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リアクション
序章 ツァンダにて
快晴の空の下、キロス・コンモドゥス(きろす・こんもどぅす)はリネン・エルフト(りねん・えるふと)たちと共にツァンダ方面に向かって、飛空艇を飛ばしていた。
『ヴァルトラウテ……』
リネンと同時にそう呟いたフェイミィ・オルトリンデ(ふぇいみぃ・おるとりんで)が、はっとキロスに視線を送った。
「聞き覚えあるぞ、それ。オルトリンデの家の書物に名前があった。大当たりかもな、キロス」
「本当か! 何か当時のヴァルトラウテ家について知っていることはないのか?!」
「……そこまで詳しいことは知らねぇ」
焦るフェイミィに、キロスはがくりと肩を落とす。
「いやオレの祖先がシャンバラを離れたのは古王国時代だし、家は征服王のせいで砂の中だし。掘り出せねぇよ!」
「……この役立たず」
リネンが蔑むような目で、フェイミィを見た。ヘリワード・ザ・ウェイク(へりわーど・ざうぇいく)が、うーん、と首を捻る。
「でも、調べれば何か情報が出てきそうな気はするわね。調べれば、だけど……」
「まあ……そう簡単には分からねえよな」
キロスは自分に言い聞かせるように呟いた。
「それにしても、ヴァルトラウテ嬢が目覚める瞬間が来るんだと思うとワクワクするわね!」
リネンが嬉しそうに言う。
「そんなに興味ひくところか?」
「私たちだって空賊よ? 『琥珀の眠り姫』の正体、気になるじゃない!」
「そうそう! こんな面白い話、黙ってられないでしょ!」
うんうんと頷きながら、ヘリワードが同意する。
「取り敢えず、まずはユーフォリアに話を聞くしかないな」
こうしてキロスたちは、ツァンダへの道を急いだのだった。
ツァンダについた四人は街の中央にある酒場に入った。キロスたちは、ここでユーフォリア・ロスヴァイセと待ち合わせをしていた。
「ヴァルトラウテ家について……ですか?」
酒場の騒がしさも意に介さないようなゆったりとした雰囲気を纏ったユーフォリアは、不思議そうにキロスたちを眺めた。
「どうしてまた、急に?」
「ユーフォリア様……彼が今、ヴァルトラウテ家の令嬢を保護しています。私たちは、彼女を目覚めさせる鍵を探しているんです」
「なるほど、そうですか」
ユーフォリアはリネンの言葉に柔らかく頷いて、少し考え込むように空を見る。
「ヴァルトラウテと言えば、シャンバラ王国に使えていた領主だったはずですよ」
リネンとキロスの目を交互に見て答えるユーフォリア。
「じゃあ、『琥珀の眠り姫』についての話は……?」
ヘリワードが横から訊ねた。
「ちょっと覚えていないですね……。あまりお役に立てなくてごめんなさいね」
「なら、他にヴァルトラウテ家について何か知っていることを教えてくれ」
キロスが身を乗り出すと、フェイミィも大きく頷いた。
「文献には載っていないことでも、遺跡内の調査でヒントになるようなことが何かあれば鍵に近づけそうだしな」
「ええと、そうですね。私の知っているヴァルトラウテ家の方ですと、ロレンスという方がいました。若くして家督を継いだ方で、とても落ち着いた思慮深い方でしたわ」
「ロレンス……」
キロスは、調べた文献に「ロレンス」という名前が載っていたかどうか思い出そうと記憶を辿った。
だが「ヴァルトラウテ家」というヒントに辿り着くまでで精一杯だった以上、詳細は遺跡でしか調べられないだろう、と判断する。
「どっちにしろ、その人が残した書物や日記なんかを調べれば、新しく分かることが出てくるかもしれないわね」
「ああ、そうだな」
キロスの表情を見て、ユーフォリアは笑みを零した。
「私の知識が少しでもお役に立ったなら、嬉しいです」
キロスたちはユーフォリアに別れを告げると、パラミタ内海に向かって飛空挺を飛ばしていた。
「琥珀の眠り姫……目覚める瞬間に是非立ち会ってみたいわね」
「そう簡単に目覚めてはくれそうにないけどな。文献も情報もほとんどない状態だ」
キロスの声から諦めのニュアンスは伝わってこない。むしろ、どこかで楽しんでいる節さえ感じられた。
「それでも、確実に一つずつ情報は手に入ってきてるじゃない?」
「ま、そうだよな」
キロスはリネンににやりと笑いかけた。
「遺跡を調査できるのは一度きりだ。空賊たちも付け狙っているはずで、ぐずぐずはしてられねえ」
そう良いながら、キロスは遺跡の探索に臨む決意を新たにしたのだった。
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