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闇狩の末裔たち

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闇狩の末裔たち

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 ジャタの森に入ってから3日の午後。
 サレイン、シグー集落を経由したエルポン先生たちは、丘の斜面に大きく口を開けた遺跡の入口へとたどり着いた。
「いやあ、長旅ご苦労様でした。ここがわたしの発見した巨大遺跡です。いよいよ本番ですよ。皆さん、よろしく頼みます」
「うわあー、でっけー穴だなあっ! みてよエイカっ」
「みてるみてるっ。弾、スッゴイところ来ちゃったよねーっ!」
 身の丈よりも遙かに大振りの大剣を肩に担いでいるのが、風馬 弾(ふうま・だん)。一緒になって感動しているのがエイカ・ハーヴェル(えいか・はーゔぇる)である。
「デジタルビデオカメラで撮っておこうか?」
「それいいかもっ」
「そーら、たむたむ、起きてごらんよ、遺跡だぞ、巨大遺跡っ。なんだ、おかし食べるか?」
 たむたむ、というのは、弾の懐で丸くなっているミニキメラだ。
「――はあっ……ちょっとお、そんな調子でホント大丈夫なの? ピクニックとは違うんだからねっ?」
「へーきだよっ。足手まといになんか、ならないんだから」
「頑張ってー、弾。ファイトファイトよっ」
「じゃあ、お手並み拝見といこうじゃない。弾って言ったわよねあなた。あたしと一緒に、エルポン先生の先頭に立って、悪と戦うのよっ!」
「いいよ。そのかわり、ちゃんと戦えたら、お姉ちゃんは、僕を戦士だと認めてくれる?」
「正義のために戦い抜いた時は、考えてあげるわ」
 そう啖呵を切ったのは、藤林 エリス(ふじばやし・えりす)だ。
「oh.にっぽんの男児ハ、強く逞しくなければいけまセーン。ミーもご一緒させていただきマースッ」
「じゃあ決まりねっ。いくわよ、アイリ」
「わかりましたエリスさん。私は、エルポン先生の後からお守り致します」
「あー、えーっと君たち、勝手に出発しないでもらえるかね。おーいっ!」
 すると正子がエルポン先生を担ぎ上げると、遺跡の中へと突進していった。
「……さてさて、無事に踏破できるといいのですが」
 エルポン先生一行を影ながら見守っていたひとりの忍も、その後を追う事になった。

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 長い下りの回廊が続いていた。側壁から天井までが巨大なタイルのようなもので平されていることから、高度な技術によって築かれたものであると一目で分かった。通路の幅はゆうに10メートルはあり、天井に至っては薄暗くてよく分からないほど高いようだ。
 壁面のくぼみにはどういう仕組みか炎が燃えており、明かりを採る必要がない。
「足跡がある」
 弾が発見したのは、人間が靴底でつけたものだった。
「わしらよりも先を行く者があるという事だよ」
「それはいただけませんね。皆さん、急いで追いつきましょう」
 くわえパイプを懐にしまい込んだエルポン先生が、皆を急き立てた時だ。
 敵の気配を察知したエリスが、皆を振り返る。
「何かが向かってくるみたい。みんな気をつけてっ」
「オー、ケーイ。コノ世の名折れハ、カタナ・ブレードで首ハネヨ、デースッ」
 遙か前方の闇より飛来したのは、機晶兵器と片半身が融合されたリザードマンだった。背面の噴射機構を巧みに操り、片腕から生えた半月刀を突きだしている。
 まじかる☆くらぶに軽く口付けしたエリスは、それを頭上に高く掲げた。
「アイリっ、いくわよっ!」
「はい」
 エリスの『まじかる☆くらぶ』とアイリの『魔法のタクト』が交差すると、眩い光があふれ出し、リザードマンの編隊を遙か遠くまで跳ね返した。

