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学生たちの休日10

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空京の新年

 
 
「そこは、アニスの指定席なんだもん」
 炬燵に入った佐野 和輝(さの・かずき)の膝の上に乗った佐野 悠里(さの・ゆうり)を見て、アニス・パラス(あにす・ぱらす)が言いました。
「お義姉ちゃん、よくお父さんと一緒にいるから、たまには譲ってほしいですわ」
 もう、てこでも動かないぞと、佐野悠里が佐野和輝の膝にしがみつきます。
「アニスちゃん、こっちこっち」
 それを見た佐野悠里が、あいている自分の膝をポンポンしてアニス・パラスを誘いました。
「ルーシェリアお姉……おっ、おっ、おっ義母さん。いいの?」
 ちょっといっぱいいっぱいになりながら、アニス・パラスが佐野 ルーシェリア(さの・るーしぇりあ)に聞き返しました。
「いいんじゃないか?」
「うん、そうする」
 佐野和輝に言われて、わーいとアニス・パラスが佐野ルーシェリアの膝の上にちょこんと座りました。
 家族揃っての年の瀬は初めてです。
 佐野ルーシェリアの作ったおせちをつまみながら、炬燵で大晦日のテレビを見ます。
「今年もいろいろあったが、未来から俺たちの子供がくるのは一番だったかもな」
 膝の上の佐野悠里の顔をのぞき込みながら、佐野和輝が言いました。
「アニスは二番?」
 アニス・パラスが、プーッと頬をふくらませます。
「アニスちゃんは、私の一番ですぅ」
 佐野ルーシェリアが、アニス・パラスの顔をのぞき込んで言いました。
「わーい」
 アニス・パラスと佐野悠里が、なんだか喜んだり、張り合ったり、うらやましがったり、まるで本当の姉妹のようです。いえ、そうなったのですね。
「テレビで、何か叩いているけど、あれってなあに?」
「ん? あれは除夜の鐘だな。あれを叩いてから、新年おめでとうって言うんだ」
 そう説明する間に、カウントダウンが始まりました。四人揃って、その時を待ちます。
 5、4、3、2、1……。
「あけましておめでとうございます」
 四人が声を揃えて言いました。
 
    ★    ★    ★
 
「はい、二人ともいいかあ。じゃあ、始めるぞー」
 空京大学の修練場で、立会人の霧丘 陽(きりおか・よう)が言いました。
 那由他 行人(なゆた・ゆきと)フィリス・ボネット(ふぃりす・ぼねっと)にとっては、年末年始もありません。日々修行。これのみです。
 とはいえ、さすがに疲れるでしょうし、霧丘陽としてはお正月も楽みたいですから、隠れてちゃんとお雑煮は用意してあります。組み手が終わってくたくたになったところで、タイミングよく出す予定です。
「行くぜ!」
 開幕早々、那由他行人が突っ込んでいきました。
 クリスマスはフィリス・ボネットが風邪をひいて寝込んでしまったため、修行はお休みでした。その分、体調万全な今日は、全力で戦えるはずです。
「さあ、来い!」
 久々の組み手に、フィリス・ボネットもやる気まんまんでした。
 突き出されてきた那由他行人の拳を、フィリス・ボネットが手の甲で受けて横へと流します。
 その瞬間、フィリス・ボネットがあれっと言う顔をしました。
 踏み込みが甘いのです。そのため、威力が予想以下でしたので、簡単に受け流すことができました。
「甘い!」
 即座に、横に回り込んで手刀を叩き込もうとします。けれども、その攻撃は完璧に那由他行人に避けられてしまいました。今回の動きは完璧です。そうすると、先ほどの攻撃の緩さはたまたまだったのでしょうか。
 素早く体を入れ替えると、今度は那由他行人の回し蹴りが飛んできました。その速さに、避ける暇がありません。あわててフィリス・ボネットが腕でガードしました。
 弾き飛ばされると思ったのも束の間、那由他行人の足がフィリス・ボネットの腕にちょこんと当たります。ほとんど寸止めです。
 当然、反撃に出たフィリス・ボネットが那由他行人の足を捉えてすくい投げをします。
「や、やるようになったな」
 一本とられたと、倒れた那由他行人が言いますが、フィリス・ボネットとしてはもの凄く不満です。
「何だよ、そのへっぴり腰は! 組み手だからといってオレに負けるようじゃ、背中は預けないぜ!」
「言うようになったな。よし、もう一度だ!」
 素早く立ちあがって、那由他行人が言いました。
 ピョンと身体のバネを使って一瞬で立ちあがるその身のこなしに、ちょっとだけフィリス・ボネットが見とれます。
「はい、じゃあ、もう一本!」
 霧丘陽が、再び開始の合図をしました。
 ところが、やはり同じで、どうしても那由他行人が寸止めしてしまいます。どうも、フィリス・ボネットが本当は女の子だと知ってしまってから、無意識に手加減してしまっているようです。
「うう、今日は調子悪いのか?」
「もしかして、調子悪い?」
 奇しくも、二人から同じ疑問がわきあがります。クリスマスのときのフィリス・ボネットのように、病気なのかもしれません。どんな病気かは、推して知るべしなのかもしれませんが。
「じゃあ、そこまで。終わりにしよう。ちょうど、お雑煮を用意してあるんだよ。さあ、食べようか」
 パンパンと手を叩いて修行を終了させると、霧丘陽が二人に言いました。