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彼女は氷の中に眠る

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彼女は氷の中に眠る

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 黒地のロングコートを纏った死神が其処にいた。
「女!誰だお前?」
「誰でも良いだろう?」
「ハンスの仲間か?」
「……かもな。だが……本当に悪いのはどっちかな?」
「何?」
 下肢に力を込め、地を踏んだ。弾ける様に、和輝は某へと肉薄する。
「はぁ!」
 右脚を使っての踵落とし。『フェニックスアヴァターラ・ブレイド』で某はそれを受けた。
「ぐっ」
 ドンッと某が立つ大地が割れ、陥没する。瞬時に右手の『曙光銃エルドリッジ』により、加夜へ牽制をする。
「……」
「っ」
 加夜は素早いステップで和輝の射線から身を放す。地面の雪が弾丸によって、弾けていった。
「眠れ」
 ボッと空気を裂いて、左腕が突き出される。刹那、『放電実験』によりバジンと左腕が発光した。
「某さん!」
「くっ……」
 首を捻り、剣を放す。雷光が傍を突き抜け、皮膚が痛みを感じる。
「……」
 突き出した左腕が急激に垂直落下し、某の身体に触れる手前で
「!」
 和輝の身体が後ろへと後退した。加夜の『爆炎波』が和輝の居た場所を焼き払う。
「某さん、離れて!」
「『天のいかづち』」
 綾耶の放つ雷撃が和輝へと降り注ぐ。
「ちっ」
 『曙光銃エルドリッジ』を空に放り、雷撃を避ける。
「吹き飛べ!」
 フェイが放った『地獄の門』により強化された魔法弾によって大地が爆ぜる。
「『真空波』」
 刃により斬られた和輝の髪がハラハラと宙を舞う。木々を使い、空を駆けるが防戦一方だった。

 「和輝ー!」
 『精神感応』でアニスからの通信が入った。
「どうした?」
「ばれちゃったー」
「ちっ……」
 意識を通信へと持っていかれていた。
「『シーリングランス』」
 その僅かな間に加夜の放った光状のランスが和輝を穿った。
「ぐぅ!」
 魔鎧の御陰で貫通には至らなかったが、ミシミシと肉体が悲鳴を上げる。
「和輝、大丈夫なの?」
 魔鎧となっているスノーが声を上げた。
「……撤退する。アニスの所へと向かうぞ」
「わかった……」
 『迷彩塗装』を纏い、その場から離脱する。時折、木が揺れる音だけが聞こえた。

 「あいつは一体?」
「ハンスさんの仲間だと言っていましたが……」
「洞窟の中へ行ってみましょう。何か判るかもしれません」
 加夜達は洞窟の中へと歩を進めた。
 洞窟は進むごとに広さを増していった。何かをする為に、掘られたかのようだった。中まで氷に覆われ、生き物の気配は感じられない。
「……これは!」
 加夜は目を瞠った。
「夏來!」
 夏來 香菜(なつき・かな)、村人達が氷漬にされていた。ただ、瞳は精気を帯びている。氷の中で時間を止められた、そんな状態だった。
「早く皆に連絡をしないと……」
「それは我が行おう」
「!」
 ゴトリと武器が傾いたように加夜には見えた。今まで壁にある物の一部と思われていた物がゆっくりと動き出したのだ。
「コアトルさん……ですね?」
「いかにも。我が双方との連絡役になろう。我であれば、仮に見つかった場合でも武器形態で放置されていればギフトと気付かれる心配もないだろう。現におぬし等も気付いておらぬ様子だった」
「ええ、御願いします。私達はこちらで助ける方法を探してみます」
「心得た」

 「……危ない」
 みのりはキロスの手を引いた。
「あ?」
 キュバという音を立て、『機晶ビーム』がキロスの居た場所を焼き払った。
「ついに正体を現したな。キロス!」
「……あそこ」
 みのりがある民家の屋根を指差した。
 「フハハハ!良くぞ見破ったな!」
 屋根の上に姿を現したのは、ハデスとアルテミス。
ただ、アルテミスの様子が少しおかしい。何かに動揺している。
(キ、キロスさんだ?!な、なんでしょうか、この胸の高鳴りは……)
「む、俺の天才的な直感が告げている!キロス、お前こそが、この事件の黒幕だとな!」
「何を言ってるんだ?」
 ポカンとした表情でみのり達はハデス一行を見上げている。
「フン、今更しらばっくれた所で遅い。貴様は俺によって裁かれるのだからな!」
 『優れた指揮官』であるハデスは部下たちへと命令を下した。
「さあ行け、我が部下たちよ!諸悪の根源、キロスを倒すのだっ!」

