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学生たちの休日10

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学生たちの休日10
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「こうして新年からみんなが揃うのも、めでたいものですね」
 ツァンダ神社へとむかう参道で、御神楽 陽太(みかぐら・ようた)が、エリシア・ボック(えりしあ・ぼっく)ノーン・クリスタリア(のーん・くりすたりあ)を見て言いました。もちろん、右側には御神楽 環菜(みかぐら・かんな)が、左側には御神楽 舞花(みかぐら・まいか)が一緒に歩いています。
「今年こそは、鉄道事業をよりいっそう推し進めませんとね」
「その通りよね」
 御神楽陽太の言葉に、御神楽環菜もうなずきました。
 空京神社と比べたら規模は小さいですが、ツァンダにもりっぱな神社があります。お正月ですから、結構な賑わいとなっていました。
『――私の知っている神社とほとんど変わりないなあ。しいて言えば、やっぱり少しだけ新しいかなあ』
 ツァンダ神社の様子を興味津々で見回しながら、御神楽舞花が心の中で思いました。
「みんな一緒だと楽しいねっ」
 お参りの列にならびながら、ノーン・クリスタリアがニコニコとしています。
 やがて、御神楽陽太たちの番が回ってきました。
『――今年も環菜のことを全力で守り幸せにし続けたいと想います。もしも俺の力が足りないときには、ほんの少しでよいので力をお貸しください。後、世界が平和でありますように』
 例年と同じお願いをした後に、ついでのように世界平和をつけ加えながら、御神楽陽太が心の中で祈りました。御神楽環菜も、ほとんど同じことを祈っていることでしょう。
『――わたくしの『家族』が昨年も無事に過ごせて感謝しています。今年も引き続きよろしくお願いしますわね。それと、競竜については自力で勝利を重ねる予定ですから、御利益いただかなくても大丈夫ですわ』
 エリシア・ボックが、あくまでも競竜は自力勝利を目指して、心の中で祈ります。
『――みんなが笑顔でいられますように!』
 ノーン・クリスタリアの願い事は、単純です。
『――この時代から数百年後の未来世界…そこで暮らす私の家族や友人たちに幸いがありますように』
 御神楽舞花のお願いは、ちょっと特殊なようでした。
「みんな、何をお願いしたのかな?」
 御神楽陽太が、みんなに訊ねました。
「ワタシは、みんなが笑顔でいられますようにって」
 ノーン・クリスタリアは、素直に答えました。
「わたくしは、もちろん家内安全ですわ」
「へへっ、私は内緒です」
 エリシア・ボックと御神楽舞花は、ちょっとごまかしました。
「あっ、おみくじあるよ。引こうよ」
 ノーン・クリスタリアが、札所を見つけて駆け出していきました。
「もう、しょうがないですわね」
 なんだかんだ言いながら、エリシア・ボックもつきあいます。
「わーい、大吉だあ」
 なんと、新年早々、大当たりを引いて、ノーン・クリスタリアがピョンピョン跳びはねて喜びました。
「おねーちゃんは?」
「聞かなくてよろしいですわ」
 あっという間に神社の木におみくじを結びつけたエリシア・ボックが答えました。もしかしたら、幻の大凶を引いてしまったのでしょうか……。こころなしか、表情がどんよりとしています。
「あ、あっちで、巫女さんが、神楽舞いをするんだよ。み、みんな、見に行こうよ!」
 あわてて、ノーン・クリスタリアがみんなを誘いました。
 途中で、林檎飴を買ってもらって、ノーン・クリスタリアは御機嫌ですが、エリシア・ボックはちろちろと林檎飴をなめるだけでやはり元気が出ません。
「そうそう、家の方にも年賀状が来てたんだよ。後で見せてあげるね。はやくおにーちゃんと環菜おねーちゃんのお家に行って、お汁粉食べようよ」
「そうだね。帰ってお茶にでもしようか」
