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第五章 銀世界決戦
「ちっ、流石に止めきるのは無理だったか」
 衝撃に、一時的に落ちた照明。
 元々、新造艦の試験飛行中だった柊 恭也(ひいらぎ・きょうや)は、細かい部分はともかくとして取り立てて大破していない『扶桑』に、満足げに頷いてから。
「おっと、こうしてる場合じゃなかったな」
 手元のコンソールを動かした。
 メインモニターだけを何とか復旧させた恭也が目にしたのは、扶桑を飛び越えていく雪の塊だった。
 ここは近過ぎる。
 あの雪の量では町を呑みこむことはないだろうが、直ぐ下にある孤児院に直撃すればペシャンコだろう。
「まぁ、あいつらが何とかするか……それに」
 背後……見えない筈のソレに、不敵に笑んでみせた。
「仕方ねぇ、見せ場は譲ってやる……決めろよ?」
 応えるように、独特のシルエットをしたイコンが、獲物を構えた。

「ったく、随分と無茶苦茶する奴がいるな」
 その最終防衛線には最後の砦が詰めていた。
 重支援型鬼鎧……鬼を思わせる独特の姿をもつイコン、その銘は魂剛
「さて、ギリギリだが間に合ったな」
「あまり機体を動かす事は出来ん。この場で迎え撃つより無いぞ」
 魂剛の乗り手たる紫月 唯斗(しづき・ゆいと)エクス・シュペルティア(えくす・しゅぺるてぃあ)の言葉に、きゅっと顎を引いた。
 ただその瞳に、真摯な光を宿して。
「緊急事態だからな、出し惜しみは無しで行くぞ」
 扶桑を越えていく雪。
「背には町、退路は無し。ならば道はただ一つ! 眼前の雪崩を断つ!」
 神武刀・布都御霊。
 それは、未来を斬り開く為に種族を超え総力を結集して鍛え上げた、至高の一振り。
 それが、今。
 雪を、空を往く雪を『斬り上げる』。
 雪崩の勢い、力の流れを逸らすようにタイミングを合わせて返し、相殺し合うように。
「畳返しならぬ、雪崩返しってトコか」
「……苦労しただろう者達には悪いが、こうして見るとキレイなものだな」
 四散し、風花のようにそっと優しく舞い落ちていく雪に、エクスは目を細め。
 扶桑と雪崩が真っ向勝負した轟音に驚いたのだろう。
 孤児院から出てくる女性や子供達に、魂剛は「もう大丈夫だ」と告げるように、手を振って見せた。

「やった、止まったぁ」
「おつかれ様、だな」
 流した先で、雪が完全に停止したのを確認し、歓喜の声を上げる歌菜に羽純はそっと口元を緩めた。
 コックピットでなければ、抱きしめて髪を撫でて労ってやれるのに。
「ま、それは降りてからでいいか」
「羽純くん何か言った?」
「いや……そうだな、温かいスープが飲みたいな、と。あぁ、孤児院で用意してくれているらしいな」
 回復した無線からの連絡に、歌菜は顔を綻ばせたのだった。