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―アリスインゲート1―前編

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―アリスインゲート1―前編

リアクション

 終点駅に着いた列車は無残にも”到着した”とは言いがたかった。
 停車位置が違うどころかホームと呼ぶべきところにすら列車はなく、レールの上にすら乗ってはいない。半分横倒しになった車両がタイルの地面を削り、ガラスと外装装飾をまき散らしていた。
 これで乗客に死傷者が(事前に死んでいるのは覗いて)出ていないというのがなんとも奇跡に近い。
 正確に例えるならば、その列車は”不時着した”と言うべきだろう。
 どこと知らない地を終着点にその列車は不時着した。そして、たった一度きりの走行にてそれはその役目を果たし終えていた。
 折り返しの列車も乗り換えもない。
 乗客たちは晴天のもといつもより低いホームへと足を降ろす。

 家路にも目的地にも着くことのない道に迷った者たちは、知らざる異世界の空と摩天楼を見上げていた。


1.それどころか、元世界だと君たちは行方不明である。

――Cf205

 スライド式の扉が乱暴に前へと蹴り開けられる。歪んだ鉄屑が地面で甲高い音を鳴らす。
「ぐへぇ……こんな粗雑な停車は初めてだよ……たぶん」
 小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)は半倒しの三号車から外へ出ると、制服に掛かった埃とガラスの粉を払い落とした。髪のセットも乱れている。
 壊した扉へと手を伸ばし、白磁の手を取る。
 美羽の手をしゃがみ取りアリサ・アレンスキー(ありさ・あれんすきー)は地面に降りた。
「ここは?」
「ホントどこなんでしょうか?」
 アリサと同じくベアトリーチェ・アイブリンガー(べあとりーちぇ・あいぶりんがー)が目線を彷徨わせる。見たことのない街並みに不安が掻き立てられる。ただ、
「ただ、どこかに似ている気がします」
 石とレンガの北欧的な街並みに、システマティックな浮遊装飾の広告と識別表示。何より遠くに見える巨大な鉄の壁とその向こうに見える摩天楼は、ベアトリーチェ見た街の様子は彼女に何処かの情景を想起させた。
「なんとなくティル・ナ・ノーグの【第三世界】を思い出すね」
 美羽もまた同じ事を考えていた。
「ティル・ナ・ノーグとは?」
「えーとですね……」
 疑問符を浮かべたアリサにベアトリーチェが端的に答えた。
 ティル・ナ・ノーグはパラミタ大陸南方にある妖精の国。そのハイ・ブラゼル地方にかつてあった4つの重層異世界のゲートのこと。その1つ、機械科学の進歩した架空の世界である【第三世界】のこと。
 しかし、それらの世界を繋ぐゲートはすでになくなっている。仮にここがその【第三世界】だとしてもハイ・ブラゼルもとい、元の世界に戻れる保証はない。
「ともかく、ここがどこかってことよね……」
 そう呟く美羽に野次馬の中から一人の男性が近づいてきた。
 彼女らも今気がついたが、周りには多くの人だかりができていた。当たり前だ。どこからともなく列車が街中に現れて横転したのだ。騒ぎを聞きつけて人が来ないわけがない。
 近づく男は規律的な服装をしており、腰には警棒らしきものも見えた。この土地の警察か自警団なのだろう。
「君たち……怪我は、大丈夫なのか?」
 驚くべきことなのか、それとも安心するべきなのか、彼の言葉を理解することができた。ともあれ、話ができるのは幸いだった。
 大手を振って快調であるとアピールする美羽。
「大丈夫だよ。それでおじさん誰? ここはどこなの?」
「オレはこの国境の街の保安官だ。それで、君たちはどこから来たのだ? もしかして、『ユニオン』の実験かなにかか?」
「いえ……実は何といえばいいのか……別の世界から来たというか……」
 と説明しあぐねている二人に、
「別の世界?! それってどこなの!?」
「お譲ちゃんたち、それどこの制服なんだい?」
「乗ってたアレなに?」
「変なのも乗ってるけどあれも友達?」
「アメちゃんあげるよ」
「……」
 いつの間にか野次馬が取り囲んでいました。
「何をするおまえたら、公務しっこうぼうが……げふぅッ!」
「はわわわ……!?」
「ちょっと! やめてください……!」
 不思議集団に興味を惹かれた野次馬の暴走に、二人と保安官はモミクシャになって動けないでいます。
「って、二人って……アリサは!?」
 いません。
「どこいったのよ! というかこのじょうきょうでどこいくのぉ!?」
 野次馬の中喚く美羽を残して、迷子強化人間アリサはどこかに行ってしまいました。