「「 変身! 」」

 無垢な姿となったふたりはアルティメットフォームの発現によって魔法少女に相応しい心身へとみるみる成長を果たした。きらびやかなコスチュームに身を包み、仕上げのドレスアップが為されていく。

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『愛と正義と平等の名の下に! 人民の敵は粛清よ!
       革命的魔法少女、レッドスター☆えりりん!』

『魔法少女、アウストラリスっ!! 見参!』

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「うわあ、お姉ちゃんたちって、魔法少女だったんだ……すっげー」
「間近で見るのって、あたしも初めてだよ」
 呆気にとられる弾とエイカを余所に、一同は遺跡のセキュリティ兵器と思われるリザードマンたちと戦闘を繰り広げていた。
「さあ、かかって来なさいっ」
 十分に加速しきった半機晶兵器リザードマンに、狙い澄ました『まじかる☆くらぶ』の一撃が叩き込まれた。背中の推進装置に異常を来たしたリザードマンはあらぬ方向へ飛び上がると、そのまま墜落して機能を停止したようである。
「随分と手の込んだセキュリティのようです。機晶兵器と生物の融合……これはポータラカ人の手が入った研究施設に転用されていたのであろう」
 襲い来る半月刀を手刀で払いのけた正子は、生身の半身めがけて疾風突きを繰り出した。
「わしの手刀で折れなかった半月刀……『ギフト』の実装だとでも言うの?」
「ポータラカ人がジャタの森に生息しています。サレイン、シグーにも少数」
 正子に耳打ちをして姿を眩ましたのが、紫月 唯斗(しづき・ゆいと)
 半機晶兵器リザードマンの後続らしい人型機晶兵器は、短銃と大型砲弾を握らされた暴走兵器のようである。
 エルポン先生の前に立ちはだかったティファニーが薙刀を十字に振り抜くと、蒼い閃光が宙空に煌めいた。エルポン先生の両端に、割れた弾丸が穿たれる。
「ブシドーに邁進するミーにかかれば、イカナル物も、マップターツ、ヨ」
 続けざまに発射された大型砲に驚いたティファニーのフォローに入ったのは唯斗だった。強烈な風術で砲弾の軌道を逸らし、事なきを得る。
「ティファニー、真面目にやってください」
「oh.ユーは、シズキ。ハイナの付き人サンが……uh……どうかされましたカ?」
「どうかされましたか、ではありません。どうしてこの様な所に居るのですか」
「シュギョ(修行)でーす。これしきのダンジョン、ひとつやふたつ平らげなけれバ、ハイナの側近なぞ、勤まりませんネ。ほらシズキ、手伝ってくだサイ」
「手伝うとは――こ、これは、手強い……」
 唯斗の前に立ちはだかったのは半機晶兵器オーガ。身の丈は優に3メートルはあり、腕の太さも唯斗の胴ほどもある。
「これを相手にするほど俺もヒマはないのですが……まあまて、おいっ!? ティファニー」
 気づくと半機晶兵器オーガと半機晶兵器ドラゴンに囲まれて居るではないか。
「俺ひとりでやりなさいと言うのですかっ、えっと、アイリっ! ぐぬぬっ、少しはこちらのサポートにも気を回して欲しいものだが……気配を殺していたのが仇となったかな」
 このまま半機晶兵器を残してゆくわけにもいかないと判断した唯斗は、アトラスの拳気に力を凝縮させた百獣拳で、半機晶兵器オーガの頭部を打ち砕いた。その身のこなしは俊敏で、黒き狼の幻影をまとうほどだ。
 頭部を打ち砕かれた半機晶兵器オーガは機能を停止する。オーガの広い肩を利用して大きく跳躍した唯斗は、静かなる闘気にその身を委ねた。半機晶兵器ドラゴンの機晶兵器部分に、錐揉みキックが突き通った。
 機晶石を打ち砕かれた半機晶兵器ドラゴンは為す術もなく地に倒れた。
「ティファニーにはまず、忍びとは何たるかを諭さねばならぬようです」
「ノンノン。ミーはクノイチではなく、アイリさんのようなマジカル・ウィッチのようなモノ……アメリカン・サムライ・ガールと、呼ばれますネ。その様な者デスッ」
「しかし奉行に忠義を尽くす身としては、その心構えを何とせねばなりません」
「ミーはエルポンを担いで先へ進みマース」
「うぬぬ……こ、これは先が思いやられそうです」
 ブラックコートに身を包んだ唯斗は、ティファニーらを追走するべく闇に消えた。

