 そう思い出すと、酒杜陽一が高根沢 理子(たかねざわ・りこ)に携帯で電話をかけました。
「あっ、理子さん。俺です、酒杜陽一です」
『えっ、どうしたんですか。これは、緊急用の回線じゃ……』
 声を潜めながら出た高根沢理子が、酒杜陽一に聞き返しました。どうやら、そばには第三者の目があるようです。
「これから、お迎えにあがります。執務室の窓際に立って待っていてください」
『えっ、ちょっと、何をするつもり? それはダメで……』
 止めようとする高根沢理子の言葉を最後まで聞かず、酒杜陽一は電話を切りました。
「どうかしたのかな?」
 そばで年末の膨大な書類に確認のサインをしながら、セレスティアーナ・アジュア(せれすてぃあーな・あじゅあ)が高根沢理子に訊ねました。
「いいえ、なんでも」
「仕事中なのであるから、携帯はマナーモードにすべきだぞ。いったい、どこからなのだ」
「ええ、そうよね」
 セレスティアーナ・アジュアに問い質されて、高根沢理子は適当にごまかしました。
「しかし、なんでこんなに艦船やイコンの修理代の経費請求がたくさん来ているのだ。イルミンと蒼空学園の決済を通っているとはいえ、膨大だなあ」
 似たような書類の束を前にして、セレスティアーナ・アジュアがぼやきました。
「ゴアドー島の一件でしょう。半分ぐらいは後で帝国に請求するとして、とりあえずは年内に通しておきましょうよ」
「仕方ないな」
 そう言うと、セレスティアーナ・アジュアと高根沢理子は、ペッタンペッタンと認め印を押していきました。
 そのころ、酒杜陽一は漆黒の翼を使って空中に飛びあがったところでした。高根沢理子を膨大な事務仕事の海から助け出すべく燃えています。
 光学迷彩を駆使して、順調にシャンバラ宮殿の外壁をなめるようにして上っていきます。まさか、ここから来るとはロイヤルガードでも気づかないでしょう。今度こそはいけそうです。
 と思ったのも束の間、代王の執務階が近づいてきたと思ったとたん、宮殿の壁からいくつものロボットアームがのびてきました。
「しまった……」
 回避する間もなく、防御装置から一斉にビームやミサイルが発射されます。ナノ強化装置でギリギリ耐えるものの、ちゅどーんと大きな爆発を空中に描いて、ひゅるひゅると酒杜陽一が墜落していきました。
「なんだ、今の爆発は!? すぐに調べるのだ」
「はっ」
 セレスティアーナ・アジュアに命じられて、皇 彼方(はなぶさ・かなた)テティス・レジャ(ててぃす・れじゃ)がすぐに調べに行きました。
「だから、危ないって言おうとしたのに……。生きててね」
 人知れず、高根沢理子がつぶやきました。