 ノーン・クリスタリアにせがまれて、御神楽陽太がみんなに言いました。
「そうですわ。綺麗さっぱり忘れてお汁粉ですわ。いきますわよ、ノーン」
「うん、おねえちゃん!」
 なんとか立ちなおったエリシア・ボックと一緒に、ノーン・クリスタリアが我先にと駆け出していきました。
「じゃあ、行こうか!」
 微笑ましくそれを見送ってから、御神楽陽太は御神楽環菜と御神楽舞花の手を取って追いかけていきました。
「正月から元気な人もいるものだなあ」
 元気に参道を走り抜けていく御神楽一家とすれ違いながら、思わず桜葉 忍(さくらば・しのぶ)がつぶやきました。
「振り袖じゃ、あんなふうに走れないよお」
 桜葉 春香(さくらば・はるか)が、木履でちょっとよちよちと歩きながら言いました。桜葉 香奈(さくらば・かな)に振り袖を着せてもらって凄くはしゃいでいるのですが、まだちょっとぎこちないです。
 桜葉香奈と織田 信長(おだ・のぶなが)も振り袖を着ていますが、こちらはさすがに着慣れています。
「走れなくったって、問題ないさ。三人ともとっても綺麗だよ」
 もっと動きたいと言いたげな桜葉春香に、桜葉忍が言いました。
 さて、順番待ちをして、桜葉忍たちもお参りをしました。
『――香奈とこれからも一緒に幸せでいられますように……』
 手を合わせて、桜葉忍がお願いしました。
『――しーちゃんとこれからもずっと一緒にいられますように……』
 桜葉香奈は、ほとんど桜葉忍とシンクロしています。
『――みんなが仲良く幸せに暮らせますようにお願いします』
 桜葉春香も、一家仲良くという感じです。
 その隣では、織田信長が真剣に祈っていました。なんだか、一人だけ気合いが違います。
「なんだか、凄く真剣だなあ。やっぱり、信長は天下統一とか願ったのか?」
 あまりに真剣なので、桜葉忍が思わず織田信長に訊ねました。
「大往生じゃ」
「はっ?」
 あっさりと答える織田信長に、桜葉忍がちょっときょとんとした顔をしました。
「前の生では50前に死んだからな」
 理由を聞いて、それは真剣になるわけだと桜葉忍が心の中で納得しました。
「さてと、戻るかな」
「その前に、おみくじ引くの!」
 そう言って、桜葉春香が札所に走っていきました。
「よっしゃ、大吉じゃ!!」
 一緒におみくじを引いた織田信長が、思わずガッツポーズをとります。
「うむ! 今年もよい年になりそうじゃ!」
「わーい♪ 私も大吉が出たよー♪」
 桜葉春香がピョンピョン跳ねて喜びます。
「二人ともよかったですね。私は中吉でした」
 大当たりの二人の前では、桜葉香奈の運も中ぐらいという感じです。
「しーちゃんは?」
 なんだか微妙な顔をしている桜葉忍に、桜葉香奈が聞きました。
「末吉……。なんだか微妙だよなあ」
 これは、運をみんなに分け与えたと考えればいいのでしょうか。
「きっとそうですよ。しーちゃんらしいです。しーちゃんのおかげで、みんな暖かくなれるんです」
 桜葉香奈に言われて、桜葉忍はそう思うことにしました。
「暖かくねえ……。なんか飲むか」
 単純に物理的に寒かったので、桜葉忍たちは神社近くの茶屋に寄ることにしました。甘酒が美味しいというお店です。
「甘酒美味しい〜♪」
 桜葉香奈は、初めての甘酒に大喜びです。
「ふう〜身体が温まるな〜」
「ええ。身体がぽかぽかしてきました」
 ほっこりして、桜葉夫妻が一息つきました。
「うむ。冬に飲む甘酒もなかなかによいものじゃな! もっとじゃんじゃん持ってこーい」
「待て、飲み過ぎだぞ、おい」
 大吉に気をよくしたのか、調子に乗って織田信長がどんどん甘酒を飲んで酔っ払ってしまいました。
「はははは、このくらい構わ……ん。ぐー……」
 真っ赤な顔で高笑いをあげたかと思うと、ばったりとテーブルに突っ伏して織田信長が寝てしまいました。
「まったく、これを運ばなくちゃならないのか……」
 いい気持ちでのびている織田信長をおんぶして、桜葉忍が小さな溜め息をつきました。
 末吉です……。