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【前編】『大開拓祭』 ~準備期間~

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【前編】『大開拓祭』 ~準備期間~

リアクション

「おうおう、この間までは災厄の渦中にあったとは思えんはしゃぎ様だな。まっ、それでこそ『中継基地』だ」
「だからといって蛇の手を借りるとは、少々やりすぎではあるまいか?」
「まあそういいなさんな。手がいくらあっても足りないんだからさ」
 ぼやくコアトル・スネークアヴァターラ(こあとる・すねーくあう゛ぁたーら)と笑って応えるローグ・キャスト(ろーぐ・きゃすと)
 『中継基地』に【イコン格納庫】【ナクシャトラ闘技場】などを設立し、祭りに併せて企画やイベントを考えその準備中だ。
 そのうちの【イコン格納庫】、【九条重工イコン武装製造工場】が使用される企画にノッリノリなのが一人。
「二人とも! こっちきて手伝ってよー!」
 油まみれになりながら最高の笑顔で手を振るのはフルーネ・キャスト(ふるーね・きゃすと)
 以上、二つの施設では合同で大掛かりなイコン展示式が予定されている。その中には独自のカスタムイコンもあるとかないとか。
 当然、イコン大好きなフルーネが食いつかないわけもなく、寝る間も惜しんで準備に勤しんでいたというわけだ。
「はーやーくー!」
「わかったわかった。ってわけでコアトル、よろしく」
「我は構わんがおぬしはどうする?」
「そりゃイコン展示式の準備を手伝いたいのもあるが、【ナクシャトラ闘技場】も放っておけないからな」
 数ある施設の責任者として動くローグ。忙しいながらも楽しさを感じていた。
「ちょっと二人ともー! お祭りの開催期間は待ってくれないんだから、早く手伝ってよー!」
 業を煮やしたフルーネが二人の下へ猛ダッシュしてきたそのままタックル。油まみれになった彼女をひっぺがすローグ。
「おいこらっ油まみれで触るんじゃない! コアトルは蛇だからいいかもしれんが、俺はノーだ!」
「いや、我とて油にまみれるのは嫌悪するが」
「いいからいいから、ぐだぐだ言ってないでほら! 準備準備!」
 ぐいーっと二人の腕(コアトルに腕はないため尻尾)を掴んで引っ張るフルーネ。
「だから他の準備もあるからここはお前らにまかせて俺は別のところへ」
「……蛇の我だからわかることもある。これは噛み付いて離さぬ蛇の執念を感じるぞ」
「……まじか?」
「大マジだ」
 そう言われたローグも改めてフルーネを見ると。
「うー……!」
 と、三白眼からはかけ離れた可愛いらしいジト目で睨みつけるフルーネの姿が。
「……わかった。こっちも手伝う。だがひと段落したら俺は別の準備にいくからな?」
「わーい! そうと決まれば時間が惜しいよ! ゴーゴー!」
 これには負けを認めたローグがついに折れ、コアトルとフルーネと一緒になってイコン展示式の準備を始める。
 その後、他の準備にてんてこまいになるローグの姿は容易に想像がつくのだが、それはフルーネの天使の笑顔に免じて許してくれるだろう。

「ミルキー? いるかなー?」
「はいここに」
「お忙しいところ悪いんだけど、相談いいかな?」
「もちろん。祭りのことであれば協力は惜しみませんよ」
「ありがたいよ。淵はちょっと待っててねー」
「了解した」
 ミルキーを尋ねたのはルカルカ・ルー(るかるか・るー)
 一緒についてきた夏侯 淵(かこう・えん)は椅子に腰掛けてしばしの間休憩を取る。
「じゃすぱっと言うね。「ニルヴァーナウォーカー」の見開き、使わせてくれないかな」
「広告紙の? 広告の内容は?」
「普段有料の【ニルヴァーサル・スタジオ】の入園料を無料ってのを大見出しに、
 来場者さんには特別プレゼントをって。あと臨時アルバイター募集をちょこんと」
「ニルスタの入園料が無料ですか。ええ、構いませんよ。それだけのことをやって頂けるのなら、こちらからお願いしたいくらいです」
「やったっ。あとできたらでいいんだけど、他の施設もちらっと乗せておいて欲しかったり」
「例えば?」
【セントラル・フォレスト・パーク】で屋台村や路上パフォーマンス大会とか、【ニルヴァーナ道】を始めとする交通機関の運行情報とか」
「成る程。各施設でイベントなどを検討しているわけですね」
「楽しんでもらいたいじゃない? 一応ホームページの方でも載せるから無理にってわけじゃないんだけど」
「いえ、まとめてさえくれれば掲載しますよ。なんだったら創設者は語る、なんていうインタビュー記事でも書きます?」
「面白そうだけど、そこまではいいかな? それじゃお願いするね。もうちょっと話したいけど他の準備があるから、ごめんね」
「はい、ではまた」
 ミルキーと広告での連携もすんなり取り付け、すぐさまバトルシュミレーターのもとへ。
 今回の祭りでもこれを使用するため、調整しなくてはならないのだ。
「うーん、さすが中佐が開発しただけあるね。結構放置してたのにほとんど完璧に動作するなぁ」
「なぁルカ? このスコアはルカと、ダリルのか?」
 淵が指差したスコア。それは以前試しプレイで叩き出した両人ハイスコアだ。
「ん、そうだね。あの時はギリギリで負けちゃって悔しかったよ」
「ほほう。……つまりダリルのスコア以上を取れば奴に勝ったことになるのだな! 楽しそうであるし、調整もかねて早速やろうではないか!」
 意気揚々と腕まくりのジェスチャーをしてシュミレーターに向う淵。
「でもダリルのスコアって相当だよ?」
 ルカルカの言うとおり、ダリルが叩き出したハイスコアは未だに誰にも抜かされていないくらい馬鹿げたスコアだったりする。
「なれば特訓だ! 特訓して、当日は直接対決で負かしてやろうじゃないか! さあやるぞー!」
「やるぞーって調整もあるからね? ……んーでも、やるんだったらルカもリベンジしたいな。今度は負けないぞー!」
 オー! という言葉が聞こえてきそうな二人である。
 が、ちゃんと調整もするあたり抜け目なくそつがないルカルカだった。

