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【メルメルがんばる!】老夫婦の小さな店を守ろう!

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【メルメルがんばる!】老夫婦の小さな店を守ろう!

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 老夫婦の店舗裏口。
「そう言えば……クマのアップリケ好きの獅子座といえばセイニィさんかもしれませんね」
 ユーシス・サダルスウド(ゆーしす・さだるすうど)は肩をおとしたパートナシャウラ・エピゼシー(しゃうら・えぴぜしー)に声を掛けた。
「メルヴィア少佐専属雑用係シャウラ、只今参上!」と声高らかに登場したのはいいが、肝心のメルヴィア少佐=メルメルの姿が見えずにシャウラは意気消沈していたのである。
「誰だっていいよ。俺はただ少佐の笑顔が見たくてここに来たってのに」
「何処に行かれたんでしょうね?」
「まさか、土嚢と一緒にバリケードに積まれているわけじゃあ無かろうな」
「まさか」
 とユーシスは答えるが、あり得なくもない、と苦笑を洩らす。
「前回だって、肝心のリボンをなくしちまって、大騒ぎだったじゃねーか。こんど会ったらアレだな。俺がこの手できつく縛ってやろう。俺の思いの数だけ縛ってやろう」
「数って……何本結ぶつもりですか?」
「百万本」
「それじゃあ、リボンお化けです」
「でもなぁ。あのリボンは少佐にとって大切なリボンだからな。出来ればあのリボンを見つけてやりてーな」
「そうですね」
 老夫婦は店舗内でこしらえたぬいぐるみを我が子を見るように心配そうに見つめていた。メルメルがリボンを装着し軍人モードになりさえすれば、おそらく、イコン相手でも勝負は一瞬でつく……のかもしれない。
「リボン探しに行くか!」
「いやいやいや。ここの警備も大切ですよ」
「警備もなにもあいつらを殲滅してしまえば警備する手間も省けるってもんだ」
「それはそうですが」
「よろしい、ならば殲滅だ!」
「落ち着きなさい」
 額の汗から流れる冷たい汗をぬぐいならがユーシスはシャウラを制する。まったく言ってることが滅茶苦茶だ……と思いつつも、ユーシスの一声でシャウラの行動はおさまる。
「?」
「どした?」
「今日はやけに物分かりがいいなと思いまして。いつもなら、言葉よりも先に足が動きますでしょう?」
「そら、敵を殲滅するのが一番手っ取り早いとは思うけどさ。ここはキマクだ。キマクの事はキマクの連中で解決するのが一番だろ?」
「もっともです」
「俺はサポートに徹しようと思ってさ」
「メルヴィア少佐の?」
と、意地悪を言いたい衝動をこらえ、ユーシスは天を見上げた。と、雲の切れ間に翼を広げて飛行する有翼種のヴァルキリーコハク・ソーロッド(こはく・そーろっど)の姿が見えた。その指先にはピンクのリボンが巻き付けられている。
「あの少年の持ってるものって」
 シャウラも天を見上げた。
「少佐のリボンだ!……おぉぉぉぉおおい!こっちだこっちだ!」
 シャウラはコハクに向かって手を振る。コハクもその姿に気が付き、天を旋回しつつ、ふたりにちかづく。
「メルヴィアさんそこに居るのかあ!?」
 コハクの質問に、一瞬ためらいつつも
「いるいる!この辺にいる〜!」
 と、馬鹿正直に答えるシャウラ。
「この辺て、どういうこと?!そこにはいないの?!」
「いいから、そのリボンを渡せつーの!そのリボンさえあれば」
 と、コハクが身をよじるようにして、空から急落下した。不意に訪れた不均衡な飛行にシャウラは目を疑う。
