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【第三話】始動! 迅竜

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【第三話】始動! 迅竜

リアクション

 アサルトヴィクセンのシステムダウンより十数分前 葦原島 イコン整備施設より数百メートルの地点
 
「俺は葦原明倫館陰陽科所属、紫月 唯斗――」
「――そして妾はエクス・シュペルティア(えくす・しゅぺるてぃあ)。明日を切り開く剣である!」
 唯斗とエクスは魂剛のコクピットから機外スピーカーを介し、眼前に立つ漆黒の“ドンナー”へと名乗る。
「単刀直入に言おう――敵将たる貴機に一騎討ちを申し込みたい」
 名乗った時と同じく、機外スピーカーで呼びかける唯斗。
 既に魂剛は着地しており、愛用のアンチビームソードである対光式鬼刀・改のみを握り、ただじっと自然体で構えているのみだ。
 その姿勢は相手の返答を待つまで、自分からは攻撃をしかけないという意志表示にも感じられる。
 ほんの数秒間睨みあった末、漆黒の“ドンナー”も同様に自然体の構えを取った。
 相手の構えが変化したのに唯斗が気付くと同時、魂剛に通信が入る。
 モニターに表示されるのは発信者を示す『UNKNOWN』の文字と『SOUND ONLY』のアイコンのみ。
 どうやら通信は広域通信のようで、もしかすると友軍からのもの以外かもしれない。
 しばし怪訝に思う唯斗だったが、意を決して応答する。
 するとコクピットに聞こえてきたのは、青年のものと思しき声。
 真面目で実直そうな印象のするその声は、唯斗の聞いたことないものだった。
『なるほど。その機体、どうりで見覚えがある筈です――かつての教導団施設攻撃の際、量産型とはいえ“シュベールト”を一騎打ちで撃破した機体と凄腕のパイロット。一体、どんな方なのか気になっていましたが、まさかここでお会いできるとは』
 通信が漆黒の“ドンナー”からのものであるとすぐに気付いた唯斗だが、口を挟むことなく静かに耳を傾ける。
『――失礼。貴方が武人としての礼を尽くして名乗ったというのに申し遅れました、僕は』
 そこで“漆黒”のドンナーのパイロットは何かに気付いたように言い淀む。
『誠に申し訳ない。一身上の都合により、名を名乗るわけにはいきません。重ね重ねの非礼を詫びましょう』
 本心から申し訳なさそうに言っているのを感じた唯斗は驚きと同時にどこか納得もしていた。
 コクピット内のマイクをオンにすると、漆黒の“ドンナー”に向けて言葉を返す。
『構わん。俺とて、そちらがおいそれと名を名乗れる身の上でないことは理解している。だが、名を知らぬのは些か不便だ』
 何かを思いついた様子の唯斗は、マイクを通して敵機へと持ちかけた。
「ならば仮の名で構わん。かつての戦いの中で貴機の仲間が“蛍”や“鳥”と名乗ったようにな」
 するとスピーカーを通し、敵機のパイロットが納得したように息を吐く音が伝わってくる。
 呼気に続いて聞こえてきたのは、やはり真面目で実直そうな印象のするその声だった。
『では、“鼬(ウィーゼル)”――その名でお見知りおきを』
 ――そう答えると、漆黒の“ドンナー”はビームエネルギーを纏った太刀――“斬像刀”を構え直す。
『そして、貴方のお申し出をお受けしましょう』
 漆黒の“ドンナー”の動きと“鼬”の言葉を受け、魂剛も太刀を構え直した。
 両機が一対一の勝負の準備が整えていくのと並行して、エクスは機外スピーカーをオンにする。
