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リアクション
現在、『中継基地』ではお祭りの準備が行われている。
それも街全体総出で行う、大掛かりな準備。
それに釣られた楽しいことが大好きな契約者たちもまた、同じように準備に勤しんでいた。
「さて、これほどの大掛かりな祭りだ。負けぬような大作映画を作らないとな」
「大作って、どんな映画撮るのよ?」
「ビキニアーマーの美少女たちが活躍する血沸き肉踊る冒険活劇を描いた作品だ。全ての賞を総ナメにするぞ」
祭りに向けてそう意気込むのはハインリヒ・ヴェーゼル(はいんりひ・う゛ぇーぜる)。
その傍らにはパートナーである鶴 陽子(つる・ようこ)がいて、二人は映画を撮影にすることに決めていた。
【ビキニアーマー工房】内にて作戦会議中にも関わらずハインリヒのテンションを普段より高かった。
「オレがプロデューサー兼監督、そして陽子が脚本だ。参考資料はここに用意した」
「えーと……なるほど。全てビキニアーマーの美少女が主人公なのね」
「それだけではない。彼女たちは異世界でヒロインとなり世界を救う。その過程では少女たちの熱き友情が織り成す青春ドラマがあるのだ」
「で、結構派手なアクションとか怪物か出てくるみたいだけどどうするの?」
「そこは特殊メイク・特撮技術を用いてカバーする。だからオレたちはまず、その土台の準備をするんだ」
熱く語るハインリヒが拳を固く握り話を続ける。
「そこでオレのスキルの出番だ。機材調達などの製作全般に『イノベーション』を使う。当然、宣伝には『宣伝広告』を使用。メイク等に関しては『根回し』で一流の人物に交渉する」
「どこで撮影するのよ?」
「別途スタジオを用意しておく。だがこの大陸そのものが撮影スタジオにしても申し分のないところだからな。そこも有効活用する」
「ってことは私は脚本に専念すればいいのね?」
「その通りだ! それじゃオレはいろいろやることがあるので、ささっと済ましてくるぞ。よい脚本を頼んだ!」
そう言ってハインリヒは表へ飛びだしていった。
「……って監督の意見がないと何もできないわよ! ちょっと、私を置いてかないでー!」
景気よく出て行った監督ハインリヒ。その後を慌てて追いかける陽子。
ハインリヒの熱い意気込みやずば抜けた行動力から察するに、いいものができそうだ。
日常生活に使える包丁・鍋などからイコン用の刀までを製造する【萬鍛冶屋・鱠斬】もこの祭りに向けて気合を入れていた。
店の設立者である紫月 唯斗(しづき・ゆいと)は店の職人たちを集めて企画案を話していた。
「ってわけで、俺たち【萬鍛冶屋・鱠斬】は解体ショーをやるぞ!」
職人たちからオー! という怒号にも似た声が飛び交います。
「無論、ショーの時に使うのは俺たちが丹精こめて創った包丁やら鍋やらだ。それに解体ショーだからな。
とりあえず大物は俺が調達してくる。他にも小さめの魚とかを使って捌き方講座もしよう。上手くいけば収入アップ! みんな、ぬかるなよ!」
「まかせとけ!」
「やーってやるぜ!」
「いい意気込みだ。んじゃそっちは任せた。俺は大物の調達やらいろいろしてくるよ」
そう行って【萬鍛冶屋・鱠斬】を後にする。唯斗には他にも考えがあった。
そのため彼が向った先。ミルキー・ヘミングウェイ(みるきー・へみんぐうぇい)がいる仲介所だ。
「ミルキー、ちょっと折り入って相談があるんだが」
「祭り関係のご相談ですか?」
「そうだ。うちの店の方で解体ショーを計画してるんだが、その解体した奴をその場で売っぱらったり、料理にして振舞いたいんだ」
「……そこで腕のいい商人と料理人を仲介してくれないか」
「察しがいい。ついでに調達の方も任したいんだが、誰かいないか? 儲けた分は、ここを、こうして、これでどうだ」
「悪くはないですね。ですが、もう一声どうでしょう?」
「やっぱりか? なら、ここをこうして、あーして、こうだ!」
「素晴らしいです。ただ、もう一歩ほどジャンプしてみるのはどうです?」
「ならここがこうなって、そうなって、あーして……」
話し合うこと30分、話はまとまり商人や料理人を紹介してもらえることになった唯斗。
その足は止まることなく、次の準備へ向けて疾走するのだった。
各店舗がそれぞれのプランを決定し、準備を始める中【総合銃火器販売店ガンフレイム】の主、
レグルス・レオンハート(れぐるす・れおんはーと)も企画を練っていた。
「祭りに乗った奇抜なイベントも捨てがたいが、ここは手堅く『特別セール』をするか」
外見年齢40歳くらいに見える実年齢18歳のばりばりのお兄さんが言うと凄みがある。
レグルスの店では小型から大型、訓練用鑑賞用実践用まで様々な銃火器を取り揃えている。
