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リアクション
第二章 雪人形討伐
エースは移動中、時折木を見上げていた。
「何してんの?」
シャーレットが不思議そうにエースを見た。
「ああ、木に聞いているんですよ」
エースは『人の心、草の心』を発動し、ハンスの言っていた人物が本当に居るのか確認をしていたのだった。
「方向は間違いないようです。この先にその女性がいると木が言っています」
「へぇ……他にも何か判るの?」
「三年程前に彼女は氷結晶の中に居ることになったと言っています。詳しいことまでは――ただ、一つ気になることが。」
「何かあった?」
「はい、一人の青年が我々よりも先に森を通って行ったと行っています」
「誰か分かる?」
「名前までは木も分からないと言っています」
「あれじゃないかしら?」
セレアナが指した場所に洞窟が確かにあった。
「こいつはどうだ?」
『ヘビーマシンピストル』を構え、ローグは氷結晶へ引き金を引いた。弾丸が射出され、氷結晶に殺到するが氷結晶で弾かれあらぬ方向へ兆弾する。氷結晶へ衝撃を加えるが、ビクともしない。
「ダメか、これ以上はギフトの力が必要だな」
カツン、カツンと靴の底が当たる音が外から聞こえてきた。
「ローグ」
「……お前等か」
手にしていた『ヘビーマシンピストル』をしまい、ローグはやって来たシャーレット達を見た。
「……彼女が?」
「ああ、その様だ」
ぶ厚く限りなく透明な氷結晶。その中に眠るように一人の女性が閉じ込められている。
「魔法か……」
「……今まで見たことない魔法ね」
セレアナはそっと氷結晶に触れた。
「現状の手持ち装備での物理攻撃はダメだった。魔法の方が効果があるかもしれない」
「分かったわ。エース、魔法を試してみましょう」
「ええ、了解しました」
「『怒りの煙火』」
「『火術』」
「『我は誘う炎雷の都』」
メシエが呼んだ巨大な炎と雷が融合した炎雷とセレアナが放った炎、エースの溶岩が氷結晶を呑み込む。
「っ、なんて温度だ」
ローグは即座に顔を両手で覆った。
洞窟が焦熱で満たされている。皮膚がチリチリと焼けるような痛みを訴える。
「……どうだ?」
魔力を放出し続けながら、エースは氷結晶を見た。
「まだ熱量が足りないのか?」
「まだ足りないように見えるわ」
「一旦、魔法を解除します」
「うーん」
ルカは唸るように声を上げた。
「どうしたんですか?」
柚がそんなルカを見て声を掛けた。
「『テレパシー』を香菜に送ってるんだけど、返事が無いのよ。柚もやってみてもらえる?」
「はい」
額に人差し指を当てて、『テレパシー』を柚は発動する。
「……来ませんね」
二人の願いとは逆に香菜からの返事は無かった。
「あの、氷結晶って見たことありますか?」
村の小さな雑貨屋の前。
「おや、珍しいねえ」
加夜が取り出した小さな結晶をおばさんは眺めた。
「これ、どうしたの?」
「街道で拾った物で、ご存知でしたら届けてあげようと思いまして」
「ああ、なるほどねえ」
うんうんとおばさんは頷いた。
「分かりますか?」
「……ええとねえ。確か……村のジョーイお爺ちゃんが似たような物を持っていた気がしたわ」
「はい。それで、どちらに?」
「村をちょっと出たところに山があるんだけど、そこの洞窟に備蓄している食糧を取りに行くと言っていたわ」
「ありがとうございます。では、そちらへ私も行ってみることにします」
おばさんに別れを告げると、加夜は村の外へと歩き出した。
「加夜さん。俺達も同行しよう。なにぶん、知らない場所だ。一人で行くのは危ない」
某と綾耶、フェイが村の入り口で待っていた。
「それでは……宜しく御願いします」
「綾耶とフェイ。こいつらも同行させます」
「はい。宜しく御願いしますね、二人共」
加夜は綾耶、フェイの手に掌を重ねる。
「宜しくね、加夜さん」
「宜しくな」
「和輝!四人が村の外へ出るみたいだけど?」
村の端の小屋の影からアニスはそっと様子を伺っていた。
「分かった、そっちは俺が何とかする。アニスはこのまま妨害を続けろ」