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機晶兵器の数は徐々に増しつつあったのだが、こちらの戦力にもまだ余裕がうかがえるようだ。
「こんな話は知ってる? 日本人の死因一位は、ハラキリなんですよっ」
「エイカ、ソレは間違っていますネ。真のブシドーたるもの、ハラキリでは終わらず、その後の“ナサケ”によって振るわれるカタナ・ブレードで、首を刎ねられマス」
「情け?」
「Yes.情けに甘んじ三途へ旅立つのが、サムライの潔い死に方というモノ。これがブジン(武人)のセオリー、ネ」
「はゎあー、それは知りませんでしたあっ。それじゃ、それじゃ、弾が実は落ち武者だったのっ。凄いと思わない?」
「弾サンが落ちムシャ。彼は誰がためニ、戦うのデス?」
「みんなのためっ」
 無数に押し寄せてくる半機晶兵器スパイダーを自慢の大剣で横凪に蹴散らした弾が、ティファニーに答えた。
「エイカ、キミもいい加減にしなよ。おしゃべりしてるヒマがあったら、戦ってっ」
「だーって、ティファニーちゃんとお話しするの楽しいんだもんっ」
 脚を切断されてもがき続ける半機晶兵器スパイダーに、エイカは氷術で動きを封じ込め、雷術で機晶兵器の自由を奪い、炎術で真っ黒に焼き上げ、仕上げにアシッドミストで地に還していった。
「なんか魔法って、ズルイよなあ……」
 大剣から機晶兵器の残骸を振り落とした弾に、エルポン先生が背中合わせに貼り付いた。
「ふふん、弾くん。どうやらわたしと気が合いそうですね」

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「ようやく一掃できましたね」
 ひと息ついたアイリが変身を解くと、武器を納めたみんなが集ってきた。
「エルポン先生は、どうして魔法がお嫌いなのです」
 そう切り出したのは正子だった。
「ええまあ、魔法を使える人に恨みを持つわけじゃありませんがね」
「回りくどいこと言ってないで、ハッキリとワケを話しなさいよおっ」
 エリスに叱咤されたエルポン先生は、嬉々として理由を打ち明けはじめた。
「実はですね、わたしは魔法の天才なのですよ。その実力を見せましょう」
 皆を制したエルポン先生は、懐からくわえパイプを取り出して口に含んだ。そして両手を胸の前に掲げて、何やら呪法の詠唱を始める。
 彼の資質をまっ先に見抜いたのは、正子である。
「――これは英雄クラスの魔法、グラウンドストライク……この未来人、なかなか見所がありそうですよ」
 術者の前に複雑な円陣が描かれるも、それ以上の現象は生み出されずじまいだった。
「ふう。まあ、ざっとこういうワケですね」
「つまりその……エルポン先生には魔法力がほとんど備わっていない、と言うことですね」
「ご明察ですよ、アイリくん。指先に炎術を灯すことすら叶わないのです。この様でいったい、わたしにどうしろというワケです。ですから私はイコン趣味に走りました」
「バッカみたい」
「放っておいてください」
「そんな事で魔法がキライになるなんて、なんて迷惑なのっ。全世界の魔法少女に、謝ってみてっ」
「ふん、わたしの勝手ですよ」
「ここにふたり居るから」
「お断りですよ」
 エリスとエルポン先生の茶番劇は、このあとしばらく続いた。