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死んではいけない温泉旅館一泊二日

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死んではいけない温泉旅館一泊二日

リアクション

「……」
 御神楽 舞花は、トイレに行きたいためまくら投げが行われている中で、一人こっそりと廊下へと出た。
「半数人以上の人が、自室に帰ったわ」
「了解だぜ」
 あらかじめ準備しておいた監視カメラを見て、リカイン・フェルマータ(りかいん・ふぇるまーた)がスタンバイしているはずの斎賀 昌毅(さいが・まさき)に合図した。

「!!」
 突然廊下を青色の人魂のようなものが廊下の奥を漂いはじめた。
 思わず舞花は立ち止まり、ただ無言でその様子を眺めていた。
「くっくっ、おどろいてるぜこれは」
 闇に姿を隠し、コンビニで買ってきた「人魂君 税込123円」を片手に昌毅は肩を震わせながら笑った。
 この際だと、昌毅はポケットの中から携帯音楽プレイヤーを取り出すと、再生ボタンを押した。
「この声はいったい……」
 廊下の奥から、控え目な赤ちゃんのすすり泣く声が響き渡ってくる。
 もちろんこれは、昌毅の音楽プレイヤーによるものだ。
 舞花は冷静に状況を見極めようとする。きっと仕掛け人がやってることは間違いないとわかっていた。
 が、前に進むべきなのかほかの方法をとるべきなのかと迷っていた。。
「暴れ狼の乱入だー」
 不意に大声が廊下を響いた。
 同時に、人魂の方とは逆の方向からイノシシが1頭、こちらへと向かってくる。
「いのしし!?」
 イレギュラーの連続。旅館内で人魂に猪までは、さすがに舞花の予想をはるかに超えるハプニングだった。
 舞花はかまわず人魂が漂う方向へと走り出した。
「……くーるきっとくるー」
 その廊下の途中で短調な音楽が流れ始める。
 思わず舞花は足を止めると、そちらをみる。
 そこには、黒い髪の毛を肩下まで伸ばし、病院の白衣のようなものを身にまとった女性が立っていた。
「――!」
 思わず声にならない悲鳴をあげかける。どうにか混乱しているのを落ちつけようと深呼吸する。
「し、仕掛け人?」
「……」
 恐る恐る問いかける舞花の言葉に、その女性は答えなかった。
 その女性はただ無言で。ゆっくりと舞花へと近づいていく。
「わあっ!!」
「!」
「あ、そっちは――」
 舞花は驚き、そのままイノシシが向かってくる方向へと走っていく。
 女性はあわてて止めようとしたが、間に合わずイノシシは、そのまま舞花をはねて行ってしまった。
 舞花は最後の最後で最後の風船を失ってしまった。
「あ〜あ」
「おい、大丈夫なのか?」 
 その様子をみて、仕掛け人だった昌毅も駆け寄ってくる。
 女性、阿頼耶 那由他(あらや・なゆた)は長い髪の毛のウィッグを外すと手を横にひろげ、さあ?と言った。
「まあ、たぶん軽くぶつかっただけみたいだし、大丈夫だと思うのだよ」
「しっかし、すごいな。本物のイノシシかあれ?」
 昌毅がイノシシの走り去った方へ目を向ける。そちらではイノシシが生徒たちをところかまわず襲っているようだった。
「こりゃあ……何もしなくても寝れないな」
 ぽつりと昌毅はつぶやいた。

         §

 尚もイノシシは、廊下を突っ切り生徒たちへと襲っていく。
「山岳地帯の動物さんよーっ! 大自然100%よ!」
「これも大自然と言い張るのかよ……」
 暴走するルカルカにコードがジト目でつっこみを入れた。
 猪は当然ルカルカが猪ギフトによる、意図的に暴れさせたものだった。

「ど、どっからこんな猪だしてきたんだよ!!」
 息を切らせながら海は猪から逃げ惑っていた。
「はははっ。頑張ってるわね!」
「ど……どーでもいいから、猪を止めてくれ」
「えー……ま、いっか」
 そういうとルカルカはおとなしく猪をもとの姿に戻した。
「はあはあ……無茶しすぎ」
「ありゃ、やりすぎた?」
「あたりまえだ。加減しろ。やりすぎだろどうみても」
 息を切らせながら座り込む海に驚いているルカルカにコードは強く言い放った。
「はあ……なんか知らんうちにだいぶ人が減ったか」
「まあな、だいたいこいつが最後の追い打ちをかけたぜ」
 海とコードが周りを見渡すと、もはや風船がまだ浮いている生徒がほとんどいなくなっていた。