「あいつらです」
 二人が天を仰ぐ中、いつの間にか、弓を引き絞る敵が姿を現し、コハクに向かって矢を放っている。コハクは地面ギリギリのところで猫のように体を翻し、激突を避けるように大きく翼を振るった。
「あっっぶないな!」
 すぐさま、コハクは弓を持つ敵を睨みつけた。
「リボンは?」
 シャウラの声にコハクはしまったと言うような表情を浮かべる。
「あそこです!」
 ユーシスは、風に吹かれてたなびくピンクのリボンを発見した。時折訪れる強風にリボンは為す術もなく身をよじらせるようにして西へ運ばれていく。
「もう一度、とって来る!」
 コハクが羽ばたこうとするのを制したのはシャウラだ。
「今中飛びたったら、ねらいうちされるぜ」
「でも」
「リボンを取り戻す近道は……やっぱ殲滅だな」
 ユーシスが制する間もなく、シャウラは敵に向かって走り出した。
「シャウラが無駄に熱いのはいつもの事なんで、気にしないで下さいね」
「僕も戦う!」
 そう言い放つと、緑の瞳の少年は低空飛行でシャウラにおいつき、放たれた何本もの矢をかいくぐりながら、敵の懐に飛び込んでいった。
「みんな熱いですねぇ」
 シャウラはと言えば、岩場に身を隠しながら、降り注ぐ矢の間隙縫いながら、グレネードランチャーを発射している。
「燃え尽きろ!」
 流れてきた矢を鞭と光の閃刃でたたき落としながら、ユーシスは店舗裏の小さな戸口を守るために、防御態勢に入った。
「リボンの為に、君たちの思いの為に、私はここを死守しますよ」


「メルメルさーん、土嚢どうぞ〜」
と、わたげうさぎに包まれた可憐な少女はその細うでに似あわぬ巨大な土嚢を片手でひょいと持ち上げていた。白銀 風花(しろがね・ふうか)である。
「あれ?」
 先ほどまで、額に汗しながら働いていたメルメルの姿が見えない。大切なぬいぐるみが汚れてはいけないからと、メルメルにおんぶひもを掛けてぬいぐるみを背負わせたばかりなのに。
「疲れちゃったんですかぁ?……あなた達もつかれた?」
 と身にまとったわたげうさぎに聞いてみる。
「どうしたんです?」
 トマス・ファーニナル(とます・ふぁーになる)が声を掛けた。
「……」
 白銀はわたげうさぎの口元に手をあて、一生懸命にゆさゆさと震わせている。
「いや、君に聞いてるんだけれど」
「あ。そうでしたか?」
「その兎喋るの?」
「ええ。私には聞こえるんですの」
「えーと……」
 明らかに戸惑いを隠せないトマスだが、くじけないように口を開いた。
「なんて言ってるの?」
「メルメルさんが消えちゃいました」
「え?」
「さっきまで、ここに居たんですけど」
「……その土嚢袋に入ってるってことは?」
 一人では到底運ぶことができなさそうな大きさの土嚢袋を見つめてトマスは冗談めかして言ってみた。
「……」
 別のわたげうさぎを震わせる白銀。
「え?」
「あなたを詰めて埋めてしまおうかしら?」
「嘘!」
「冗談です。でも、メルメルさんがいないのは冗談ではありませんわ」
 適材適所とは難しいものだと感じながらも、トマスはさほど焦った様子はない。
「少佐は……いや、メルメルはああ見えてしっかりしてるから、心配いらないよ。貸してご覧、その土嚢は僕が運ぶから」
 可憐な手のひらから受け取った土嚢は鬼重かった。
「なんじゃこりゃあ!」
 腰を抜かしたトマスの手から、ひょいと土嚢をもちあげると、白銀は斜め前方にブン!と投げやった。
「ぎゃ!」
 蛮族は顔面に巨大な土の塊をもろに受け、失神した。
「ありがとう……油蛮族の奴ら、断も隙もない」
「蛮族の方は、どうしてここを狙うんでしょうか?」
「え?」