 ルカルカが調整をこなしてる時、ニルスタ内をじっくり見回っている者が一人。
 ザカコ・グーメル(ざかこ・ぐーめる)がニルスタ内の案内図とペンを片手になにやら思案しているようだ。
「さすがに広い。どう周るか、迷いどころばかりですね」
 彼は【託児所「みんなのいえ」】にくるであろう子供たちのことを考えていた。
 子供たちを楽しませるために導き出した彼の答え。
 それはニルスタを余すことなく楽しむためのデートプランならぬ、子供心プランを計画しようというものだった。
「高さ制限の乗り物は絞って、どの子でも乗れて楽しめそうな場所を中心にして」
 そう考えながら歩き回ることかれこれ数時間。
 そこまでしてでも、彼なりにこの祭りを盛り上げるためのできる努力をしていた。
「ここらへんの道は風景もいいですし、プランに加えましょう」
「そうだねー。でもでも、あっちの方の広場も思いっきり駆け回れていいと思うなっ!」
「なるほど。ですがあまり駆けると危ないですし」
「そこは強くなれ! って意思も込めて!」
「あはは、そういう考えもありますね。……楽しむだけではなく休憩もできるでしょうか。
 うん、広場はいただきですね。貴重なご意見、ありがとうございます」
「どうってことないのだ! それじゃ当日は頑張ってね、彼女とデート!」
 そう言って風のように現れて風のように去っていった美羽。
「デート、ではないのですが。でも楽しませることができるよう、楽しめるよう頑張りましょう、ははっ」
 突風のごとき美羽の登場にも驚かず、笑う。
 プランの立案に区切りもつき、そのまま宣伝へ移るザカコ。
 その顔はとても楽しそうなものだ。

「さて、ルカからニルスタ内に特別店舗を出していいって許可もらったし、本格的な準備しなきゃな」
「これで『中継基地』はにゃんにゃん基地に早変りですね」
 ねこカファ運営に全力を注ぐ男たち。
 エース・ラグランツ(えーす・らぐらんつ)エオリア・リュケイオン(えおりあ・りゅけいおん)が特別店舗の準備をしていた。
 すでに店舗内には無数の猫たちと十分にくつろげる空間が広がっている。
【にゃんこカフェ】が2店舗あるなんて素敵な街だよな。住みたいくらいだ」
「まったくですね」
「あ、そうだ。特別店舗での看板猫たちはもういるのか?」
「はい。にゃあカフェから、三毛のちまき、茶トラのきなこ、ハチワレのおはぎ、サバトラのごましお、白猫金目銀目のおもち。合計5匹」
「プラスでニルヴァーナ猫キャットシーのミーシャ。……どうする? 天国ができてしまったな?」
「できただけです。より多くの人に来てもらわなければ意味がないと思いますが?」
 薄く笑うエオリア。
「そうだな。特別店舗だけじゃなくて、にゃんこカフェの方も準備しないと……ほんとに猫の手でも借りたいくらいだな」
「だめですよ? 花嫁、花婿になる猫たちにそんな手伝いさせちゃ」
 エオリオが言う花嫁、花婿になる猫とは。
 彼らは『にゃんことお見合い』というイベントを企画していた。
 もともと、捨て猫であり現在保護している猫たちの里親を随時募集していた彼ら。
 今回の祭りを利用しねこカフェを通して、猫たちの親を募集しようと計画したのだ。
「うーん、ニルスタのホームページとかに掲載してもらおうか。ちょっとルカに相談してくるから、掲載する内容、頼めるか?」
「了解です。ついでに内装ももう少し突き詰めておきますね」
「頼むよ」
 阿吽の呼吸でぱぱっと意思疎通をこなす。
 エースは山へ芝刈りに、エオリアも山へ芝刈りに。ではなく。
 ねこカフェで人々を癒し、猫も幸せになるように行動するのだった。