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第1章 「灼熱! 火だるまのレッド」の灼熱

「A棟にいるサラマンダーってやつは、俺が倒してやるぜ!」
 血気盛んに飛び出していったのは、柊 恭也(ひいらぎ・きょうや)だった。
 だが、彼はイコンに載っていない。さすがに、召喚獣をひとりで倒すには難しい。
「ならば、私も行くとしようか」
 メルヴィア・聆珈が、すぐに彼の後を追った。

「うおっ。……すげー熱さだな。サウナなんてもんじゃねぇ」
 プラントに入るなり、恭也が顔をしかめる。人質が乗っているという巨大ロボットのハリボテは、燃え盛る炎に囲まれていた。
「まるでマグマだな」
 メルヴィアも、額からにじむ汗を吹きながら言う。
 まずは人質を救助しよう。捕らわれたレッドに向かって彼らは走りだす。
 だが、巨大な影が行く手を阻んだ。影の正体は、尻尾の先までで五メートルはありそうな、トカゲの召喚獣。
 サラマンダーだった。
「おいでなすったか、サラマンダー!」
 恭也が身構える。彼の表情に恐怖はなく、ただ戦いを楽しむ喜びだけがあった。
 グオォォォ。
 という、獣の咆哮とともに、サラマンダーは炎を吐き出す。灼熱の火が、舐めるようにプラント内を駆けめぐる。室内の温度はさらに上昇した。
 二人の体から、汗が流れ落ちる。
 炎に直接触れなくても、この熱さでは体力がどんどん奪われてしまうだろう。
「メルヴィア! ここは時間が勝負だ。一気にかたをつけようぜ!」
「まかせろ。獣の調教はお手のものだ」
 恭也の檄にうなずいたメルヴィアは、すかさず斬糸をくりだした。鋭い糸が一閃し、サラマンダーの胴体を捕える。
 相手の動きを封じてから、メルヴィアが凛々しく言った。
「私の斬糸の前に従わぬ獣はいない!」


 決め台詞が飛び出した彼女に、敵う相手などいない。
 身動きの取れなくなったサラマンダーを、恭也が【我は射す光の閃刃】で斬りかかる。光の刃で、炎獣サラマンダーは、アジのように三枚におろされた。
 サラマンダーを倒した恭也は、すぐに人質へと向かった。巨大ロボットのなかから、レッド役の機晶姫を救出する。
「待ってろ、もう少しの辛抱だ!」
 熱さでぐったりしている『ショコラ・スクォーツ』を抱きかかえ、すぐに外へと運び出した。


 だが、戦果は彼らの完全勝利、とまではいかない。
「さすがに人手が少なすぎた……。女秘書を逃してしまったようだ」
 メルヴィアが悔しそうに唇を噛んだ。
「ま。イコンなしで召喚獣を倒したんだ。それだけでも勲章もんだぜ」
 戻ってきた恭也が、メルヴィアの肩を叩いた。たしかに彼のいうとおり、メルヴィアに落ち度はない。
 それでも彼女は納得いかない表情で、ただ一点を睨んでいる。
 その視線の先には、女秘書が逃げ出したらしき穴が、壁にぽっかりと空いていた。
「さあ、ぐずぐずしてると危ないぜ」
「そうだな」
 恭也にうながされ、メルヴィアはプラントから出る。
 直後、爆弾にサラマンダーの炎が引火し、建物は木っ端微塵に吹き飛んだ。