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賑やかな夜の花見キャンプin妖怪の山

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第二章 妖怪と楽しむ花見


 花見会場。

「これが夜光桜なのね。舞い散る花びらも光ってなかなか綺麗……あれは長曽禰さん」
 夜光桜の話を聞きつけやって来た月摘 怜奈(るとう・れな)は夜光桜からぶらりと一人歩く長曽禰に視線を移した。
「……声をかけてみようかな。でもここに来ているという事は誰かに誘われたからかもしれない。それなら迷惑よね。どうしよう。でも……って、あまり深く考えないようにしましょう」
 怜奈は発見するもあれこれ考えなかなか声をかけられないでいた。長曽禰は怜奈にとって尊敬する上司であり少し気になる存在だから。

 意を決した怜奈は
「長曽禰さん!」
 声をかけてゆっくりと近付いた。
「……ん、怜奈か」
 声をかけられ怜奈に気付いた長曽禰は足を止めて怜奈が来るのを待った。
「……お前も花見に来ていたのか」
 長曽禰は怜奈がやって来るなり挨拶代わりの質問をした。
「はい。夜光桜の話を聞いてどのような物か見たくて、あの長曽禰さんは……桜、お好きですか?」
 怜奈は質問に答えてから質問をした。いつの間にか二人は並んで歩いていた。
「嫌いではねぇな」
 長曽禰は夜光桜を見ながら微妙な感じで答えた。熱烈に桜が好きという訳ではないが、嫌いという訳ではないといった感じである。
「そうですか。私は好きです。桜が咲いてるのを見ると微笑ましくなりますし、それだけでなく見ているといろいろと思い出します」
 怜奈は予想通りの返事に笑みを浮かべながら茶色の瞳に回顧の光を宿していた。
「……何か桜に思い出でもあるのか?」
 長曽禰は怜奈の瞳の輝きに気付いた。
「まだ言ってませんでしけど私、地球に居た頃は警視庁に勤めてたんですよ」
 怜奈は夜光桜から長曽禰に視線を移し、軽く笑いながら身の上を話し始めた。
「そりゃ、また大変な所にいたな」
 長曽禰もつられたように笑いながら言った。
「えぇ、警視庁の捜査一課で刑事をしていたんですが……とある事件を切欠に警視庁を退職したんですけどね。思い出すのはそればかりではありませんけど。地球で毎年花見をした事とか。こっちと違って普通の桜ですけど、とても綺麗で」
 怜奈が思い出したのは刑事だった事だけでなく毎年していた花見も含んでいた。ただし花見の桜はただの桜だったが。
「こんな発光する桜そうそう無いだろうしな」
 長曽禰は歩く自分達の横を通り過ぎる輝きを弱めながら舞い散る花びら見送りつつ言った。少しだけ口元に笑みを浮かべて。
「えぇ。だからこうして少しだけ驚いています。このパラミタで花見の機会に巡り会った事や桜が光る事に」
「ついでに妖怪入り乱れての騒ぎとか」
 と長曽禰。ここからでも妖怪が入り交じるどんちゃん騒ぎが聞こえてくる。
「そうですね。それも地球にはありませんよね……おぁっと」
 長曽禰の言葉にうなずいた時、怜奈は自分の右足に何かがまとわりつくのを感じると同時にバランスを崩し転びそうになってしまった。
「おいおい」
 長曽禰が慌てて転ばないように怜奈を支えた。
「すみません。何か足元にまとわりついて」
 怜奈は申し訳なさそうに礼を言った。
「……足元? 何かちっこい生き物がいるぞ。妖怪か?」
 長曽禰は怜奈を支えたまま足元に目を向けた。小さな猫か犬を思わせる生き物が怜奈の足に擦り寄っていた。
「……小さい生き物ですか? これは確かすねこすり、ですね。妖怪のはずですよ。足をこするだけの害の無い妖怪です。これだけ小さいと子供かもしれませんね」
 怜奈も足元に目を落として確認。『博識』を持つ怜奈は生き物の正体がすぐに分かり、屈んで雄のすねこすりの頭を撫でた。
「きゅうきゅうん」
 すねこすりは怜奈に何かを訴えるかのように鳴いた後、前方に顔を向けてから歩いて行く。
「……何かを訴えているようですね。気になるので行ってみます。一人で大丈夫ですから長曽禰さんはお花見を楽しんで下さい」
 怜奈は長曽禰が何か言う前に一言断ってからすねこすりを追いかけた。
 怜奈の姿はすぐに見えなくなった。
「……って、早いな。まぁ、あいつなら心配無いか」
 長曽禰はリース達の店に向かい飲食物を買ってからローズの元に戻った。怜奈の事は信頼しているためか心配はしていなかった。