「らじゃ!」
「寒いですね」
一寿の口から零れる吐息は白い。
「ええ、場所が違うとこうも冷えるみたいですね」
ヴォルフラム・エッシェンバッハ(う゛ぉるふらむ・えっしぇんばっは)もそれに頷いた。
「この村の方たちは寒くないのですか?」
「わし達は慣れとるからなぁ」
小さな菜店を営む老人は特に気にした様子はなかった。厚着のコートを羽織っているだけで、特に寒そうな感じには見えない。
「どこかで暖を取りたいんですが?」
「この村は元々来客が少ないところでのう、夜しか暖を取らんのじゃ」
「そうですか……、でしたら何処か場所を貸して貰えませんかか?こうも寒いと身体が動かなくなってしまいます」
「……」
「おじいさん?」
一寿が老人の顔を覗きこんだ。椅子にのんびりと座る老人の顔はニコニコと変わらない。
「……村ノ外レニ広場ガアル。ソコデ暖ヲ取ルトイイ……」
「分かりました。行こうか、ヴォルフラム」
「ええ、準備もありますから」
「……香菜を知っているか?」
「はい?」
キロスの態度は相変わらず上から目線。誰に対してもそれは変わらない。
「香菜を知っているか?」
「もう、キロス。そんな言い方じゃ、皆怖がってるでしょ!」
ジェフェリアが慌てて、村人とキロスの間に入る。
「ふん」
「ごめんね、お兄さん。ちょっと人探しをしてるんだ。香菜っていう女の子なんだけど、知らないかな?」
呆気に取られた顔の青年だったが、ジェフェリアから話を聞くとうんうんと話を聞いてくれた。
「いやー、ちょっと見てないな。むしろ、今回の村への来客の方が驚いたくらいだよ」
「そっか、ありがとね。お兄さん」
「次……探……そう」
「ああ……」
「うぅ、腹減った」
マリリンがお腹を空かせて、フラフラと歩いてきた。
「とりあえずメシだメシ!何か食わせてくれ!」
「ちょっと待ってて下さいね。今から準備しますので」
「マリリン、これがあるけど飲む?」
そう言ってパメラ・コリンズ(ぱめら・こりんず)は『ギャザリングヘクス』を取り出した。
「いらない」
「うぅ……」
小さな釜戸を一寿は組み始めた。近場に落ちている大きめの石をヴォルフラムが運んでくる。
「一寿、石はこれ位で十分ですよね?」
「そうだね、マリリンさん達は薪に使えそうな物を少し集めて貰えますか?」
「任せろ!ジョバンニ、パメラさっさと集めるぞ」
五分後には木の枝が山を作っていた。正直、釜戸より遥かに大きい。
「……うん。しかも、生木ですね……」
マリリン達が集めてきたのは、折れたばかりの湿った木の枝だった。
「――炭にしますか。すいません、御願いしても良いですか?」
一寿が申し訳なさそうに、マリリンを見た。
「?、ああ。任せろ、パメラも手伝え!」
「うん、分かったよ」
枝の山を見上げ、魔力を奔らせる。
「「『ファイアストーム』」」
炎の柱が上がった。山となった枝を飲み込み、炎を散らす。釜戸の近くに積もっていた雪も全て溶け、水溜りへと変わっていく。
空へ昇る炎は村人の目にも留まっていた。その村人は人知れず雪を溶かした熱源へと向かっていく。
「……排除シナケレバ」
「ハンスノ邪魔ヲシテハイケナイ」
「ふん、ざっとこんなもんよ」
黒々とした炭へ変わった枝を見下ろし、マリリンは炭を釜戸へと放り込んだ。
「ありがとうございます」
腕に野菜を抱え、一寿とヴォルフラムが戻ってきていた。一寿の『根回し』を使い、具材を集めてきていたようだ。
「良ろしければ、お手伝いさせて貰えますか?」
やって来たのは、柚達だった。
「野菜、切ってしまいますね」
手馴れた様子で、野菜の皮を剥き鍋へと放り込んでいく。
「『火術』でやりますね、具材も炭になりかねないので」
「『火術』」
炭に炎の華が咲く。パチ、パチと炭は小さく火花を散らし、鍋を暖めていく。
「あと30分もすれば、ごっちゃ煮のシチューが出来ますね」
「暖かいシチューはどうです?こう寒いと、みなさん身体の堪えるでしょう。お中の中からあったまると。きっといい考えだって浮かんできますよ!」
一寿は沸々と湯気を立てるシチューを碗に注いだ。