「私たちが集結しつつあるのを蛮族の方々は知っているはずなのに」
「集結する前に叩こうっていう事なんじゃないの?」
「それにしては、弱いですわ」
「君が強すぎるんだよ」
「え?」
「いや、なんでもない」
「目的が別にあるのだとしたら」
「目的?金の為にやってるんだろ?」
「だったら、話は早いのですが……」
 蛮族がキマクを狙う本当の理由。それはこの物語で語られることはない。しかし、こうもしつこく狙われる住人たちが、歴戦において多大な被害を受けてきたことだけは確かである。この物語でも、かつての被害が切ない魔術を生み出している。そのことに気が付いているものはごく少数の当事者たちだけである。
「そっちの子はどう考えてるの?蛮族について」
 トマスは、別のわたげうさぎに聞いてみる。
「その子は」
「うん」
「ただいま睡眠中ですわ」
 戦場にはいろんな個性の人間がいる。ということをトマスは肌で学んでいた。


「なんだ……やっつけてしまったのか」
龍滅鬼 廉(りゅうめき・れん)の前に横たわっていたのは、おびただしい数の打撃を受けたイコン、喪悲漢の姿であった。熾月 瑛菜(しづき・えいな)ルース・マキャフリー(るーす・まきゃふりー)
国頭 武尊(くにがみ・たける)騎沙良 詩穂(きさら・しほ)エヴァルト・マルトリッツ(えう゛ぁると・まるとりっつ)は目にもとまらぬスピードと連携でもう一基のイコンと激しい戦闘を繰り広げている。
「いまさら、加勢はいらないのだろうな」
 コックピットは開き、パイロットは縄でぐるぐる巻きにされている。
「パイロット回収係を所望したわけではないのに……」
 やれやれという表情で、捕獲されたパイロットのもとに足を進めた。
「おい。貴様」
 声を掛けると髭面の男は、地面に背中を向け、足で天に「の」の字を描くようにして立ち上がった。上半身の拘束をもろともせずに、髭面の男は龍滅鬼に強烈なハイキックを喰らわせた。ドン!っと龍滅鬼の前頭部に重い衝撃が走る。
「……油断大敵。まだまだ修行が足りないということか……」
 顔面をもって行かれぬように、咄嗟に額で受け止めたおかげで、意識を持って行かれることはなかった。髭面の男は腰を一回転させて続けざまにもう片方の足を振り上げる。それより先に龍滅鬼の放ったローキックが髭面の左内膝にまともにヒットした。激痛にへたりこんだ髭面に一瞥をやり、振り返り様に逆足のかかとで、敵の右くるぶしを強打する。
「足技は脚を封じるためにあるのだよ」
 うずくまるような形で倒れた髭面は、土下座をするような有様になっている。
「ここで、じっくり話を聞かせてもらうぞ」
 龍滅鬼は<妖刀紅桜・魁>を抜き放ち、その切っ先を髭面に当てる。
「俺たちは、頼まれただけだ」
「頼まれた?」
「黒服の奴に、この商店街を襲えば金をやるからって」
ガチャン!と後方でコックピットのしまる音がした。
「まだ仲間がいたのか?」
「?」
 髭面はきょとんとしたよう表情を浮かべていた。
「イコンを操縦できるのは俺達だけだ」
 その言葉を裏切るかのように、関節部を切り裂かれたイコンは、バランスを崩しながらもバリケードの方向を千鳥足で歩み始めた。
「疾風突き!」
 イコンの背後は隙だらけであった。パイロット席の真後ろに強烈な一撃を放ち、コックピットに重い振動を与える。振動はコックピット内にも響き、<もう一人のパイロット>の脳に激震を与えた。
「パイロットを気絶させれば、イコンは動かない」
 着地を決めて言い放つが、イコンはその歩みを止めない。
「……今の一撃が効かない?……誰が乗ってる?」
 龍滅鬼は半ば茫然と、迫りくるイコンの巨体を見上げていた。