 会場から随分離れた所。

 怜奈が導かれたのは木の枝に引っかかり身動きが出来ずにいる雌のすねこすりの所だった。
「はい。もう大丈夫。もう気を付けるのよ」
 怜奈は手早く雌のすねこすりを助けてやった。
「怪我はしていないみたいね。この子はもう大丈夫よ。知らせてくれてありがとう」
 怜奈は助けたすねこすりに怪我が無いのか確認してから自分を呼びに来たすねこすりに笑いかけた。
「きゅうん」
 二匹のすねこすりは礼を言うように鳴いて怜奈に擦り寄ってから仲良くどこかに行った。
「ふふふ、気を付けるのよ」
 怜奈は手を振りながらすねこすり達を見送った。
「……私ももう少し桜を見てから帰ろうかな」
 怜奈はゆっくりと夜光桜見学に戻った。

 花見会場から随分離れた場所。夜光桜の下、川原。

「……ん〜、気持ち良いね。二人に感謝だよ。まさか露天風呂でお花見だとは思わなかったよ。しかも夜光桜の下で星空も綺麗だしとても贅沢だよ。これを用意するの随分大変だったんじゃないかな。少し申し訳ない気がするよ」
 頭上の星空や光を弱めながら舞い散る花びらを楽しむアゾート・ワルプルギス(あぞーと・わるぷるぎす)が言った。
 ノエル・ニムラヴス(のえる・にむらゔす)に花見に誘われ来てみたら待っていたのはブルーシートを被せられた掘られた風呂穴だった。その近くの側面下の方に蛇口を取り付けたドラム缶を置き、火が炊かれいつでも入浴可能となっていた。ドラム缶と手作り風呂の間に溝が掘られシートを被せて湧いたお湯を流せるようにした風馬 弾(ふうま・だん)手作りの露天風呂。ノエルとアゾートは到着するなり弾が設置した更衣室で水着を着て入浴しているのだ。
「……アゾートさんに喜んでもらえると言ったら、弾さん、大はりきりでしたよ。だから、申し訳ないとか思わずに存分に楽しんで下さい」
 ノエルがペロッと弾のアゾートへの気持ちを耳打ちした。弾に心の中で謝りながら。
「……そうだね」
 アゾートはにっこりと笑い、夜光桜を見上げた。
 そこに
「湯加減、どう?」
 ノエルが自分の気持ちをばらしたと知らない弾の声が響く。
「……少しぬるくなりましたからもう少し熱くして下さい」
 ノエルが声大きく報告した。