 そのままエクスは上空にいる漆黒の“フリューゲル”へと呼びかけた。
「そこな鳥よ! 聞こえておるな! 貴様の待ち人は直ぐに来る。大人しく見ておるが良い!」
 直後、またも広域通信が入る。
 ただし、今度の発信源は別の機体のようだ。
『待ち人ねぇ……ってことはジーナあたりが来んのか。じゃ、そういうことなら、それまで見物とシャレ込ませてもらいますかね』
 発信源を特定するまでもなく、今度の通信が誰からのものであるかはすぐにわかった。
 前回の交戦時、通信越しに聞いた声。
 そして、通信を通して流れてくる爆音のダンスチューン。
 間違いなく、この通信は上空の黒い“フリューゲル”が送ってきたものだ。
『そういうわけで、ここは一対一とさせてください。雌雄如何に関わらず、介入は無用です』
 更に驚くべきことに、“鼬”は漆黒の“フリューゲル”のパイロット――“鳥(フォーゲル)”に釘を刺した。
『わーったよ。ま、お前が後れを取るハズもねぇが、そこまで言うなら何のアシストもしねぇぞ?』
『構いませんよ。もとより――そのつもりです』
 迷いなく言い切った“鼬”。
 すると“鳥”は今までの冗談めかした口調とは打って変わって、どこか底冷えのするような声で言う。
『ただし、だ。もしその機体が鹵獲される危険性が出たなら――』
 一瞬、告げるのを躊躇したのか、それとも単に言葉を強調する為に間を取ったのかどうかは定かではないが、“鳥”は一拍置いてから告げる。
『――その時はコイツのライフルをマキシマムチャージでブッ放して、その機体をネジ一本残さず吹っ飛ばす』
 底冷えするような声でぞっとするようなことを言われても、“鼬”は平然としていた。
『既に申した通りです。僕は構いませんし、もとより――そのつもりであることに変わりはありません』
 躊躇なく“鼬”が言い切ったのを受け、“鳥”はふっと笑ったように息を吐く。
『なら何も言うこたぁねえよ』
 それきり、BGMのように鳴っていたダンスチューンが広域通信帯域から消える。
 通信を切断する時に聞こえる小刻みなノイズが一音節混じったのから考えて、“鳥”が広域通信帯域からログアウトしたのだろう。
 広域通信帯域を介してのものだったこともあり、二人の会話は魂剛のコクピットにも聞こえていた。
「話は済んだようだな」
 二人の会話が終わるまでじっと待っていた唯斗は、頃合いを見て“鼬”に話しかける。
『ええ。お待ち頂き感謝します』
 唯斗の気遣いに“鼬”が礼の述べただけでなく、彼が駆る“ドンナー”も丁寧な所作で一礼する。
「礼には及ばん。そもそも一騎打ちを申し入れたのは俺だ」
 答礼を終え、唯斗は静かな声で語りかけた。
『行くぞ。いざ、尋常に――』
 通信を介して聞こえてくる唯斗の声に合わせるように、“鼬”も静かな闘志をみなぎらせるように息を吐く音が聞こえてくる。
「――勝負!」
「――勝負!」
 通信越しに二人の声が重なる。
 先にしかけたのは魂剛だった。
 合図と同時に前方へと足を踏み出し、重なった声の残響が消え入らないうちに“ドンナー”との距離を詰める。
「唯斗、此方の反応速度を向こうは超えてくると思えよ。そしてそれに対応する策は分かるな?」
 サブパイロットシートで機体制御を行いながらエクスが問いかける。
 その問いに唯斗は打てば響くように答えた。
「先読みか」
 即答する唯斗に頷くエクス。
「そう、相手の一手、否、三手先を征けば良い。相手の出方が分からぬともあらゆる最悪を想定し打破するのみ!」
 エクスの言葉に応えるように、魂剛は対光式鬼刀・改を振り上げる。