「どうぞ」
「おう、悪いな」
碗を受け取ると、マリリンはシチューをかき込むように喰らった。
(急がば回れ、ですか。一寿が、まず人心地をつけてから調査に乗り出そうと段取りするのも悪くなさそうですね)
ヴォルフラムも集まった仲間達にシチューを配った。
「……別に他意はありませんよ、このように寒い中ではお互いに、身体を温め合う方策を考えていかなきゃなりませんからね」
「あ、ありがとうございます」
ジョヴァンニは湯気を放つシチューを受け取ったが、一向に箸が進まない。
「どうしました?何か苦手な具材が入ってるなら、それは避けてよそいますが?」
「いえ、私は猫舌で……」
「ああ……なるほど」
ジョヴァンニの回答にヴォルフラムも納得が言ったようだ。
「苦労しますね。少し冷えたら、またお出ししますよ」
「ありがとうございます」
「和輝!すごい美味しそうだよ」
物陰からジッとアニスの物欲しそうな瞳がシチューの鍋を見つめていた。
「……ああ」
「……良いなあ。アニスも食べたいな?」
「そうか」
「食べたいなぁ……」
『精神感応』から心の声が駄々漏れである。
「……シチューを食べたら、直ぐに……戻れよ……」
少し諦めの混じった声が聞こえていたが、和輝の思いにアニスは気が付かなかったようだ。
「うん」
ブッと会話が切れた。シチューを貰いに行ったのだろう。
「……まったく」
「アニスにも頂戴!」
「はい、どうぞ」
アニスの碗にヴォルフラムからなみなみとシチューが注がれる。
「いただきます!」
「どうぞ、身体がもう少し温まれば、いい知恵だって出てこようというものです」
「そうだねー」
「海くん、どうぞ」
「……ああ、ありがとう」
柚は海の手へシチューを入れた皿を渡した。お皿はシチューで心地良いぐらいに温かった。
「ルカさんもどうぞ」
「ありがとうー、柚ー」
持っていた二皿を全て柚は配ってしまう。
「柚の分は?」
「ほら、三月ちゃんが……」
柚が釜戸の方を見る。三月はウェイター宜しく、器用に三人分の皿を運んできている。
「柚、一つ取って」
「ありがとう、三月ちゃん」
「ダリルさんも一つ御願いします」
「すまない、三月」
ダリルも三月から皿を受け取った。
「うまうまー」
むしゃむしゃとシチューを口の中へと運んでいく。
「ルカ、もう少し丁寧に食べたらどうだ?」
「何言ってんの?お店じゃないし、キャンプみたいに豪快に食べたほうが美味しいよ」
「さっきまで吹雪いてたのに、急に天気が良くなりましたよね?」
三月が思い出したように、空を見ていた。
「んー、誰かが悪戯してたみたいだったね」
スプーンを加え、ルカも思い出したように空を見た。
「ああ、意図的に妨害を掛けていたのかもしれんな」
「ねえ、君?」
「何?お兄ちゃん!」
北都は近くで遊んでいた子供へ声を掛けた。
「君も食べる?」
子供へと熱いシチューが入った皿を差し出した。
「……いらない」
「え?」
その顔は冷め切った表情をしていた。とても子供では作り出せる物ではない。瞳は感情の無い濁った瞳へと変わっていた。
「そう……じゃあ、これは僕が貰うね」
「うん、じゃあね」
子供はまた元の表情に戻ると駆け出していった。
「……」
みのりはただその様子をじっと見ていた。
「お代わり、食べるかい?」
海へとお代わりを北都は差し出した。
「ありがとうございます」
「気付いた?」
「……ええ」
「これだけ雪に覆われているのに、この村は家の中を暖かくしていないんだよ」
「はい、良く見えてました」
「うん、そうだよね」
持っていた皿を置き、北都は村の家々を眺めた。
「氷柱は、屋根に積もった雪が家の内部の熱で溶かされて、その水滴が固まって出来る物なんだ。これだけ人が住んでいる割りに、氷柱の大きさも数も少な過ぎるんだよ。『超感覚』で音や匂いを拾っても、薪が燃える音や、温かいスープの匂いはしてこないしね」
「俺もそう感じました、生活が感じられません」
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