 湯加減担当の弾。
「……ふぅ」
 弾は息を吐きながら湯を熱くするために火を炊く。風呂を作るだけでなく水を汲んで火を炊いてノエルに瞬殺されるかもしれないと二人の入浴を覗かないように気を遣ったりと汗だくであった。何せお湯が冷めやすい作りだので。しかし、アゾートのため弾は頑張る。この露天風呂は弾がノエルに相談し、ノエルが提案した作戦だ。
 そんな弾の背後に
「お兄ちゃん、大変そうだね。あたしの火噴きトカゲの赤助が手伝うよ」
 幼い少女の声がしてきた。
「ん?」
 弾が声に振り向くと同時に小さな火が大きくなり弾の仕事をあっという間に片付けてしまった。
「あたし、雪ん子のゆき。赤助は友達だよ。お兄ちゃんが何かしてたのずっと見てて大変そうだったから」
 赤色のトカゲを抱えた雪ん子の少女が立っていた。彼女は弾が小型飛空艇で重い物を運んだりして露天風呂を作っているのを密かに眺めていたのだ。ただなかなか声をかけられなかっただけだ。
「……ありがとう」
 弾は思わぬ出来事に驚くも礼を言った。
 弾とゆきは雑談をしながらお風呂番をした。ゆきの視線が羨ましそうに露天風呂に向けられていた事を弾は見逃さなかった。

「弾さん、気持ち良かったですよ」
「最高のお花見になったよ」
 ノエルとアゾートは入浴を終えすっかり湯上がり美人となっていた。
「……アゾートさん、お風呂上がりで申し訳ないんだけどいいかな?」
 弾はちろりとゆきを見た後、風呂を楽しんだ後で申し訳ないと思いつつ口を開いた。
「何かあった?」
 アゾートは用件を話すように弾を促した。
「……この子もお風呂に入れるように出来ないかな?」
 弾は申し訳ない気持ちのままアゾートにゆきの事を相談した。
「お兄ちゃん、知ってたの?」
 気持ちを見透かされたゆきはあまりの事に驚くばかり。
「知っていたよ。ゆきちゃんがお風呂にとても入りたいと思っている事。それで、アゾートさん、何か方法はないかな?」
 弾はゆきに優しく答えてから話を元に戻した。
「……雪ん子だね。少し手間は掛かるけどあるよ」
 アゾートはゆきと弾の顔を見比べた後、錬金術で溢れる頭の中を探り、見つけた。
 温泉の楽しみである暖かさを感じつつも体に影響を与えない体に塗って暑さを防御するオイルを。
「手伝うよ」
「私も協力します」
 弾とノエルはゆきと一緒に素材を探しにかかった。地元民のゆきのおかげで素材はすぐに揃った。アゾートは集まった素材を手早く調合し薬を完成させた。

 薬完成後。
「これが温泉かぁ〜、ありがとーー」
 更衣室で水着に着替えたゆきは楽しそうに露天風呂で泳いでいた。
「ゆきちゃん、良かったですね」
 万が一に供えて一緒に入ったノエルはゆきの姿を微笑ましそうに眺めていた。

 ノエルとゆきの入浴中。
「ゆきちゃんもお風呂に入る事が出来て良かった。アゾートさんのおかげで何とか出来たよ、ありがとう」
 赤助と火炊き番をしながら弾はゆきの願いを叶えたアゾートに感謝した。
「何とか出来たのはボクのおかげじゃないよ。キミがあの子の力になりたいと言ったからだよ。雪ん子だから熱い温泉は無理だと無視する事だって出来た」
 アゾートは頭を軽く左右に振りながら一般的な事を口にした。
「そんな事は出来ないよ。悲しむよりみんなが笑っている方がずっと好きだから」
 弾はゆきの笑い声を聞きながら自分の意見を主張した。
 すると
「キミのその優しい心は素敵だと思うし好きだよ」
 アゾートは笑顔を浮かべて言った。その胸の内では妖怪の山で起きた事件に巻き込まれた自分を助けに行き、怪我を負った弾の姿やその事件の思い出を払拭させようと自分を花見に誘ってくれた事。弾は言葉にはしなかったが、アゾートには分かっていた。
「……あ、ありがとう」
 純情な弾は礼を言いながらも照れて顔を逸らしていた。何とかアゾートを笑顔にする作戦は見事に成功した。
 この後、露天風呂はゆきの宣伝により多くの妖怪達が楽しみにやって来た。