「あの漆黒の武者だけは我等で落とすぞ、救援に来てくれる者達の為にも!」
「応ッ!」
 唯斗とエクスの二人が凄まじい闘志を爆発させ、魂剛は“ドンナー”へと一気に斬りかかる。
 イコン操縦技術だけでなく、武術にも卓抜した唯斗の駆る機体が繰り出す斬撃――並のイコンであればろくに反応もできず斬り倒されてしまうだろう。
 だが、“ドンナー”は刀身にビームエネルギーを纏った太刀を下方より打ち上げる軌道で振るい、対光式鬼刀・改を受け流す。
 対光式鬼刀・改を払われ、一気に胴への守りが手薄になる魂剛。
 それを逃さず“ドンナー”は“斬像刀”を横薙ぎに振るう。
 一方、魂剛は対光式鬼刀・改を握ったままの両手をそのまま下に振り下ろす。
 柄の先端をまるで鉄槌のように使い、魂剛は“斬像刀”の側面を強かに叩いた。
 それにより僅かに太刀筋の乱れた“斬像刀”の一撃は致命傷には至らず、魂剛は事無きを得る。
 とはいえ、かすめただけにも関わらず、“斬像刀”が触れた魂剛の装甲は深々と斬り裂かれていた。
 しかも、間髪入れずに再び振るわれた“斬像刀”が、今度は上段から魂剛へと迫る。
 奇しくも先刻とは逆の立場で魂剛は対光式鬼刀・改を斬り上げ、振り下ろされた“斬像刀”を払う。
 ぶつかり合う刀と刀。
 上段から、文字通りの意味で押し切ろうとする“ドンナー”。
 それに対し、下段から抗しようとする魂剛。
 互いに腕部のアクチュエーターをフル稼働させ、自らの握る刃を押し通そうとする。
 だが、鍔迫り合いは殆ど一瞬で終わった。
 直撃を避け、僅かに“斬像刀”を逸らす以上のことは欲張らず、魂剛が素早く手を離すと同時に斜め前へと身を捌き、“斬像刀”を避ける。
 魂剛が手を離したことで、勢い良く弾かれた対光式鬼刀・改は車輪のように回転しながら宙を舞い、地面へと突き刺さった。
 敵の振るう“斬像刀”の凄まじい切れ味は嫌と言うほど知っている。
 ゆえに唯斗は、相手の剣撃はまともに受けずに受け流すことに決めていた。
 下手に受けたら獲物ごと斬られかねない。
 だからこそ唯斗は咄嗟の判断で鍔迫り合いを止め、受けるよりも避けることを選んだのだ。
 その判断が功を奏し、魂剛は無事に“斬像刀”の一撃を避けたばかりか、得物を斬られてしまうという事態も防いだ。
 しかし、代わりに無手となってしまった魂剛に“ドンナー”の追撃が襲いかかる。
 振り抜いた状態から素早く、もう一度“斬像刀”を振り上げた“ドンナー”は大上段から再び刃を振り下ろす。
“ドンナー”の反応は魂剛を上回っており、回避運動を取っている最中の魂剛を逃さず捉えている。
 一方、魂剛は回避運動を完全に終えていないせいで避けきれない。
 ならば相手の刃を受けようにも、無手である今の魂剛にはそうもいかない。
 万事休すの状況。
 だが、唯斗の闘志は些かも衰えていなかった。
「――そこだっ!」
 振り下ろされた“斬像刀”に頭を断ち割られるまさに寸前、魂剛は両手を頭上へと挙げた。
 そして、なんと魂剛は斬られる寸前で“斬像刀”を白刃取りしたのだ。
 千載一遇のタイミングを逃さない精密さゆえ、魂剛の両手は切断されることなく“斬像刀”を挟んでいた。
 しかも、咄嗟の機転でエナジーバーストのフィールドにより手をコーティングした為、魂剛の両手はビームエネルギーからも守られている。
『なんという……!』
 これには“鼬”も驚愕を禁じえないようで、息を呑む気配が通信越しに伝わってくる。
 それどころか、魂剛の反撃はまだ終わらない。
 即座にエナジーバーストのフィールドを足裏に収束して力場を展開、それを足場に空を連続で蹴り、“ドンナー”の背後へ瞬間的に移動する。
