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【第三話】始動! 迅竜

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【第三話】始動! 迅竜

リアクション

 同時刻 迅竜 医務室
 
「安心してください、これでもう大丈夫です。後は身体を休めていてください」
 ディースやクラッシャーズの輸送車によって運び込まれた負傷者に処置を施しながら高峰 結和(たかみね・ゆうわ)はそう言葉をかけた。
「うう……かたじけない」
 ――負傷者の治療を行い一人でも多くの人と命を救うこと。
 ――そして、迅竜『医療セクション』の設立と充実。
 その目標を心に抱き、結和は全力で医療活動にあたっていた。
 結和の意気込みたるや凄まじく、事前行動として医師が指示を出しやすいよう処置の指示を手早くマーク式で記入できる専用カルテを製作・複製していた。
 専用カルテには多様な指示が出来るよう余白も大きく、戦場特にイコン戦による負傷に特化した物と、数々の気遣いがされているという力の入れようだ。 
 創生学園医学部にて[医学]を学び始めた結和。
 新たな知識を生かし、今までの経験と知識【博識】と共により高度な治療を結和は目指しているのだ。
 まだまだ指示を仰ぎながらではあるが、そうしてまた新たに経験を積んでいく結和は着実に医療に携わる者として成長しつつあった。
 その一つとして、結和は患者の症状や状態に応じて治癒魔法を使い分け、また治癒魔法を使いつつも医学技術による処置を平行して行ったり、回復が早まる様、障害等が残らない様に患者を第一に考えた治療を行うことが自然とできるようになりつつある。
 全力を尽くす結和を手伝いながら、アンネ・アンネ 三号(あんねあんね・さんごう)は胸中に呟く。
(人を救うことが過去の償いになるだろうか。まずは皆が今を生きるために全力に)
 迅竜が今後、今回のような対テロリズムや戦争だけでなく、災害派遣等あらゆる状況に対応できる飛空艦となるよう。
 セクション設立申請を出した結和たちの願いに基づき、迅竜の医務室には最高峰の設備が整えられていた。
 医学の知識のある者と協力して迅竜の医務室の機材等を把握した結和達は今まで使用した資材薬剤機材等のデータを分析し、更に加える者があれば書面にして要望を既に出してある。
 その働きは実を結び、迅竜の医務室は今後も設備の拡充が図られることだろう。
 結和たちが今まで医療活動の拠点としていたドールユリュリュズは迅竜内に停泊し、迅竜医務室と連携を取った治療行動が出来るよう配慮してある。
 忙しく動き回る結和と三号の傍らで、アヴドーチカ・ハイドランジア(あう゛どーちか・はいどらんじあ)も八面六臂の大活躍を見せていた。
「何はおいても私は医者だ。怪我人がいるのなら全力で治療にあたるともさ!」
 医学の知識と技術を持つアヴドーチカは特に危険と診断された者を担当。
 蓄えたノウハウを以て的確な処置を行うのが彼女の役目だ。
 医学技術はもちろんのこと、治癒魔法も交え、アヴドーチカは次々に迅速な治療を施していく。
「花妖精ともあろう私が、血の香りを纏うなんてねぇ。されどもこれが私の選んだ道さ!」
 一人ごちながらもアヴドーチカの手は些かも止まらない。
 こうしている間にも患者一人が彼女のおかげで危機を脱している。
 また一人、危機を脱したのを確認したアヴドーチカは結和を呼んだ。
「結和! この患者は頼んだよ!」
 すぐさま手がけていた患者への処置を終えた結和が迅速に駆け寄ってくる。
「は、はいっ!」
 アヴドーチカから引き継がれた患者を勇気づけるべく、結和は声をかけた。
「大丈夫です。だから頑張って」
 それが効いたのか、意識を取り戻した患者に向けて結和は更に励ましの言葉をかける。
「みんな一緒に幸せに、って――きっと願いが力になるから」