それだけではなく持ち手にあったものをという理念から、オーダーメイドやカスタマイズも請け負っている。
「……この際、採算は深く考えずにいくか。30〜50%の値引きを既製品、オーダーメイドやカスタマイズに当てる。それでご贔屓にしてもらえれば重畳」
「こんにちわー!」
元気よく店に入ってきたのは小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)。現在、祭り準備中の『中継基地』をいろいろ歩き回っているところだ。
「む? いらっしゃい、これはこれは可愛いお客さんだな」
「お祭りの準備中のところいろいろ見て回ってるんだ!」
「そうか。どうだ? 他のところはにぎわってるかい?」
「みんないきいきしててすっごいね! ちなみにここは何をするの?」
「銃火器なんかを販売しててな。それの特別セールをやろうと考えている。ついでにカスタマイズなんかもな」
「そうなんだー。カスタマイズってバットとかもあり?」
「バットは難しいな」
「そっかー。残念」
少しだけ落ち込む美羽にははっと明るく笑うレグルス。
「……当日は銃火器だけでなく頑張ってみるとしよう」
「うわぁお! サービス精神旺盛だね! 私もバット持って来ちゃおうかな」
「善処しよう」
「うん、ありがとっ! それじゃ当日も頑張ってねー!」
「そっちも全力で楽しんでくれ」
「うん!」
そう行って店を出て行く美羽に手を振りながら見送るレグルス。
「これは他のところの賑わいにも負けないようにしないと、ご贔屓どころじゃないか。だが祭りらしく、華があっていいな。はっはっは!」
歌舞伎者のように大笑いした後、どの商品をどれだけ値引きするかを思案し始めるレグルスだった。
「ほらほら早く始めましょう。お祭りに乗り遅れる前に」
「わかったからあんまりはしゃがない。やるならまじめに宣伝しないと」
「わ、わかってるわよ!」
「本当にわかってるのかしら?」
「わかってるってば! 今日は制服着込んできたし、ばっちりいくわよ! カメラさんーいくわよー」
いつもの服装から一転、創世学園の制服を着込んだ二人組み。
セレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)とセレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)は『大開拓祭』の宣伝PVの撮影に勤しんでいた。
『……はい。みなさんこんにちはー! ……ほら、セレアナも!』
『ごきげんよう』
『今回は大きなお祭り『大開拓祭』の舞台である『中継基地』をご紹介します!』
『お祭りの紹介とともに、『中継基地』とはどんな街なのかも併せて紹介していくわ』
『それではまずこちらからいきましょう。まずは外観。ご覧のように数多くの電波塔があるのが特徴です。こんなにいるの?というくらいあります!』
『そのため他の街や拠点において情報の送受信が困難な状況の場合でも、この街は問題なく情報管理ができるわ』
『あと何と言っても『中継基地』には巨大施設がところ狭しと群れを成しているわ。そのスケールは壮大よ!
……でもそんなに大きくしてどうするのって思ったりもするわね』
『……巨大施設の多くはこの街の経済なんかに大きく関わってくる重要な施設で、
その中にはテーマパークみたいなものもある。お祭りの時じゃなくても楽しめるわね』
『あ、そうなんだ』
『あんたね……』
『あら? あそこでせっせと準備をこなしている街の人がいるわ! 私たちも混ぜてもらいましょう!』
『宣伝用のPVはどうするの? ってもういないし』
『うわなにこれ? 面白いおもちゃね? これをこーして、えっと、あれ?』
『……なに壊してるのよ』
『あ、あははっ! そ、それじゃ次へ行ってみよー!』
『ちょっと待ちなさ』
『さあ、次はのぞきスポットがあると噂の【ニルヴァーナ温泉【獅子の湯】 】へレッツゴー!』
『……もうダメね。……【ニルヴァーナ温泉【獅子の湯】 】にはのぞきスポットは存在しないのであしからず。
ただ混浴や露天風呂はあるからそっちを利用して頂戴ね。……というかもうカメラ止めてもいいわよ?』
『ほーらー! セレアナもはやくー!』
『……はいはい』
まじめな宣伝用PVの撮影は開始数分で頓挫し、まるで二人のホームビデオのようになっていく。
が、楽しさは十二分に伝わると判断したへんた、天才カメラマンは決してカメラを中断することはなかったそうな。
余談ではあるが完成後にPVを見たときの話。
セレンは大笑いし、セレアナはしばらくの間はセレンと他人のフリをしようかと割と真面目に考えたそうな。
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