 機体の向きを変える動作ですれ違う瞬間に魂剛は別に持っていた一振りの刀――【零式鬼大太刀・絶】をを抜刀しそのまま斬りつけた。
「絶技之弐『鎌鼬』」
 白刃取りから途切れることなく繋がる歩法と斬撃の動作。
 さしもの“ドンナー”といえど、これを完全に避けきることはできず、左肩口を大きく切り裂かれ、装甲板に一条の刀傷がしっかりと刻まれる。
 それでも咄嗟の体捌きで身体を逸らして直撃は避けたのか、即座に行動不能となった程ではない。
『お見事です』
 感嘆の色がありありと伺える声音で賛辞を贈る“鼬”。
「――見事なのは貴機の方だ」
 相手に有効打を与え、あれほどの強敵を感嘆せしめたというのに唯斗の表情は固い。
 それどころか、唯斗は自分の頬を冷や汗が伝うのを感じていた。
 エクスも同様なのか、唯斗に理由を問うことはしない。
 そして、その理由を示すかのように【零式鬼大太刀・絶】の刀身が根元から断ち切れ、地面へと落ちる。
 信じられないことに“ドンナー”は魂剛がすれ違いざまに繰り出した斬撃を避けるだけに留まらず、身体を逸らす動作を活かして斬り返していたのだ。
 振るわれた“斬像刀”の切れ味たるや凄まじく、【零式鬼大太刀・絶】の刀身は断ち折られるのではなく、正真正銘『断ち切られて』いた。
 これで完全に武器を奪われる格好となった魂剛。
 厳密にいえばまだ柄があるも、それだけであの“ドンナー”相手にどこまで戦えるかは微妙だ。
 僅かに頭部を動かし、カメラの端にもう一本の得物――地面に突き立った対光式鬼刀・改を捉える魂剛。
(どうする……ここは一か八か拾いに走るか――)
 伝う冷や汗を感じながら、いくつもの手を考えては吟味するのを繰り返す唯斗。
 そうしていると、“鼬”の声が通信越しに届く。
『――その太刀をお取りください。次の一太刀にて雌雄を決しましょう』
 その提案に驚く唯斗。
「唯斗、気を付けよ。こ奴の罠かもしれぬ」
 エクスは警戒している様子だが、唯斗は妙に落ち着いていた。
「いや、そのようなことをする奴ならば、今、この時点で刃を折られている魂剛は既に斬られている」
 確信をもって言い切る唯斗だが、まだ気になるのか、エクスは通信で“鼬”へと問いかけた。
「――おぬし、一体何のつもりぞ? まさか妾たちを侮っておるのか?」
 すると“鼬”は先程と同様、真面目で実直そうな印象のする声で答えた。
『貴方はまだ、切り札を出していない。全身全霊のぶつかり合いの末、相手を打倒してこそ真の意味での仕合でしょう』
 その言葉だけで十分だった。
 もはや唯斗はもちろん、エクスも何も言わず、ただ魂剛がゆっくりと対光式鬼刀・改へと歩み寄るのみ。
 そして、“ドンナー”も一切手を出すことなく、魂剛が太刀を引き抜くのを待つ。
 対光式鬼刀・改を引き抜き、血振りをするようにして土を払った魂剛は、“ドンナー”と距離を取って納刀する。
 同じく“ドンナー”もある程度の距離を図って立つと、やはり同じように“斬像刀”を納刀し、更には鞘を外して腰へと付け直す。
 互いに納刀し、脇構えの姿勢となった二機は、しばし無言で見合う。
『鬼刀による超神速の抜刀攻撃――こうして直に見ることができる時が来ようとは』
「……!」
 唐突に“鼬”が呟いた一言に唯斗は驚愕を隠せなかった。
「まさか、俺の奥の手を知っているというのか?」
 いまだ驚愕に震える声で唯斗が問いかけると、“鼬”は静かな声で答える。
『ええ。貴方がかつてその技で“シュベールト”……この機体の量産型を一刀両断した時の記録映像は幾度となく拝見しました』