 結和の言葉に勇気づけられたおかげだろうか。
 患者のバイタルは回復に向かい始めた。
 それに喜びつつも油断せず、結和は更に処置を進めていく。
「結和、気楽にな。俺がいるからさ」
 結和がキリの良い所まで処置を終えたのを見計らい、シャルル・クルアーン(しゃるる・くるあーん)が声をかけた。
「そうだ。明るくいこうぜ」
 更にはシャルルとともに医療活動にあたっている五十嵐 虎徹(いがらし・こてつ)も結和の緊張をほぐそうと気遣う。
 回復魔法を巧みに行使し、死へのカウントダウンを回避しながら治療していくシャルルも、既に数多くの患者を救っているのだ。
 それに加え、シャルルはショックを受けた患者に紅茶を淹れてやる気遣いも見せていた。
 虎徹の方は専門は東洋医学を駆使し、やはり多数の患者を既に救っている。
「ただいま! 戻ったよ!」
 医務室全体がせわしない雰囲気に包まれている中、扉が勢い良く開かれる。
 迅竜に搭載されていた小型飛空艇で救助活動に出ていた城 紅月(じょう・こうげつ)レオン・ラーセレナ(れおん・らーせれな)、そしてエメリヤン・ロッソー(えめりやん・ろっそー)が新たな患者達を連れて戻ってきたのだ。
 新たな患者達の中にエメリヤンが助け出してきた忍犬がいるのを見て取った虎徹は、すぐさま駆け寄った。
「明倫館は忍犬やらいるんだろうと思っていたが、やはりか。今すぐ診てやる」
 手早く忍犬の容態を診察していく虎徹。
 何を隠そう、東洋医学と並び、獣医学も彼の専門である。
「よし、大した怪我はしてないからな。これで安心だ」
 すぐに十分な処置を施すと、虎徹は忍犬をそっと寝かせる。
「現場を動かすための努力をしよう。まだ、やらなきゃいけないことがある。それができるのは、俺たちだから!」
 患者を引き渡した紅月はレオンたちを連れて再び小型飛空艇で要救助者たちのもとに向かうべく、勢い良くドアを開ける。
 その背に結和は声をかけた。
「あ、あのっ! ありがとう……ございますっ! 城さんのおかげでこんなに設備が充実して……おかげで助かりましたっ!」
 深々と一礼する結和。
 これだけの設備が整ったのは結和たちの力だけではなく、紅月たちの助力によるところも大きかった。
「医療セクションを作りたいと頑張っている結和ちゃんの手伝いを今回もしたいんだ! そう思ったから俺の力を貸しただけだよ」
 紅月は必要な治療機材、救命道具一式、薬、食料などの物資と、人材のリストアップを書類にし、経理科の人間として団長に提出していた。
 前回までの経験と、経理科としての実力がある紅月だからこそできたことである。
「前向きに頑張っている結和さんをぜひ応援したいですね」
 レオンも同調する。
 二人からの心遣いに感涙しかけながらも、結和はしっかりと二人を見つめて見送る。
 それからしばらくした後、飛び立った小型飛空艇のスピーカーから紅月たちの声が聞こえてくる。
 最初は要救助者たちに呼びかけていた紅月たちだったが、次第に流れが変わってきたようだ。
 紅月たちはマイクが入ったまま会話しているらしく、その内容は医務室まで聞こえてくる。
『紅月は紅月のしたいことをしてくださいね。本当は歌いたいのでしょう?』
『で、でも……』
『初期治療などの際には医者の私が治療しますので、紅月には現場は気にせず安心して思い切り歌ってもらいたいのです。そのために、衛生科に所属し、救命救急センターの外科医にもなったのですから』
『ありがとう、レオン――』
 そこでしばし間を置いた後、紅月は朗々と響き渡る声で宣言を開始した。
『俺には歌しかないから、ここでも歌うね――そして、邪魔はさせない』
 紅月の堂々とした声は迅竜の中にまで聞こえてくるのを察するに、相当な大音量なのだろう。
『明倫館は志士の友、紫月唯斗の守る場所! 我等はそう、戦うために生まれてきた! 我、歌姫は参る!』
 そして紅月は小型飛空艇のマイクで名乗りを上げ、歌い出した。