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 第3章

 沙耶を護衛していた一同が、敵のアジトにたどりついた。
 居場所を探るために利用した【シャンバラ国軍軍用犬】を手懐けながら、騎沙良 詩穂(きさら・しほ)が言う。
「沙耶さん。心配しないで」
 瑛菜の身を案じて落ちこむ彼女に、詩穂が優しく声をかけた。
「絶対に、瑛菜部長は無事ですから」
「……わたくしのせいで、瑛菜さんは危険な目にあわれました。どう責任をとればよいのか……」
「大丈夫。瑛菜部長はね、いつだって人の役に立ちたいんだから。沙耶さんが外の世界を楽しめたのなら、それが恩返しになってます」
 詩穂は、沙耶を見つめながらつづけた。
「今度は沙耶さんが、恩返しをすればいいの。詩穂も手伝うからね」
「……ありがとうございます」
 頼れる詩穂の言葉に、沙耶は落ち着きを取り戻していた。
「さあ、進もう。瑛菜部長を助けるために」
 ゲブーが開けた巨大な穴に向き直り、一同はアジトの内部へと侵入していく。

 と、そこへ敵の援軍が駆けつけてきた。
「ここはあたしたちに任せて!」
 セレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)が前に出る。迫り来る敵の群れに立ち向かいながら、ちらりと沙耶を振り返った。
「瑛菜を助けたいっていう、あなたの心意気。確かに受け取ったわ!」
「セレンフィリティさん……」
 沙耶は感動しながらも、戦闘態勢に入るセレンに言った。
「……ですが。あなたの格好で、戦えるのでしょうか」
「ふふっ、強い女に余計な物は必要ないの!」
 ビキニをまとっただけの格好で、セレンは応えた。
「誇らしく言うことでもないでしょう」
 セレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)が呆れながら、ドヤ顔のパートナーに突っ込んだ。それでも沙耶に【ガードライン】をかけて護衛を忘れないあたり、相方の制御役として、一日の長がうかがえる。
「人質救出は時間が勝負! 奴らはあたしたちが食い止めるから、みんなは先に行って!」
「なめんなよ! そんな格好で俺達を倒せるか!」
 次に服装へ突っ込んだのは誘拐犯たちだ。挑発的なセレンの格好に、怒りと劣情で、もはや平常心を失っている。
 それが彼女の作戦でもあった。
 冷静さを欠いた敵へ、【メンタルアサルト】を畳み掛ける。幻惑する相手に【実践的錯覚】を披露し、空間感覚を麻痺させた。さらにセレアナが、【光術】で敵の視界を奪う。
 ほぼ無力化された敵たち。
 後は思う存分、暴れ回ればいい。
 ふたつの美しい肢体が戦場を舞う。あとに残るのは、気を失った誘拐犯の肉体だけだ。
「ふふっ。これが闘いってもんよ!」
「はいはい」
 暴走するパートナーをなだめるセレン。だが彼女の呆れツッコミは、信頼の裏返しであった。
 瑛菜の救出に向かった沙耶が、ちらっと振り返る。敵を制圧していく『壊し屋・セレン』の勇姿を、脳裏に焼き付けていた。


                                      ☆   ☆   ☆


 アジトの再奥。瑛菜が幽閉されているであろう部屋の前で、沙耶が言った。
「瑛菜さんを助けるには、わたくしの力が必要ですわ」
 彼女の力――。それは血液を使った占い。
 綾小路院ヶ崎家は、沙耶の力を利用するため誘拐したのだ。瑛菜が偽物だとバレた今、取り引きに使われるのは明らかである。
「でも、貧血気味の沙耶ちゃんから血は取れないもんねぇ」
 レオーナ・ニムラヴス(れおーな・にむらゔす)が、なにか名案はないかと考え込んでいた。
 考えに集中していたのだろう。
 歩いていたレオーナはつまづき、沙耶の前に倒れこんでしまった。
「大丈夫ですか、レオーナさん!?」
 助け起こそうとしゃがみこんだ沙耶。見上げたレオーナの視線は、ちょうど彼女のスカートの下に集中した。
「ぶはっ! 沙耶ちゃん、意外と大胆なパン……」
 大量の鼻血を吹き出しながら、レオーナは果てた。
「これですわ」
 クレア・ラントレット(くれあ・らんとれっと)が、すかさず水筒を取り出し、パートナーの血液を集める。水筒がレオーナの鼻血で満たされていった。
「この血を使いましょう」
 クレアが提案するが、沙耶はうつむきながら首を振った。
「申し訳ありません。占いに使用出来る血には、条件がありますの」
「そうですか……」
 クレアが残念そうに水筒をおいた。レオーナの血は使い物にならないのだろうか。
「ちょっと待って」
 そこへ割り込んだのがローザマリア・クライツァール(ろーざまりあ・くらいつぁーる)だ。彼女は沙耶たちへむけ、自身のアイディアを提案する。
「……なるほど。それは面白そうですね」
 沙耶がうなずきながら、レオーナの血液入り水筒を手に取る。
「では。参りましょう」
 意を決した表情で、瑛菜が囚われた部屋への扉を開けた。