 突如として知らされた事実で更に驚愕するも、唯斗は努めて頭を切り替える。
(――今はそれを詮索している時ではないか)
 そんな唯斗の心情を察してかどうかは定かではないが、“鼬”は彼に問いかけた。
『よろしければお聞かせ願いたい。あの技の名は何と?』
 問いかけられ、唯斗は静かながら堂々とした声で答えた。
「――『』(うつほ)」
『なるほど。『うつほ』とは『空』と書くのですか、それとも『虚』と?』
「そのどちらでもない――そもそもあの技を表す文字は存在しない。書の中にあってあの技の名前の記されるべき場所は空白」
 唯斗の語りに“鼬”は感心した様子で聞き入っているようだった。
『これはまた随分と凝った命名で。しかして何故に?』
「ひとたび放たれれば、あの技は目に見えず、音も聞こえない。それは既に知覚外の代物だ。究極まで速さを高められたその斬撃は、もはやこの世に存在しないも同じ」
 静かに語り続ける唯斗。
「――ゆえに『』。文字を用いないということそのものが他ならぬ表意文字として、この存在しない斬撃という魔剣を表意しているのだ」
 唯斗が語り終えるまで傾聴の姿勢を崩さなかった“鼬”は、ふと何かに気付いたように呟いた。
『しかし不思議な技です。確たる名前がありながら、それでいて名無しにすら思える――まるで僕の修めんとする流派のようです』
「ほう?」
 今度は唯斗が問いかける番だった。
『師匠曰く、この流派は天下無双の頂点、唯一無二たる最強の剣術たることを目指し、心身を鍛えるもの。真の最強とはたった一つ。ゆえに他と区別する為の名前というものは不要。ゆえに仮の名や、与り知らぬ所で付けられた俗称はあれど、真の名は存在しません』
 静かな声で語りながら、“鼬”は“ドンナー”の身体から余計な力を抜いていく。
『貴方が『』で僕に挑むならば、僕は自らの流派が秘儀の一つ“秘剣・一文字斬り”にて貴方に挑みましょう』
 決然とした声で“鼬”が言い放つと、唯斗は得心がいったように息を吐く。
「そうか――秘儀とはいわば流派の鏡のようなもの。しかしながら、その技は秘儀であるにも関わらず、名前に流派にまつわる一切がないのか」
『その通り。この一文字斬りも数ある一文字斬りの中で真に最強となることを目指して研鑽される技。ゆえに、たとえ剣術の中ではごくありふれた技であっても、流派の名前で区別する必要などないのです』
 ゆっくりとした声で語り終えた“鼬”。
 先程の“鼬”と同様、今度は唯斗が感心した様子だ。
「委細に至るまで得心した。そしてこれを言うのは二度目、しかもそちらの流派の信条に反する無礼を承知の上で言おう――なにぶん名前が無いのは不便だ。それに自分を圧倒した者の流派だ、是非とも知っておきたい。仮の名前で十分だ――聞かせてもらえるか?」
 唯斗からの頼みに、“鼬”はしばし逡巡した後、ゆっくりと答えた。
『どうしても呼びたくば、名伏流とでも呼べばいい――師匠はそう仰っていました』
“鼬”からの答えに、唯斗は魂剛を操作して頷かせることで承知の意を示す。
 そして再び無言の静寂がしばし続いた後、唯斗が口を開いた。
「――紫月唯斗。流派の名はない」
『――“鼬”。同じく流派の名はありません』
 改めて互いに名乗り、儀式を終えた二人。
 そして二人の駆る二機は愛刀の柄にかけた手を握り締める。
「いざ尋常に勝負――!」
『いざ尋常に勝負――!』
 再び重なり合う二人の声。
 そして鍔鳴りと鞘走りの音。
『――『』。やはりお見事でした』
 一瞬の後。
 折れたのは対光式鬼刀・改、倒れたのは魂剛であった。