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闇狩の末裔たち

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闇狩の末裔たち

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 ジャタの森に出没するという夜行性の魔物とは何なのか。
 シグー集落に向けて密林を突き進んでいるふたりの姿があった。
「サレイン集落の顔ぶれは、イヌ、ネコ、クマ、キツネ、タヌキ、ウサギ、トラ、サル、えっと……ふう、思いのほかたくさんいましたね」
 思わずため息をついてしまったのは富永 佐那(とみなが・さな)
「失礼ながら、まるで動物園にでも迷い込んだみたいに、たくさんの獣人さんがいらっしゃいましたね。わたくしが察知できただけでも、カバ、ペリカン、ヒョウ、オオカミ、ライオン、トリ、ワニ、アライグマ、クモ、トカゲ、人魚なども見受けられました」
 超感覚によって獣人たちの正体を見抜いていたのは、パートナーのエレナ・リューリク(えれな・りゅーりく)
「にわかには信じられないけど。ジャタの森に対する認識を、改める必要があるみたいね」
「そう思いますわ。わたくしたちが追っている夜行性の魔物とは、この世界に生息するものとは異なるものでしょうから、その足跡は獣のそれとは違うものだと考えられます」
「足跡で判断するのはむずかしいのかな。エレナ、なにか異質な気配を感じたら知らせてくれる?」
「はい、もちろんです。やはり、獣人の手を借りるべきだったのでしょうか」
「いいえ。戦い慣れしていない集落の住人を連れ出すのは危険だよ。野生の動物を狩るのとは違うわけだし」
「確かにおっしゃるとおりかもしれません。戦い慣れしていないということは、この辺りはとりわけ平和なのかも知れませんね」
 順当に歩を進めていたふたりがシグー集落に到達するのを目前に、エレナが不穏な気配を察知した。
「お待ちになってください」
「どうしたの」
「何やら禍々しいものを感じますわ」
 夕闇に襲われて薄暗くなりかけた山道に、どす黒い染みのようなものが泡立ちはじめていた。気泡が徐々に大きくなり、ひときわ大きなあぶくが盛り上がると、ひと息で人間のような体躯を成した。地に着くような長くて太い両腕の一面に、無数の瞳が見開いた。
 佐那は愛用する短刀を両手に引き抜くと、未知の存在と対峙した。
「これが、噂のモンスター?」
「いえ、敵対する必要はございませんわ。彼は確か……ヌギル・コーラス。蒼き空を喰らうモノですわ」
「何者なの?」
「理に囚われない存在、かしら」
 ヌギル・コーラスは佐那とエレナに背を向けると、足音も無く深い森の奥へと消えていった。
「まったく波羅蜜多って、奥が深いね」
 ホッと胸をなで下ろしたのも束の間、エレナの脇にある茂みが激しく音を立てた。
「何者だっ」
 佐那の風術が茂みの奥を捉えると、ひとりの男性が絡め取られてきた。
「待てっ、わたしだ、わたしっ」
「こんな所で何をされてたんですか」
「散歩がてらの簡単な調査が、つい夢中になってしまってな。まあ、女子に斬られてお陀仏するなら、魔物に食われるよかイイかもしれんがな」
 短刀で両断しかねなかった男は、エルポン先生だった。