 「来るよ、みのり!」
 『オリュンポス特戦隊』がみのり達を取り囲む。
「一人二殺ってところか」
 グレンが腰の剣に手を伸ばそうとして、ハッとする。
「あれ、剣が無い?」
 『柳葉刀』がみのりから投げられた。
「……使って」
「借りるぞ」
 グレンが『柳葉刀』を鞘から抜き、特戦隊へと単身斬り込む。
「『ツインスラッシュ』!」
 風きり音と共に刃の二連撃を放つ。
ヒュンという風きり音が聞こえた時には、刃の二蓮撃が特戦隊員を打ち倒していた。
「次はジェフェリアの番よ」
 ジェフェリアが駆け出す。
「……『雪使い』」
 突如としてみのりが作り出した雪の壁が特戦隊員達の視覚を塞ぐ。
「頂き!」
 ジェフェリアの『ワイヤークロー』が空中を疾駆し、特戦隊員を切り裂く。

 『エリート戦闘員』とアルテミスがキロスを狙う。
「キ、キロスさん」
 『魔剣ディルヴィング』を構え、アルテミスはキロスを仔細に観察する。
「で、何してんだお前?」
「べ、別にキロスさんには関係の無いことです」
「そうか……」
「いえ、今は敵の氷の魔術師キロスでしたね!このアルテミスが、オリュンポスの騎士として討伐します!」
「お前らは一体誰の事を言ってるんだ?」
 キロスは武器を抜いたがイマイチやる気にならない。
「言い訳は無駄ですよ、キロスさん……。なぜなら、あなたが氷の魔術師であることは、その格好から明らかだからです!この真冬の雪の中でも、上半身裸なんていう非常識な格好をしてるんですからね!」
「ふん……そんなの俺の自由だ」
「問答無用です!」
 剣を下段に構え、キロスへとアタックする。
「『乱撃ソニックブレード』」
 斬撃が舞い散る花弁のようにキロスを襲う。
「っ……」
 アルテミスの斬撃に合わせ、相手の剣を器用に弾く。
「なっ!これなら!」
 弾かれた剣を両手で持ち、素早く体を深く捻転させる。
「『一刀両断』」
 足を踏み込み、溜めた身体の反発を利用し遠心力を載せた重い斬撃を開放する。
「ぐぅ!」
 金属同士を派手に叩きつける音を出し、剣で受けるキロスも纏めて吹き飛ばす。
「どうですか?」
 「……やるじゃねえか」
 重い斬撃を受けたが、キロスはゆっくりと立ち上がった。
「ほ、褒めても何も出ませんよ!」
「ふん、俺に勝ってからいうんだな!」

 「『歴戦の魔術』……」
 迸る魔力が凝縮し、みのりの手から射出される。
「のわっ!」
 ハデスの居る屋根をみのりの放った弾丸が穿った。
「あ、アルテミス!」
 下からの死角となる位置で、ハデスは声を上げた。
「て、撤退する!」
「え……?」
「何でそこで残念がるんだ!」
「は、はい!すいません!」
「よし、撤退だ。行くぞ!」
 屋根から転げるように落ちると、ハデスは四人から『戦略的撤退』をする。
「そ、それでは。氷の魔術師キロス」
「お、おう。じゃあな」
「は、はい。また会いましょう」
 礼儀正しくお辞儀し、ハデスを追いかける。
「……何だったんだ」

「うわーん」!」
 追い詰められたアニスは泣き出していた。ルカとダリルは顔を見合わせて、心の視線を飛ばしあう。
「泣かしてどうする?」
「あれ、悪いの私なの?」
「状況を良く考えろ、脅しているのは此方にしか見えないぞ?」
 慌てるルカ達を置いて、ハデスの『ノーマル戦闘員』がアニスを攫っていく。
「え? 、助けてー!」
「おい、良いのか?」
 ダリルがルカを見るが、ルカは特に心配した様子はない。
「あー、あれかー」
 懐かしむように走り去る戦闘員を見送った。
「良いんじゃない?」
「良いのか?」
「良いの、良いの。さあ、戻るわよ!」

 「どうしたそれは?」
 ハデスは目を丸くした。
 『ノーマル戦闘員』が運んできたアニスは目を回していた。
「うーん……」
「まあ、良い!アルテミス、何処かに寝かせておけ!」